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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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7話 竜王ヴァルナ 6

 街の中心にそびえる、古びた巨大な時計塔。

 恐らく本来なら警備の兵士なりがいる筈だが、誰も居ない上に鍵も全て開いており、ロランドは労せず屋上まで登る事に成功した。

 十中八九、全員逃げ出した後。

 有力な兵士達はあの邪竜の爪と咆哮によってあらかた片付けられたのだろう。逃げるのが最善手に違いない。俺が兵士でもそうしていた。

 ついつい、役目を放棄し逃げたであろう顔も知らない兵士の気持ちを汲んでしまう。


 ――ところで。


「何やってんだあのバカは……」


 双眼鏡で街を見渡す。

 セブンスレイによる光の爆発に動きを止めたヴァルナが、大きく吼えた直後、地上から現れ建物の屋根を走り渡る小さな影――シクロを再び追いかけるのが見えた。

 今日何度目かわからないが、ロランドは頭を抱えた。

 セブンスレイを目眩し、及び足止めに使うのはこの時計塔の真下であれと指示した筈だ。

 初見ならば今のように、ヴァルナの動きを止められる確率は高かった。

 そこで自分が時計台から飛び降り、ヴァルナめがけて羽落としを突き刺して地面に叩き落とす。

 そしてロランドの能力で決着をつける。

 これが今回の作戦の全容だ。単純明快な、単なる不意打ち。

 相手が四天王の一角なんてバケモンじゃ無けりゃ大概成功する。何ならこちらのシクロもバケモノ級なのだから、甘く見積もっても足止めは成功していた。


「……だが、もう見られた」


 ロランドが観測していない戦闘の話をシクロにかいつまんで聞いた。

 使った技、戦法、相手の特徴。

 セブンスレイはシクロの使える魔法の中でも特に汎用性が高く、且つ高火力の技……らしい。本人がそう言っていた。

 それを俺の見てないところで一回、目眩しとしての使い方で一回、既に二回使った。

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 ヴァルナも、最早この魔法は危険視する程のものでは無いと判断しているだろう。三度目はダメージを恐れずシクロに突っ込んできかねない。

 先程の「正規の手順を踏んだ」ルミナスバリアの様に、本気で発動させれば話は変わってくるだろうが、あの追走劇を見ている限りだとシクロにその余裕を望むべくもない。

 こうなってくると作戦として描いていた予定とはズレが生じてくる。最悪、想像もしたくない範囲でのズレが。


「……やっぱ逃げるべきだったかもなぁ」


 シクロよ、頼むからもうセブンスレイは効かない事に気付いていてくれ。

 そして時計塔まで辿り着いたとしても、自身の判断で別の方法で足止めしてくれ……と、ロランドは祈っていた。

 予定が狂い、命を大きく天秤にかける羽目になった今のロランドの心境は、率直に言って最悪そのものだった。



 * * *



 小さな白い影が街を駆ける、駆ける、駆ける。

 息は切れて汗は止まらない。髪が乱れて服に泥もついている。

 それでもその瞳は真っすぐに前を向いていた。

 背後からは大きな翼がはためく轟音、建物が押し潰されるような破壊音。そして、全身を突き刺してくる鋭い殺意。

 そしてきまぐれな様でいて、狂気じみた叫びが響く。


「のう小娘ェ! 追いかけっこはそろそろ飽いたぞ! もう良いじゃろ、次を味合わせてくりゃれ!!」


 ここまで相手をして、シクロにも気付いた事がある。

 ヴァルナは一度も本気を出していない。この街に降りて、ボクと戦って、今こうやって追ってきているが、全てが遊び。余興といった具合だ。


(楽しみは長く続けたいタイプなんだろうな……)


 そんな風に思って、苦笑しかけた自分に驚いた。

 戦場のど真ん中で、敵にシンパシーを覚えるなんて。

 だけど、だからこそ助かっている。

 あいつは恐らく、単体で、一撃でこの街を滅ぼす術を持っている。

 挑発して地上に引き下ろす際、上空でヴァルナの身に纏った蒼炎が一際強く輝いた瞬間があった。もし挑発に気付かないか、乗らないかされていたら誰も彼もが骨も残っていなかった。

 初めからずっと寸での勝負が続いている。それも、あちらに大きく分が有る。

 ――ロランドの待つ時計塔が眼前に見える。


「……あいつが本気になっちゃう前に、何とかしてよね~……師匠~……」


 シクロが小さく泣き言を漏らす。

 タイミングを見計らって身を翻し、ヴァルナに身体を向けた。

 シクロの次の一手を予期したヴァルナの声が明るくなる。


「ふはっ! さあ来やれ来やれ! 次は何を見せてくれるんじゃあ!?」


 風を割って、竜王の巨体が時計塔に迫る。

 タイミングを合わせる。ヴァルナの動きを止め、ロランドが上空から奇襲をかけるのにベストな位置で。


「――ここ!!」


 三度目の、七つの魔法陣が空に描かれた。

 眩い光が交錯し、魔力が収束する。


「セブンスレイ!!」


 魔法が発動するその直前、シクロの前で光る魔法陣のその向こう。ヴァルナの気配が一変した。

 竜の表情なんて判らないが、声の色はさっきまでと違った。


「……それは無いんじゃないかのぅ~」


 空気が一変する。重く、冷たく。予兆すら感じさせぬほど、静かに。

 そこでシクロははっきりと気付いた。


「――しくじった……!」


 ロランドの危惧した通りになった。

 幾ら手を抜いているとは言え、これほどの実力者に同じ手が三度も通じる訳も無い。

 七つの光に一切臆する事無くヴァルナはその身を突っ込んできた。


「くぅっ!!」


 身体を捩じり、回転させ、真っ向から突っ込んできたヴァルナの眉間に剣を振るう。

 無論、剣は鱗を通らず弾き返されるが、その反動で無理矢理突進をかわす事に成功する。

 ヴァルナの身体は時計塔に直撃し、激しい破壊音が響いた。

 破壊音を崖下に感じ、屋上にて待機していたロランドは一部始終を見ていた。

 そして急激に倒壊を始めた時計塔の振動を全身に感じて、絶叫する。


「クソボケがァーーー!!」

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