奴隷解放
前書き
若き女騎士アリアは、ネクロマンサーの少年エリオット、そして道中で出会った孤児の兄妹レンとミリアと共に、商業都市エルマを訪れた。活気に満ちた街の裏には、人々の魂を蝕む深い闇が潜んでいた。それは、奴隷市場に囚われた人々、特に希少な「癒しの力」を持つ少女を巡る、非道な陰謀だった。この街に蔓延する不正を正すため、そして囚われた人々を解放するため、アリアたちの新たな冒険が今、始まる。
商業都市エルマの影
照りつける太陽が、石畳の道をじりじりと焼く。蒸し暑い空気が肌にまとわりつく、商業都市エルマ。そこは、活気に満ち溢れていた。色とりどりの旗が軒先に掲げられ、行商人の賑やかな声が響き渡る。
「本当に賑やかな街ね」
アリアは、街道を歩きながら、目を輝かせていた。彼女の金髪が、太陽の光を反射してきらめく。鎧は街道の旅で少し汚れていたが、彼女の凛とした表情は変わらない。
「うわぁ!見てみて、レン!」
ミリアは、レンの腕を掴み、興奮したように言った。彼女の瞳は、初めて見る大きな街の景色に、きらきらと輝いている。
「ああ、すごいな。でも、人混みにはぐれないよう、アリアたちのそばを離れるなよ」
レンは、そう言って、ミリアの手をしっかりと握った。
「ああ。だが、この街には、妙な闇が渦巻いている」
アリアの隣を歩くエリオットは、フードを深く被り、その顔は影に覆われている。彼の目は、街を行き交う人々の顔を、注意深く観察していた。
「闇?どういうこと?」
「言葉では説明しにくい。だが、この街には、人の魂から発せられる、不純な魔力が満ちている。それは、悲しみや絶望といった、負の感情が生み出すものだ」
エリオットの言葉に、アリアは眉をひそめた。彼女の感性では、そこまでの深い闇は感じ取れない。彼女が感じるのは、ただ、この街の活気だけだった。レンとミリアもまた、活気に満ちた街の様子に目を奪われており、エリオットの言葉の真意を理解することはできなかった。
四人が街の中心部に差し掛かると、一つの光景が目に留まった。そこは、奴隷市場だった。鉄格子で囲まれた広場に、痩せ細った人々が、鎖に繋がれて座り込んでいる。彼らの目は虚ろで、希望を失っているようだった。
「ひどい……」
アリアは、思わず声を漏らした。彼女にとって、奴隷という存在は、過去の物語の中にしか存在しないものだった。
「な、なにこれ……?」
ミリアは、その光景に、恐怖に顔を歪ませた。レンは、ミリアを抱きしめ、アリアの背中に隠れるようにして、怯えていた。
「これが、この街の闇か……」
エリオットは、静かに呟いた。彼の視線は、広場の一角に釘付けになっていた。そこには、一人の少女と、彼女を守るように座り込む、筋肉質な年配の男がいた。少女は、ボロボロの服を着て、怯えた目で周囲を見回している。男は、彼女を背中で庇うようにして、鋭い視線を周囲に向けていた。
「あの二人……」
アリアは、その二人の間に流れる、特別な絆を感じた。それは、血の繋がりではない。だが、まるで親子のように、互いを大切に想い合っているのが伝わってきた。
その時、奴隷商人らしき男が、二人の前に現れた。男は、太鼓腹で、下卑た笑みを浮かべている。
「おい、爺さん。その小娘は、お前と一緒に売りに出すには、あまりにも価値が高すぎるぜ」
奴隷商人は、年配の男を小突きながら言った。男は、無言で奴隷商人を睨みつける。
「なんだ、その目は?いいか、この街では、奴隷は物だ。お前がどんなに守ろうと、この娘は、高い金で売られていくんだよ!」
奴隷商人は、高笑いした。その時、アリアは、一歩前に踏み出した。
「待ちなさい!」
アリアの声に、奴隷市場の喧騒が、一瞬だけ静まった。奴隷商人は、眉をひそめて、アリアを見つめた。
「なんだ、お前は?この商売に口を出すつもりか?」
「私は、旅の騎士、アリア。奴隷を物として扱うなど、許されることではないわ!」
アリアは、毅然とした態度で言い放った。彼女の言葉に、奴隷商人は、鼻で笑った。
「騎士様だと?ここはエルマだ。お前の言う『騎士道』など、何の役にも立たない。ここは、金が全てだ!」
奴隷商人は、再び、少女を掴もうとした。その時、エリオットが、一歩前に進み出た。
「貴様、その手で、彼女に触れるな」
エリオットの声は、冷たく、静かだった。彼の周囲には、目に見えない魔力が渦巻いている。奴隷商人は、その魔力に気圧され、思わず後ずさりした。
「な、なんだ、お前は……?」
「俺は、ネクロマンサー、エリオット。お前のような腐りきった魂を弄ぶことなど、造作もない」
エリオットは、静かに言い放った。奴隷商人は、その言葉に怯え、少女から手を放した。
「覚えてろよ、騎士様!ネクロマンサー!この街で、俺に逆らったことを、後悔させてやる!」
奴隷商人は、捨て台詞を残し、その場を立ち去った。アリアとエリオットは、奴隷たちの方へ向かった。
「大丈夫ですか?」
アリアは、少女に優しく声をかけた。少女は、怯えた表情で、アリアを見つめていた。年配の男は、アリアの問いに、無言で頷いた。
「私は、アリア。この方は、エリオット。あなたたちは……?」
「俺は、ヴァルガス。この子は、リナだ」
男は、低い声で答えた。彼の声には、深い疲労と、少女を守ろうとする、強い意志が感じられた。
ヴァルガスの話を聞くと、彼らは、故郷の村が魔物によって滅ぼされ、この街へと連れてこられたという。リナは、ヴァルガスの親友の娘で、彼は、リナの母親に、彼女を守ると誓ったらしい。
「リナは、特別な力を持っている。だから、奴隷商人に狙われているんだ」
ヴァルガスは、苦しそうに言った。
「特別な力?」
「リナは、**『癒しの力』**を持っている。触れただけで、傷や病を癒すことができる。その力を、奴隷商人は、金儲けに利用しようとしているんだ」
ヴァルガスの言葉に、アリアとエリオットは、顔を見合わせた。癒しの力は、この世界でも非常に希少な能力だ。それが、奴隷商人たちの標的になるのは、当然のことだった。
「その力で、ヴァルガスさんの鎖を解くことはできないの?」
アリアが尋ねると、ヴァルガスは、悲しそうに首を振った。
「リナの癒しの力は、肉体的な傷や病にしか効かない。呪文や魔法によってかけられた鎖は、解くことができないんだ……」
ヴァルガスの言葉に、アリアは、唇を噛み締めた。
「エリオット、どうにかできない?」
アリアがエリオットに視線を向けると、彼は、首を振った。
「この鎖は、特殊な魔力によってかけられている。俺の力でも、そう簡単には解けない」
エリオットは、ヴァルガスの鎖に手をかざし、その魔力の流れを確かめていた。
「だが、この鎖の魔力には、所有者の印がある。もし、この鎖をかけた奴隷商人を捕らえ、その印を消すことができれば……」
エリオットの言葉に、アリアは、希望の光を見た。
「そうね!じゃあ、奴隷商人を捕まえましょう!」
アリアは、意気込んだ。だが、ヴァルガスは、悲しそうに言った。
「やめておけ、騎士様。あの男は、この街の領主と繋がっている。もし、彼に手を出せば、この街全体を敵に回すことになる」
ヴァルガスの言葉に、アリアは、驚きを隠せない。領主が、奴隷商人という不正に手を染めている……。
「それでも、放ってはおけないわ!この街の不正を、必ず暴いてみせる!」
アリアの強い意志に、ヴァルガスは、黙って頷いた。
第一章:情報収集と潜入
一日目、情報収集。アリアとエリオットは、まず、この街の領主、グラハム卿について、情報収集を始めた。レンとミリアは、アリアたちのそばを離れないよう、静かに見守っていた。宿屋の主人や、酒場の客に話を聞くと、グラハム卿は、表向きは善良な領主として知られていた。街の治安を維持し、商業を繁栄させている。しかし、その裏では、闇の商売に手を出しているという噂が絶えなかった。
「グラハム卿は、奴隷市場から得た金を、私腹を肥やすために使っているらしい」
宿屋の主人が、小声で四人に話した。
「それだけじゃない。グラハム卿は、**『特別な奴隷』**を、高い金で買い取っているらしい。それが、癒しの力を持つリナのような存在だ」
酒場の客が、顔を青ざめながら言った。
「グラハム卿の館は、この街で最も大きな建物だ。だが、その地下には、**『秘密の牢獄』**があるらしい。そこに、特別な奴隷たちが閉じ込められていると……」
アリアとエリオットは、集めた情報を整理した。グラハム卿が、奴隷商人たちと繋がり、癒しの力を持つ奴隷を、不当な手段で集めている。そして、その奴隷たちを、秘密の牢獄に閉じ込めている。
「明日、グラハム卿の館に忍び込むわ。地下の牢獄を突き止め、証拠を見つけるの」
アリアは、決意を固めた。
「グラハム卿の館は、強力な魔力によって守られている。俺の力でも、正面から突破するのは難しい」
エリオットは、冷静に言った。
「だから、忍び込むのよ。きっと、弱点があるはずだわ」
二日目、潜入と証拠探し。アリアとエリオットは、夜、グラハム卿の館に潜入した。レンとミリアは、アリアたちの無事を祈りながら、宿屋で待つことにした。館の周囲には、強力な魔力障壁が張られている。だが、エリオットは、その障壁に、わずかな隙間があることを見抜いた。
「ここだ。この隙間からなら、なんとか潜り込める」
エリオットは、アリアを先導し、障壁をくぐり抜けた。館の中は、豪華な装飾が施され、高価な美術品が並んでいる。だが、その豪華さが、逆に、この館の持つ闇を際立たせているようだった。
「地下牢獄の入り口は、どこかしら?」
アリアは、周囲を警戒しながら言った。エリオットは、地面に手をかざし、魔力の痕跡を辿っていた。
「こっちだ。この廊下の先に、地下へと続く階段がある」
エリオットの導きに従い、二人は、地下へと続く隠し扉を見つけた。扉を開けると、そこには、暗く湿った階段が続いていた。階段を降りると、そこには、噂通りの秘密の牢獄があった。
牢獄には、たくさんの人々が閉じ込められている。彼らは、リナと同じように、癒しの力を持つ奴隷たちだった。彼らの顔は、絶望に満ちており、生気を失っている。
「なんてひどい……」
アリアは、その光景に、胸が締め付けられるようだった。
「奴隷商人が、リナのような特別な奴隷を、金で買い取っていたのは本当だったのね」
エリオットは、牢獄の中を歩き回り、壁に手を触れた。
「この牢獄は、ただの牢獄じゃない。彼らの力を、強制的に吸い上げるための装置が、壁に埋め込まれている」
エリオットの言葉に、アリアは、愕然とした。
「力を吸い上げる装置?一体、何のために……?」
「分からない。だが、この装置の魔力は、グラハム卿の館全体を動かしているようだ。もし、この装置を破壊すれば、この館の防御システムは……」
エリオットは、言葉を切った。彼の顔には、深刻な表情が浮かんでいる。
「待って、エリオット。あの男が、リナの力を欲しがっていたのは、自分の病気を治すためだと思ったけど……」
アリアは、首を傾げた。エリオットは、首を振った。
「違う。あの男は、病気じゃない。彼は、**『死の呪い』**に侵されている」
エリオットは、小声で言った。
「死の呪い?どうして、そんなことが分かるの?」
「俺は、ネクロマンサーだ。死の呪いは、俺の専門分野だ。あの男の魂から、呪いの痕跡が感じられた」
エリオットは、真剣な表情で言った。
「そして、その呪いを解くためには、癒しの力を持つ奴隷たちの力が必要だった。彼らの力を吸い上げて、呪いを相殺しようとしていたんだ」
エリオットの言葉に、アリアは、怒りがこみ上げてくるのを感じた。自分の命を救うために、罪のない人々の命を犠牲にする。それは、彼女の騎士道に反する行為だった。
「証拠を見つけましょう。グラハム卿の悪事を証明する、決定的な証拠を!」
アリアは、牢獄の中を探索し始めた。そして、牢獄の隅に、古びた本が落ちているのを見つけた。それは、グラハム卿の日記だった。
日記には、グラハム卿が、死の呪いにかかった経緯、そして、その呪いを解くために、奴隷商人たちと手を組み、癒しの力を持つ奴隷を集めていたことが、克明に記されていた。
「これだわ!これがあれば、グラハム卿の悪事を証明できる!」
アリアは、日記を手に取り、エリオットに示した。エリオットは、その日記を読み、静かに頷いた。
「よし、館を出るぞ。この日記を、街の役人に見せて、グラハム卿を告発する」
二人は、再び隠し扉から地上へと戻った。
第二章:告発と師の裏切り
三日目、告発と反撃。アリアとエリオットは、街の役所へと向かった。そこで、グラハム卿の日記を、街の長官に提出した。
「これは……、グラハム卿の日記!?」
長官は、驚きの表情で日記を読んだ。そして、彼の顔は、徐々に青ざめていった。
「これは、大変なことになった……。すぐに、グラハム卿を捕らえる手配を……!」
長官は、慌てて部下に指示を出した。だが、その時、役所の扉が、勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、グラハム卿と、その護衛たちだった。
「長官!一体、何の騒ぎだ?」
グラハム卿は、冷たい目で長官を見つめた。長官は、震える手で、グラハム卿に日記を差し出した。
「グ、グラハム卿……。これは、あなたの……、日記……」
グラハム卿は、日記を読み、その顔に、怒りの色が浮かんだ。
「貴様ら……!誰が、こんなものを……!」
グラハム卿は、アリアとエリオットに視線を向けた。彼の瞳には、憎悪の炎が燃え上がっている。
「騎士様、ネクロマンサー。まさか、お前たちが、私の邪魔をするとはな」
グラハム卿は、護衛たちに、二人を捕らえるよう指示した。護衛たちが、アリアとエリオットに襲いかかる。
「仕方ないわね。この街の不正、力ずくでも暴いてみせる!」
アリアは、剣を抜き、護衛たちと戦い始めた。エリオットは、魔力を操り、護衛たちの動きを封じていく。
だが、グラハム卿は、ただ二人を捕らえようとしているだけではなかった。彼は、懐から小さな袋を取り出し、中の粉を地面に撒いた。すると、地面から、無数のアンデッドが現れた。
「なんだと!?アンデッド!?」
アリアは、驚きを隠せない。アンデッドは、ネクロマンサーの魔法でしか生み出せないはずだ。
「まさか、グラハム卿は……!」
エリオットは、グラハム卿を睨みつけた。
「フフフ……。俺は、死の呪いにかかった時に、あるネクロマンサーと出会った。彼は、俺に、呪いを解く方法を教え、そして、この**『アンデッドを操る力』**を授けてくれたのだ」
グラハム卿は、高らかに笑った。
「そのネクロマンサーとは、一体誰なの!?」
アリアは、叫んだ。エリオットは、グラハム卿の言葉に、衝撃を受けていた。彼が、死の呪いにかかった原因……。そして、アンデッドを操る力……。彼の頭の中に、ある人物の顔が浮かんだ。
「まさか……」
エリオットは、顔を青ざめさせた。
「そうだ、エリオット。お前の師だ。『漆黒のネクロマンサー』、ゾルダ。彼が、俺にこの力を授けてくれたのだ」
グラハム卿の言葉に、エリオットは、言葉を失った。彼の師が、この事件の黒幕だったのか……。
「エリオット!大丈夫!?」
アリアは、エリオットの異変に気づき、彼に声をかけた。エリオットは、何かに深く悩んでいるようだった。
「アリア、逃げるぞ!奴のアンデッドは、このままではキリがない!」
エリオットは、アリアの腕を掴み、役所から脱出した。
第三章:師との対決、そして決戦
四日目、師との対峙。アリアとエリオットは、街の隠れ家に身を潜めていた。エリオットは、未だに、師の裏切りに衝撃を受けている。
「どうして……。師は、俺に、人々の魂に寄り添う者になれと、教えてくれたのに……」
エリオットは、深く落ち込んでいた。アリアは、そんな彼を、そっと抱きしめた。
「彼は、きっと、あなたに、そうあってほしかったのよ。だから、あなたは、そうあるべきなの」
アリアの優しい言葉に、エリオットは、少しだけ顔を上げた。
「師を……、止めなくてはならない」
エリオットの目に、決意の色が宿った。
「グラハム卿のアンデッドは、師が作り出したもの。師を倒せば、アンデッドは消えるはずだ」
エリオットは、アリアに言った。
「師は、どこにいるの?」
「おそらく、グラハム卿の館の地下、秘密の牢獄にいるはずだ。あの装置を動かすために、そこにいるんだ」
エリオットは、そう確信していた。師は、死の呪いにかかったグラハム卿を利用し、癒しの力を持つ奴隷を集め、何かを企んでいるのだ。
「もう一度、館に潜入しましょう。今度は、師を倒すために」
アリアは、剣を握りしめた。
五日目、決戦。アリアとエリオットは、再び、グラハム卿の館に潜入した。地下牢獄へと向かうと、そこには、グラハム卿と、一人の男が立っていた。男は、漆黒のローブを纏い、顔はフードで覆われている。
「ゾルダ……」
エリオットは、低い声で、男の名を呼んだ。男は、ゆっくりとフードを上げた。そこにいたのは、彼の師、ゾルダだった。
「エリオット。久しぶりだな」
ゾルダは、冷たい目でエリオットを見つめた。その瞳には、かつての優しさは、もうなかった。
「どうして、こんなことを……。なぜ、罪のない人々を犠牲にするんだ!?」
エリオットは、師に問い詰めた。ゾルダは、フッと笑った。
「愚かな弟子よ。お前は、まだ分かっていないのか?この世界は、弱肉強食だ。弱者は、強者の糧となる。それが、この世界の摂理だ」
ゾルダの言葉に、アリアは、怒りを露わにした。
「違う!弱きを助け、不正を正すのが、人の道だわ!」
「お前のような小娘に、何が分かる?俺は、この世界の摂理を変えるために、この儀式を執り行っているのだ」
ゾルダは、そう言って、牢獄の壁に埋め込まれた装置に手をかざした。装置は、不気味な光を放ち始めた。
「待て!何をしようとしている!?」
エリオットは、叫んだ。
「この装置は、奴隷たちの力を吸い上げ、この世界に、**『死の祝福』**をもたらすためのもの。この祝福によって、この世界は、新たな秩序へと生まれ変わるのだ」
ゾルダは、高らかに宣言した。彼の言葉に、アリアとエリオットは、愕然とした。ゾルダは、世界を滅ぼそうとしているのか……?
「そんなことは、させない!」
アリアは、叫びながら、ゾルダに斬りかかった。だが、ゾルダは、杖を一振りしただけで、アリアの剣を弾き飛ばした。
「アリア!下がっていろ!」
エリオットは、アリアを庇いながら、ゾルダと対峙した。彼の身体からは、黒い魔力が立ち上る。
「師よ。俺は、あなたを止める!」
「できるものなら、やってみろ。お前の力は、俺には及ばない」
ゾルダは、冷笑を浮かべた。二人のネクロマンサーの魔法が、牢獄の中で激突する。黒い雷、呪いの炎、アンデッドの群れ……。壮絶な戦いが繰り広げられた。
その時、グラハム卿が、背後からエリオットに襲いかかった。
「お前も、道連れにしてやる!」
だが、その瞬間、アリアの剣が、グラハム卿の身体を貫いた。
「この街の不正は、あなたが元凶よ!」
アリアは、冷たい目でグラハム卿を睨みつけた。グラハム卿は、驚きの表情で、自分の腹部を刺した剣を見つめる。そして、彼は、そのまま絶命した。グラハム卿が死ぬと、彼が操っていたアンデッドは、塵となって消えていった。
「アリア……!」
エリオットは、アリアの行動に、驚きを隠せない。だが、アリアは、迷いなく剣を抜き、再びゾルダに向かって構えた。
「師!もう、やめてください!」
エリオットは、ゾルダに訴えかけた。ゾルダは、エリオットの言葉に、フッと笑った。
「諦めろ、エリオット。お前の言葉は、もう届かない」
その時、アリアが、ゾルダの背後に回った。ゾルダは、それに気づいて、振り返ろうとした。だが、アリアは、すでに剣を振り下ろしていた。
「聖剣の光よ!邪悪を滅せよ!」
アリアの剣から、まばゆい光が放たれた。その光は、ゾルダの身体を包み込み、そして……。
ドォォォォン!!
爆発音と共に、ゾルダの身体は、光の粒となって消えていった。ゾルダが消えると、牢獄の壁に埋め込まれた装置も、力を失い、静かになった。
「師……」
エリオットは、その場に崩れ落ちた。アリアは、彼の隣に跪き、そっと肩に手を置いた。
「ゾルダは、最期まで、あなたの弟子だったわ」
アリアの言葉に、エリオットは、涙を流した。
第四章:事件の終結と新たな旅立ち
事件が解決し、街には、再び平穏が訪れた。牢獄に閉じ込められていた奴隷たちは解放され、彼らは、故郷へと帰っていった。リナとヴァルガスも、故郷の村へと帰ることになった。
アリアとエリオットは、レンとミリアを連れて、二人を見送るために、街の門へと向かった。
「本当に、ありがとうございました」
ヴァルガスは、深々と頭を下げた。彼の顔には、疲労の色が残っていたが、その瞳には、希望の光が宿っていた。
「いいえ。これは、私たちの仕事ですから」
アリアは、笑顔で答えた。リナは、アリアとエリオットに駆け寄り、二人の手を握りしめた。
「また、会える?」
リナの言葉に、アリアは、優しく頷いた。
「ええ。必ず、また会えるわ」
リナは、満面の笑みを浮かべた。
四人は、ヴァルガスとリナを見送った。彼らが、街の門をくぐり、遠ざかっていく姿を、四人は、いつまでも見つめていた。
「これで、本当の冒険が、始まるわね」
アリアは、エリオットに言った。エリオットは、黙って頷いた。彼の顔は、もう影に覆われていない。彼の瞳には、悲しみと、そして、新たな決意の光が宿っていた。
「ああ。俺は、師の過ちを正すために、この世界を旅する。もう二度と、師のような悲しい道を選ぶ者が、現れないように……」
彼らは、エルマの街を後にし、新たな旅路へと足を踏み出した。レンとミリアも、その顔には、希望に満ちた笑顔が浮かんでいた。彼らの旅は、これからも続いていく。悲しみや苦難を乗り越え、互いを支え合いながら、未来へと向かって……。




