表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/649

奴隷解放

前書き

若き女騎士アリアは、ネクロマンサーの少年エリオット、そして道中で出会った孤児の兄妹レンとミリアと共に、商業都市エルマを訪れた。活気に満ちた街の裏には、人々の魂を蝕む深い闇が潜んでいた。それは、奴隷市場に囚われた人々、特に希少な「癒しの力」を持つ少女を巡る、非道な陰謀だった。この街に蔓延する不正を正すため、そして囚われた人々を解放するため、アリアたちの新たな冒険が今、始まる。


商業都市エルマの影

照りつける太陽が、石畳の道をじりじりと焼く。蒸し暑い空気が肌にまとわりつく、商業都市エルマ。そこは、活気に満ち溢れていた。色とりどりの旗が軒先に掲げられ、行商人の賑やかな声が響き渡る。

「本当に賑やかな街ね」

アリアは、街道を歩きながら、目を輝かせていた。彼女の金髪が、太陽の光を反射してきらめく。鎧は街道の旅で少し汚れていたが、彼女の凛とした表情は変わらない。

「うわぁ!見てみて、レン!」

ミリアは、レンの腕を掴み、興奮したように言った。彼女の瞳は、初めて見る大きな街の景色に、きらきらと輝いている。

「ああ、すごいな。でも、人混みにはぐれないよう、アリアたちのそばを離れるなよ」

レンは、そう言って、ミリアの手をしっかりと握った。

「ああ。だが、この街には、妙な闇が渦巻いている」

アリアの隣を歩くエリオットは、フードを深く被り、その顔は影に覆われている。彼の目は、街を行き交う人々の顔を、注意深く観察していた。

「闇?どういうこと?」

「言葉では説明しにくい。だが、この街には、人の魂から発せられる、不純な魔力が満ちている。それは、悲しみや絶望といった、負の感情が生み出すものだ」

エリオットの言葉に、アリアは眉をひそめた。彼女の感性では、そこまでの深い闇は感じ取れない。彼女が感じるのは、ただ、この街の活気だけだった。レンとミリアもまた、活気に満ちた街の様子に目を奪われており、エリオットの言葉の真意を理解することはできなかった。

四人が街の中心部に差し掛かると、一つの光景が目に留まった。そこは、奴隷市場だった。鉄格子で囲まれた広場に、痩せ細った人々が、鎖に繋がれて座り込んでいる。彼らの目は虚ろで、希望を失っているようだった。

「ひどい……」

アリアは、思わず声を漏らした。彼女にとって、奴隷という存在は、過去の物語の中にしか存在しないものだった。

「な、なにこれ……?」

ミリアは、その光景に、恐怖に顔を歪ませた。レンは、ミリアを抱きしめ、アリアの背中に隠れるようにして、怯えていた。

「これが、この街の闇か……」

エリオットは、静かに呟いた。彼の視線は、広場の一角に釘付けになっていた。そこには、一人の少女と、彼女を守るように座り込む、筋肉質な年配の男がいた。少女は、ボロボロの服を着て、怯えた目で周囲を見回している。男は、彼女を背中で庇うようにして、鋭い視線を周囲に向けていた。

「あの二人……」

アリアは、その二人の間に流れる、特別な絆を感じた。それは、血の繋がりではない。だが、まるで親子のように、互いを大切に想い合っているのが伝わってきた。

その時、奴隷商人らしき男が、二人の前に現れた。男は、太鼓腹で、下卑た笑みを浮かべている。

「おい、爺さん。その小娘は、お前と一緒に売りに出すには、あまりにも価値が高すぎるぜ」

奴隷商人は、年配の男を小突きながら言った。男は、無言で奴隷商人を睨みつける。

「なんだ、その目は?いいか、この街では、奴隷は物だ。お前がどんなに守ろうと、この娘は、高い金で売られていくんだよ!」

奴隷商人は、高笑いした。その時、アリアは、一歩前に踏み出した。

「待ちなさい!」

アリアの声に、奴隷市場の喧騒が、一瞬だけ静まった。奴隷商人は、眉をひそめて、アリアを見つめた。

「なんだ、お前は?この商売に口を出すつもりか?」

「私は、旅の騎士、アリア。奴隷を物として扱うなど、許されることではないわ!」

アリアは、毅然とした態度で言い放った。彼女の言葉に、奴隷商人は、鼻で笑った。

「騎士様だと?ここはエルマだ。お前の言う『騎士道』など、何の役にも立たない。ここは、金が全てだ!」

奴隷商人は、再び、少女を掴もうとした。その時、エリオットが、一歩前に進み出た。

「貴様、その手で、彼女に触れるな」

エリオットの声は、冷たく、静かだった。彼の周囲には、目に見えない魔力が渦巻いている。奴隷商人は、その魔力に気圧され、思わず後ずさりした。

「な、なんだ、お前は……?」

「俺は、ネクロマンサー、エリオット。お前のような腐りきった魂を弄ぶことなど、造作もない」

エリオットは、静かに言い放った。奴隷商人は、その言葉に怯え、少女から手を放した。

「覚えてろよ、騎士様!ネクロマンサー!この街で、俺に逆らったことを、後悔させてやる!」

奴隷商人は、捨て台詞を残し、その場を立ち去った。アリアとエリオットは、奴隷たちの方へ向かった。

「大丈夫ですか?」

アリアは、少女に優しく声をかけた。少女は、怯えた表情で、アリアを見つめていた。年配の男は、アリアの問いに、無言で頷いた。

「私は、アリア。この方は、エリオット。あなたたちは……?」

「俺は、ヴァルガス。この子は、リナだ」

男は、低い声で答えた。彼の声には、深い疲労と、少女を守ろうとする、強い意志が感じられた。

ヴァルガスの話を聞くと、彼らは、故郷の村が魔物によって滅ぼされ、この街へと連れてこられたという。リナは、ヴァルガスの親友の娘で、彼は、リナの母親に、彼女を守ると誓ったらしい。

「リナは、特別な力を持っている。だから、奴隷商人に狙われているんだ」

ヴァルガスは、苦しそうに言った。

「特別な力?」

「リナは、**『癒しの力』**を持っている。触れただけで、傷や病を癒すことができる。その力を、奴隷商人は、金儲けに利用しようとしているんだ」

ヴァルガスの言葉に、アリアとエリオットは、顔を見合わせた。癒しの力は、この世界でも非常に希少な能力だ。それが、奴隷商人たちの標的になるのは、当然のことだった。

「その力で、ヴァルガスさんの鎖を解くことはできないの?」

アリアが尋ねると、ヴァルガスは、悲しそうに首を振った。

「リナの癒しの力は、肉体的な傷や病にしか効かない。呪文や魔法によってかけられた鎖は、解くことができないんだ……」

ヴァルガスの言葉に、アリアは、唇を噛み締めた。

「エリオット、どうにかできない?」

アリアがエリオットに視線を向けると、彼は、首を振った。

「この鎖は、特殊な魔力によってかけられている。俺の力でも、そう簡単には解けない」

エリオットは、ヴァルガスの鎖に手をかざし、その魔力の流れを確かめていた。

「だが、この鎖の魔力には、所有者の印がある。もし、この鎖をかけた奴隷商人を捕らえ、その印を消すことができれば……」

エリオットの言葉に、アリアは、希望の光を見た。

「そうね!じゃあ、奴隷商人を捕まえましょう!」

アリアは、意気込んだ。だが、ヴァルガスは、悲しそうに言った。

「やめておけ、騎士様。あの男は、この街の領主と繋がっている。もし、彼に手を出せば、この街全体を敵に回すことになる」

ヴァルガスの言葉に、アリアは、驚きを隠せない。領主が、奴隷商人という不正に手を染めている……。

「それでも、放ってはおけないわ!この街の不正を、必ず暴いてみせる!」

アリアの強い意志に、ヴァルガスは、黙って頷いた。



第一章:情報収集と潜入


一日目、情報収集。アリアとエリオットは、まず、この街の領主、グラハム卿について、情報収集を始めた。レンとミリアは、アリアたちのそばを離れないよう、静かに見守っていた。宿屋の主人や、酒場の客に話を聞くと、グラハム卿は、表向きは善良な領主として知られていた。街の治安を維持し、商業を繁栄させている。しかし、その裏では、闇の商売に手を出しているという噂が絶えなかった。

「グラハム卿は、奴隷市場から得た金を、私腹を肥やすために使っているらしい」

宿屋の主人が、小声で四人に話した。

「それだけじゃない。グラハム卿は、**『特別な奴隷』**を、高い金で買い取っているらしい。それが、癒しの力を持つリナのような存在だ」

酒場の客が、顔を青ざめながら言った。

「グラハム卿の館は、この街で最も大きな建物だ。だが、その地下には、**『秘密の牢獄』**があるらしい。そこに、特別な奴隷たちが閉じ込められていると……」

アリアとエリオットは、集めた情報を整理した。グラハム卿が、奴隷商人たちと繋がり、癒しの力を持つ奴隷を、不当な手段で集めている。そして、その奴隷たちを、秘密の牢獄に閉じ込めている。

「明日、グラハム卿の館に忍び込むわ。地下の牢獄を突き止め、証拠を見つけるの」

アリアは、決意を固めた。

「グラハム卿の館は、強力な魔力によって守られている。俺の力でも、正面から突破するのは難しい」

エリオットは、冷静に言った。

「だから、忍び込むのよ。きっと、弱点があるはずだわ」

二日目、潜入と証拠探し。アリアとエリオットは、夜、グラハム卿の館に潜入した。レンとミリアは、アリアたちの無事を祈りながら、宿屋で待つことにした。館の周囲には、強力な魔力障壁が張られている。だが、エリオットは、その障壁に、わずかな隙間があることを見抜いた。

「ここだ。この隙間からなら、なんとか潜り込める」

エリオットは、アリアを先導し、障壁をくぐり抜けた。館の中は、豪華な装飾が施され、高価な美術品が並んでいる。だが、その豪華さが、逆に、この館の持つ闇を際立たせているようだった。

「地下牢獄の入り口は、どこかしら?」

アリアは、周囲を警戒しながら言った。エリオットは、地面に手をかざし、魔力の痕跡を辿っていた。

「こっちだ。この廊下の先に、地下へと続く階段がある」

エリオットの導きに従い、二人は、地下へと続く隠し扉を見つけた。扉を開けると、そこには、暗く湿った階段が続いていた。階段を降りると、そこには、噂通りの秘密の牢獄があった。

牢獄には、たくさんの人々が閉じ込められている。彼らは、リナと同じように、癒しの力を持つ奴隷たちだった。彼らの顔は、絶望に満ちており、生気を失っている。

「なんてひどい……」

アリアは、その光景に、胸が締め付けられるようだった。

「奴隷商人が、リナのような特別な奴隷を、金で買い取っていたのは本当だったのね」

エリオットは、牢獄の中を歩き回り、壁に手を触れた。

「この牢獄は、ただの牢獄じゃない。彼らの力を、強制的に吸い上げるための装置が、壁に埋め込まれている」

エリオットの言葉に、アリアは、愕然とした。

「力を吸い上げる装置?一体、何のために……?」

「分からない。だが、この装置の魔力は、グラハム卿の館全体を動かしているようだ。もし、この装置を破壊すれば、この館の防御システムは……」

エリオットは、言葉を切った。彼の顔には、深刻な表情が浮かんでいる。

「待って、エリオット。あの男が、リナの力を欲しがっていたのは、自分の病気を治すためだと思ったけど……」

アリアは、首を傾げた。エリオットは、首を振った。

「違う。あの男は、病気じゃない。彼は、**『死の呪い』**に侵されている」

エリオットは、小声で言った。

「死の呪い?どうして、そんなことが分かるの?」

「俺は、ネクロマンサーだ。死の呪いは、俺の専門分野だ。あの男の魂から、呪いの痕跡が感じられた」

エリオットは、真剣な表情で言った。

「そして、その呪いを解くためには、癒しの力を持つ奴隷たちの力が必要だった。彼らの力を吸い上げて、呪いを相殺しようとしていたんだ」

エリオットの言葉に、アリアは、怒りがこみ上げてくるのを感じた。自分の命を救うために、罪のない人々の命を犠牲にする。それは、彼女の騎士道に反する行為だった。

「証拠を見つけましょう。グラハム卿の悪事を証明する、決定的な証拠を!」

アリアは、牢獄の中を探索し始めた。そして、牢獄の隅に、古びた本が落ちているのを見つけた。それは、グラハム卿の日記だった。

日記には、グラハム卿が、死の呪いにかかった経緯、そして、その呪いを解くために、奴隷商人たちと手を組み、癒しの力を持つ奴隷を集めていたことが、克明に記されていた。


「これだわ!これがあれば、グラハム卿の悪事を証明できる!」

アリアは、日記を手に取り、エリオットに示した。エリオットは、その日記を読み、静かに頷いた。

「よし、館を出るぞ。この日記を、街の役人に見せて、グラハム卿を告発する」

二人は、再び隠し扉から地上へと戻った。


第二章:告発と師の裏切り

三日目、告発と反撃。アリアとエリオットは、街の役所へと向かった。そこで、グラハム卿の日記を、街の長官に提出した。

「これは……、グラハム卿の日記!?」

長官は、驚きの表情で日記を読んだ。そして、彼の顔は、徐々に青ざめていった。

「これは、大変なことになった……。すぐに、グラハム卿を捕らえる手配を……!」

長官は、慌てて部下に指示を出した。だが、その時、役所の扉が、勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、グラハム卿と、その護衛たちだった。

「長官!一体、何の騒ぎだ?」

グラハム卿は、冷たい目で長官を見つめた。長官は、震える手で、グラハム卿に日記を差し出した。

「グ、グラハム卿……。これは、あなたの……、日記……」

グラハム卿は、日記を読み、その顔に、怒りの色が浮かんだ。

「貴様ら……!誰が、こんなものを……!」

グラハム卿は、アリアとエリオットに視線を向けた。彼の瞳には、憎悪の炎が燃え上がっている。

「騎士様、ネクロマンサー。まさか、お前たちが、私の邪魔をするとはな」

グラハム卿は、護衛たちに、二人を捕らえるよう指示した。護衛たちが、アリアとエリオットに襲いかかる。

「仕方ないわね。この街の不正、力ずくでも暴いてみせる!」

アリアは、剣を抜き、護衛たちと戦い始めた。エリオットは、魔力を操り、護衛たちの動きを封じていく。

だが、グラハム卿は、ただ二人を捕らえようとしているだけではなかった。彼は、懐から小さな袋を取り出し、中の粉を地面に撒いた。すると、地面から、無数のアンデッドが現れた。

「なんだと!?アンデッド!?」

アリアは、驚きを隠せない。アンデッドは、ネクロマンサーの魔法でしか生み出せないはずだ。

「まさか、グラハム卿は……!」

エリオットは、グラハム卿を睨みつけた。

「フフフ……。俺は、死の呪いにかかった時に、あるネクロマンサーと出会った。彼は、俺に、呪いを解く方法を教え、そして、この**『アンデッドを操る力』**を授けてくれたのだ」

グラハム卿は、高らかに笑った。

「そのネクロマンサーとは、一体誰なの!?」

アリアは、叫んだ。エリオットは、グラハム卿の言葉に、衝撃を受けていた。彼が、死の呪いにかかった原因……。そして、アンデッドを操る力……。彼の頭の中に、ある人物の顔が浮かんだ。

「まさか……」

エリオットは、顔を青ざめさせた。

「そうだ、エリオット。お前の師だ。『漆黒のネクロマンサー』、ゾルダ。彼が、俺にこの力を授けてくれたのだ」

グラハム卿の言葉に、エリオットは、言葉を失った。彼の師が、この事件の黒幕だったのか……。

「エリオット!大丈夫!?」

アリアは、エリオットの異変に気づき、彼に声をかけた。エリオットは、何かに深く悩んでいるようだった。

「アリア、逃げるぞ!奴のアンデッドは、このままではキリがない!」

エリオットは、アリアの腕を掴み、役所から脱出した。

第三章:師との対決、そして決戦

四日目、師との対峙。アリアとエリオットは、街の隠れ家に身を潜めていた。エリオットは、未だに、師の裏切りに衝撃を受けている。

「どうして……。師は、俺に、人々の魂に寄り添う者になれと、教えてくれたのに……」

エリオットは、深く落ち込んでいた。アリアは、そんな彼を、そっと抱きしめた。

「彼は、きっと、あなたに、そうあってほしかったのよ。だから、あなたは、そうあるべきなの」

アリアの優しい言葉に、エリオットは、少しだけ顔を上げた。

「師を……、止めなくてはならない」

エリオットの目に、決意の色が宿った。

「グラハム卿のアンデッドは、師が作り出したもの。師を倒せば、アンデッドは消えるはずだ」

エリオットは、アリアに言った。

「師は、どこにいるの?」

「おそらく、グラハム卿の館の地下、秘密の牢獄にいるはずだ。あの装置を動かすために、そこにいるんだ」

エリオットは、そう確信していた。師は、死の呪いにかかったグラハム卿を利用し、癒しの力を持つ奴隷を集め、何かを企んでいるのだ。

「もう一度、館に潜入しましょう。今度は、師を倒すために」

アリアは、剣を握りしめた。

五日目、決戦。アリアとエリオットは、再び、グラハム卿の館に潜入した。地下牢獄へと向かうと、そこには、グラハム卿と、一人の男が立っていた。男は、漆黒のローブを纏い、顔はフードで覆われている。

「ゾルダ……」

エリオットは、低い声で、男の名を呼んだ。男は、ゆっくりとフードを上げた。そこにいたのは、彼の師、ゾルダだった。

「エリオット。久しぶりだな」

ゾルダは、冷たい目でエリオットを見つめた。その瞳には、かつての優しさは、もうなかった。

「どうして、こんなことを……。なぜ、罪のない人々を犠牲にするんだ!?」

エリオットは、師に問い詰めた。ゾルダは、フッと笑った。

「愚かな弟子よ。お前は、まだ分かっていないのか?この世界は、弱肉強食だ。弱者は、強者の糧となる。それが、この世界の摂理だ」

ゾルダの言葉に、アリアは、怒りを露わにした。

「違う!弱きを助け、不正を正すのが、人の道だわ!」

「お前のような小娘に、何が分かる?俺は、この世界の摂理を変えるために、この儀式を執り行っているのだ」

ゾルダは、そう言って、牢獄の壁に埋め込まれた装置に手をかざした。装置は、不気味な光を放ち始めた。

「待て!何をしようとしている!?」

エリオットは、叫んだ。

「この装置は、奴隷たちの力を吸い上げ、この世界に、**『死の祝福』**をもたらすためのもの。この祝福によって、この世界は、新たな秩序へと生まれ変わるのだ」

ゾルダは、高らかに宣言した。彼の言葉に、アリアとエリオットは、愕然とした。ゾルダは、世界を滅ぼそうとしているのか……?

「そんなことは、させない!」

アリアは、叫びながら、ゾルダに斬りかかった。だが、ゾルダは、杖を一振りしただけで、アリアの剣を弾き飛ばした。

「アリア!下がっていろ!」

エリオットは、アリアを庇いながら、ゾルダと対峙した。彼の身体からは、黒い魔力が立ち上る。

「師よ。俺は、あなたを止める!」

「できるものなら、やってみろ。お前の力は、俺には及ばない」

ゾルダは、冷笑を浮かべた。二人のネクロマンサーの魔法が、牢獄の中で激突する。黒い雷、呪いの炎、アンデッドの群れ……。壮絶な戦いが繰り広げられた。

その時、グラハム卿が、背後からエリオットに襲いかかった。

「お前も、道連れにしてやる!」

だが、その瞬間、アリアの剣が、グラハム卿の身体を貫いた。

「この街の不正は、あなたが元凶よ!」

アリアは、冷たい目でグラハム卿を睨みつけた。グラハム卿は、驚きの表情で、自分の腹部を刺した剣を見つめる。そして、彼は、そのまま絶命した。グラハム卿が死ぬと、彼が操っていたアンデッドは、塵となって消えていった。

「アリア……!」

エリオットは、アリアの行動に、驚きを隠せない。だが、アリアは、迷いなく剣を抜き、再びゾルダに向かって構えた。

「師!もう、やめてください!」

エリオットは、ゾルダに訴えかけた。ゾルダは、エリオットの言葉に、フッと笑った。

「諦めろ、エリオット。お前の言葉は、もう届かない」

その時、アリアが、ゾルダの背後に回った。ゾルダは、それに気づいて、振り返ろうとした。だが、アリアは、すでに剣を振り下ろしていた。

「聖剣の光よ!邪悪を滅せよ!」

アリアの剣から、まばゆい光が放たれた。その光は、ゾルダの身体を包み込み、そして……。

ドォォォォン!!

爆発音と共に、ゾルダの身体は、光の粒となって消えていった。ゾルダが消えると、牢獄の壁に埋め込まれた装置も、力を失い、静かになった。

「師……」

エリオットは、その場に崩れ落ちた。アリアは、彼の隣に跪き、そっと肩に手を置いた。

「ゾルダは、最期まで、あなたの弟子だったわ」

アリアの言葉に、エリオットは、涙を流した。

第四章:事件の終結と新たな旅立ち

事件が解決し、街には、再び平穏が訪れた。牢獄に閉じ込められていた奴隷たちは解放され、彼らは、故郷へと帰っていった。リナとヴァルガスも、故郷の村へと帰ることになった。

アリアとエリオットは、レンとミリアを連れて、二人を見送るために、街の門へと向かった。

「本当に、ありがとうございました」

ヴァルガスは、深々と頭を下げた。彼の顔には、疲労の色が残っていたが、その瞳には、希望の光が宿っていた。

「いいえ。これは、私たちの仕事ですから」

アリアは、笑顔で答えた。リナは、アリアとエリオットに駆け寄り、二人の手を握りしめた。


「また、会える?」


リナの言葉に、アリアは、優しく頷いた。


「ええ。必ず、また会えるわ」


リナは、満面の笑みを浮かべた。

四人は、ヴァルガスとリナを見送った。彼らが、街の門をくぐり、遠ざかっていく姿を、四人は、いつまでも見つめていた。

「これで、本当の冒険が、始まるわね」

アリアは、エリオットに言った。エリオットは、黙って頷いた。彼の顔は、もう影に覆われていない。彼の瞳には、悲しみと、そして、新たな決意の光が宿っていた。

「ああ。俺は、師の過ちを正すために、この世界を旅する。もう二度と、師のような悲しい道を選ぶ者が、現れないように……」


彼らは、エルマの街を後にし、新たな旅路へと足を踏み出した。レンとミリアも、その顔には、希望に満ちた笑顔が浮かんでいた。彼らの旅は、これからも続いていく。悲しみや苦難を乗り越え、互いを支え合いながら、未来へと向かって……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ