聖剣の光、邪神を討つ
海の底に、光が満ち始めていた――。
アリアの勇者の剣が放つ眩い輝きは、海中の深い闇を押し返し、黒々と渦巻いていたダークミストを削り取っていく。光と闇がぶつかり合うたび、じりじりと海水が蒸発し、泡があがる。
だが――敵も黙ってはいなかった。
「調子に乗るなよォ、勇者もどき!!」
ジレンが雷光の尾を引きながら突進してくる。黒紫の稲妻が海水を裂き、アリアへ一直線に伸びる。
その背後では、ゾワースガが巨大な鋏と鎌を交差させ、ヴァガが槍に黒潮を纏わせて構えていた。
三体同時。
しかも、全員が本気。
それを感じ取ったアリアは、勇者の剣を握りなおす。
「みんな……ここからが本当の戦いよ!」
「当然です!」
「任せろ!」
「ヨゴリィ……いくよっ!」
「ワィも……!」
仲間たちの声が重なる。光の粒がアリアの胸の奥で強く輝いた。
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◆1 ジレンとの高速戦闘
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「行っくぜェェェェ!!」
ジレンの姿が“消えた”。
次の瞬間、アリアの横腹に鋭い痛みが走る。
(――速い!!)
勇者の剣をかろうじて動かすと、その刃が黒い稲妻を弾いた。
「へぇ、反応すんのか。やるじゃねぇか!」
ジレンはアリアの背後から声をあげた。振り返ったときにはもういない。稲妻の線が海底を縦横に走り、そのどれもが“ジレンの残像”だ。
「捕まえられるかよっ!!」
影雷爪が、四方から同時に降り注ぐ。
アリアは剣を斜めにして受け止める――が、
「おらァァッ!」
背後からもう一発。
アリアは床へ叩きつけられ、岩が砕け散る。
「くっ……!」
だが――ジレンは笑っていた。
「その目だよ、その目ぇ! 折れる直前の、最高の眼だ!」
「まだ折れてないわ!!」
アリアは跳ね起き、剣を振り抜く。光が一直線に走り、残像をすべて貫く。
そして、一点だけ。
光が“手応え”を感じた。
「ぐっ……!」
ジレンが一歩、後ろへ下がった。
「当てた……!?」
「ははっ……マジかよ……! こりゃ楽しくなってきた!!」
アリアが息を吸う暇もないまま――
「オレだけと遊んでんじゃねぇぞ?」
背後で、巨大な鎌が唸りをあげた。
「な――!?」
ゾワースガ。
その鋏と鎌がいっせいにアリアを襲う。
「闇鎌乱葬!」
「くうっ……!!」
アリアは連続する刃を剣で受け続け、火花が散る。ゾワースガは無言だが、まるで機械のような正確な連撃。鎌の角度が変わるたびに“死角が生まれる”。
そこへ――
「黒潮重突」
ヴァガの槍が斜め後ろから突き込まれる。
「アリアちゃん!!」
ヨゴリィが光の結界を展開しようとする――が、
「そっちが先だろォ!!」
ジレンがヨゴリィを狙う。
「ヨゴリィ!!」
「ま、任せて!」
ジャイカが走った。
銛を拾い上げ、ジレンの腕を狙って投げる。
「邪魔ァッ!!」
ジレンは爪で銛を弾く――が、その“弾いた反動”を読んでいたワィが滑り込む。
「ワィ……麻痺液……!」
ワィの太い腕から、麻痺毒が霧状に噴き出した。
「ちっ……!」
ジレンは即座に距離をとり、雷で霧を焼き払う。
その一瞬。
アリアはゾワースガとヴァガの同時攻撃をなんとか捌きながら、叫んだ。
「みんな……連携で押すの! ジレンは速さを生かして一人ずつ狙ってくる……だから――」
「全員で、止める!!」
ナーサイが祈りの杖を高く掲げた。
「精霊王メルニーナの加護よ……我らに集え!」
温かな緑の光が仲間たちの背に降り注ぐ。
「なんだと……?」
ジレンが眉をひそめた。
「体が……軽い?」
「いや……違う……心が……!」
ジャイカが握った銛が震え、ワィの毒袋がわずかに光った。
「これは……!」
ヨゴリィの瞳が喜びで潤む。
「精霊王さまの、祝福……!」
ナーサイが叫んだ。
「アリアさん! 今のあなたなら――ジレンの動きが見えるはずです!!」
アリアは息を呑む。
(見える……?)
次の瞬間。
視界が、ふっと開けた。
海水の揺らぎ。
雷の電流。
黒い影の“動く前の気配”。
(――見える!!)
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◆2 三体同時バトル ― 連携
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「いくわよ、ジレン!!」
「ほら来いよォ!! その光、ぶち壊してやる!!」
ジレンが雷閃脚で突っ込む。
「来るよアリアちゃん!」
「うん!」
アリアは地を蹴り、光をまとって前へ。
その瞬間――
“ジレンの影が三つ”に増えた。
(どれが本体――!?)
いや、違う。
(全部、追える!!)
アリアは剣を高く掲げ、叫んだ。
「光よ――道を照らして!!」
勇者の剣が眩い光を放つ。影が一瞬だけ薄れ、一本の線がはっきりと“本物”を示した。
「そこ!!」
剣がジレンの爪を弾き、その腕をかすめる。
「ぐっ……!」
初めて、ジレンが明確に“痛み”の声を漏らした。
仲間たちはその隙を逃さない。
「ヨゴリィ!」
「はいっ!」
ヨゴリィが光の矢を放つ。
ジレンは避ける――が、光の矢は“避けた方向にあわせて”軌道を曲げた。
「なっ――!?」
「ジャイカ!」
「任せろォ!!」
ジャイカの銛が、今度こそジレンの左肩に突き刺さる。
雷が爆ぜ、ジレンの動きが鈍る。
「ワィ!」
「ッ……!」
ワィが滑り込み、麻痺毒を噴射。
「くそ……ッ!!」
ジレンの影が揺れ、ついにその身体が止まった。
「いまだアリア!!」
「うん!!」
アリアは、仲間たちの声と光を背に受け、剣を構える。
「これは……みんなの力!!」
白銀の光が剣を包み込んだ。
「光閃突き!!」
ジレンの胸へ、一直線に突き刺す。
「ぐああああああッ!!」
黒紫の雷光が乱れ、広間全体が揺れた。
ジレンは後ろへ吹き飛び、壁に叩きつけられる。
そして――
笑った。
「……ハッ……ハハ……ッ……! 最高だよ、お前ら……!!」
血を吐きながら、それでも狂ったように笑い続けた。
「折れねぇ心って……折りがいがあって……いいよなァ……!」
アリアは剣を構えたまま、かすかに震えながら言った。
「あなたの相手は、もう――終わりよ」
「……ああ。上出来だ。
あとは……ボスに……任せるぜ……」
ジレンの身体は黒い光に包まれ、塵となって消えた。
その瞬間。
広間の闇が、ぐらりと揺れた。
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◆3 ゾディアーガ最終形態
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「――もうよい」
ゾディアーガの声が、広間全体を震わせた。
消えかけていたダークミストが再び濃く、重く、黒い光を放つ。
「我が眷属を三体も倒すとは……愚かで、愛おしい、光の者たちよ」
闇の中、ゾディアーガのシルエットが膨れ上がる。
「闇神核、解放」
闇が炸裂した。
玉座が砕け、巨体が姿を現す。
触手と影が絡み合い、無数の眼が全方向を睨んでいる。
海底が揺れ、天井から石片が降り注ぐ。
「これは……!」
「みんな、伏せて!!」
ゾディアーガが咆哮を放つ。
「深淵共鳴!!」
黒い波動が広間中に満ち、全員、吹き飛ばされた。
アリアは壁に叩きつけられ、肺の空気がすべて飛んだ。
「がっ……は……!」
「アリアちゃん!!」
「アリアさん!!」
ナーサイ、ヨゴリィ、ジャイカ、ワィ――
全員が地に伏したまま動けない。
ゾディアーガは、その中央に悠然と立ち、広間を見渡す。
「光よ……沈め。希望よ……折れろ。
そして――我が糧となれ」
闇の触手が、仲間たちへ伸びる。
(……だめ……みんな……!)
アリアは、震える手で剣を探る。
体は悲鳴をあげている。
痛みで頭が真っ白だ。
けれど――動く。
(守らなきゃ……!)
アリアは立ち上がる。
「ゾディアーガ……あなたは……倒す!!」
「まだ立つか、人間……!」
闇が一斉に襲い掛かる。
だが――
アリアの心は、折れない。
(わたしは――)
勇者の剣が震える。
(みんなを守るために……戦っている!!)
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◆4 光の完全覚醒
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アリアの胸から、光が噴き上がる。
「これは……!」
ナーサイが息を呑んだ。
ヨゴリィが目を見開く。
「アリアちゃんの……光が……!」
アリアは剣を高く掲げる。
「古の勇者様……女神イケ様……精霊王メルニーナ様……
どうか……みんなを守るための力を!!」
祈りが――届いた。
海の女神イケが、柔らかな光の姿を現す。
精霊王メルニーナが、緑と青の輝きをまとって現れる。
「アリア……あなたは、本当に強い心を持っています」
「光は……あなたと共にある……」
二柱の光が、勇者の剣へと集まる。
「なっ……なにを……している……!?」
ゾディアーガの闇が、後退した。
アリアは叫ぶ。
「これが……わたしの――
みんなの光だぁぁぁぁぁ!!」
勇者の剣が完全覚醒。
白金の輝きが広間全体を照らし、闇を焼く。
「聖輝斬!!」
放たれた光が、ゾディアーガの闇を貫き、
触手を焼き、
影を切り裂き、
巨体の中心――
“闇神核”へと突き刺さる。
「ぐおおおおおおおお!!
光が……光が我を……砕く……!!」
「アリアさん!! 今です!!」
「はい!!」
アリアは最後の力を振り絞り、光を押し込む。
「うあああああああああああ!!!!」
「この……光……!!
我は……闇の……神……!
こんな……光ごときに……!」
「光は……負けない!!!」
叫びとともに、アリアの全力が剣へ流れ込む。
光が爆発した。
闇神核が砕け、ゾディアーガの身体が光に飲み込まれていく。
「おのれ……勇者……!
勇者ぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
邪神ゾディアーガは悲鳴とともに光へ散り、
海底神殿は静寂に包まれた。
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◆5 戦いのあと
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アリアは膝をつき、そのまま床へ倒れ込んだ。
「アリアちゃん!!」
「アリアさん!!」
仲間たちが駆け寄る。
ナーサイが治癒魔法をかけ、ヨゴリィがアリアの手を握る。
「アリアちゃん……!
本当に……無事で……よかった……!」
アリアは微笑んだ。
「みんなが……いたから……勝てたのよ……」
勇者の剣が、最後の光を放ち――
ふわり、とアリアの手から離れる。
「あ……」
「役目を……終えたのですね」
メルニーナが目を伏せる。
「その剣は……また、世界が救いを求めたときに……目覚めるでしょう」
イケが、アリアの頭をそっと撫でる。
「アリア……あなたは、本当に勇気ある騎士でした」
アリアは目に涙を浮かべ、深く頭を下げた。
「ありがとうございました……!」
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◆6 帰還 ― 魚人たちの歓声
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神殿から元の住処へ戻ると、魚人たちが一斉に歓声を上げた。
「アリアちゃん!!」
「本当に……本当にありがとう!!」
「英雄だ!!」
ヨゴリィが泣きながら飛びつき、ジャイカが腕を組んで笑い、ワィがそっとアリアの手を握る。
「また……来てね……アリア……」
「もちろん!」
アリアはヨゴリィを抱きしめ、ナーサイたちに深く礼をした。
「また必ず……会いに来るから!」
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◆7 旅立ち
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海上。
アリアは陽の差す水面へ浮かび上がり、岸を目指して歩き出した。
海風が髪を揺らし、遠くからカモメの鳴き声が聞こえる。
「ここから……また旅を続けるんだ」
海の底での経験が、胸の奥で温かく光った。
「みんな……ありがとう。
わたしは――前へ進むから」
アリアは東の国へ向かう船を探し、
新たな冒険へと一歩踏み出した。
海底神殿での物語は幕を閉じた。
だが――
アリアの旅は、ここからさらに続いていく。
◆後書き
決戦の果て、光の行き先
ジレンの狂気の雷、ゾワースガの鉄壁の刃、ヴァガの黒潮槍。
三体の眷属を退けたアリアは、仲間たちとともに邪神ゾディアーガを撃破した。
勇者ではなく「ただの騎士」として。それでも、勇者の剣は彼女の心に呼応し、最後には海の女神と精霊王の祝福を受けて輝き、邪神を打ち倒す一閃となった。
彼女が守ったものは、世界ではない。
師でも英雄でもなく、
ただ“目の前の大切な仲間たち”。
その小さな願いが、海底を救う大きな光となった。
聖剣は眠りにつき、アリアは再び旅へ向かう。
海の底で流した涙も、無数の笑顔も、
彼女の未来を照らす大きな力になるだろう。
アリアの旅は、終わらない。
新たな出会いと戦いが、彼女を待っている。




