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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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33/35

32話 冒険者へのいざない

武闘大会が終わって、まだ熱気が残る昼下がり。


ガレンは道具屋の軒先で購入した封筒と、手紙用の少しばかり良質な紙を持って、村の飲食店の簡易な木のテーブルについた。

さらさら、さらさらとペン先を滑らせ、推薦文を丁寧に記していく。軽薄な雰囲気を自ら醸し出していながらも、その筆跡の流麗さは品の良さを感じさせる。

その向かいの席で、シクロはぼんやりと外を眺めていた。風に揺れる銀の髪が、陽光に淡く光る。


書き終わった書類を封筒へ差し込み、ガレンは軽く叩くように整え、手渡す。


「よしっ、これで後はギルドで冒険者登録の時にこれを受付に渡せば手続き完了だ」


シクロは受け取ると同時に椅子の脚を引いて立ち上がろうとする。


「どーも。もう帰っていい?」


「ほんとに気がねえ奴だな…飯食い終わるまでくらい話に付き合ってくれても良いじゃねえか。まだ残ってるぞ」


苦笑交じりに言うが、シクロは返事をせず、皿へ視線を落とした。

――すると急に、目の前に出ている麺類の食事を口へ運ぶ速度が倍になる。


(露骨だなぁ…)


ガレンは内心で苦笑し、テーブルの縁を指で軽く叩いた。


「…まぁいいや。のんびり世間話もさせてくれなそうだから直球で言わせてもらう。シクロ、俺はお前が欲しい。俺らのパーティに入らねえか?」


麺が絡まるフォークを持つ手が、ぴたりと止まる。

沈黙の中、シクロの瞳がちらりと上がり、ガレンを見る。


「…なんで?」


その表情に、この提案への興味はまるで無いというのは見てとれる。

だが、ガレンはその視線を真正面で受け止め、軽く息を整えた。


「別に言わなくてもわかってんじゃねえか? 

お前の強さは一級品だ。あの強さがあれば何処だって目指せる。勿論、俺も、俺の仲間もその強さのおこぼれを貰いたいだけって訳じゃねえ。

互いを高める為に、自分より優秀な奴と共に戦うってのはスゲー大切な事だからな」


ガレンの言葉には、戦士らしい誠実さが宿っていた。

小細工も無しに自身の気持ちをぶつける。愚直といえばそうなのだが、これが一番だと信じて疑わない。

シクロは小さく瞬きをする。だが、表情は変わらず。


「ボクに得ある?それ」


目を逸らし、コップを指で弾いて中に入った水が揺れるのを見ている。

ガレンの肩がわずかに沈む。

しかし、彼はすぐに口角を上げて言葉を続けた。


「俺が、いや、俺たちが提供できるのは冒険者としてのノウハウ、ってとこだな。ギルドに登録してるのと、そうでないのとでは、かなり勝手が変わる。

俺自身は登録してから結構長いし、ギルドに顔が効くって自負もある。人脈の紹介もお前になら惜しみなくしてやる。

...やってく内に俺たちより良い仲間と出会う事もあるだろう。そうなったら別にそっちに行ってもらっても構わねえよ。ま、そう簡単に愛想つかれないように頑張らせてもらうけどな」


言いながら、胸を軽く叩く。

長年の実務で得た自負がそこにはあった。



「ふーん。ていうかさ、何でボクにそんな色々しようとする訳? 蹴り飛ばされて頭おかしくなったの?」


シクロは、次はフォークの柄を弄ぶように指で回し、視線をガレンへと戻す。

呆れ気味の表情で、悪態めいた言葉まで飛んできた。


「何でって、そりゃお前、優秀な人材は早い内に良い環境でのびのびと育って欲しくなっちまうもんなんだよ。

まぁロートルのお節介魂が疼いちまうと言うか…早い話が、俺はお前に惚れ込んだのさ」


本当はまだまだロートルを自称するつもりも無いが。

ガレンは鼻をかき、肩をすくめた。

彼なりに、最大限の敬意を込めて。


「あっそ。暇なんだね」


「…手ごわいな」


ガレンの頬がぴくりと引きつる。

その反応に、シクロは全く悪びれない。


ガレンは椅子にもたれ、天井を仰ぐように息を吐く。

微塵もこちらの要望に傾く気配が無い。そりゃ簡単にいくとは思ってなかったが、ここまでとは。


勿論だが――別にガレンは少女趣味というわけではない。

女性は好きだし、この目の前の少女の将来性は、そういう意味でも猛烈に高い。

だが今はそういった話ではない。

あの、大会での短い触れ合いで、圧倒的な才覚に触れた。

その可能性が、この先どれだけ輝くのかを見たい――ただそれだけだった。


「で、もしそれでボクがパーティ入るよって言ったとして、師匠はどうなるの?」


師匠──ロランドの事か。

少しだけ動揺する。まさかここであいつの存在が浮いてくるとは予想していなかった。

いや、予想するべきだったのだ。酒場でチラッと見ただけでも、この子はロランドにだけは懐いていたから。


「え…うーん、俺は別に入ってもらっても構わねんだけど、ジェシカがな…あ、ジェシカってのはうちのモンなんだけど、あいつが何かロランドの事、嫌ってるみたいでよ…理由は知らねえんだけど…」


想定外の事態にガレンは腕を組み、眉間にしわを寄せた。


それを聞くや、シクロは――

ふっと肩を揺らし、けらけらと笑った。

今までに見せなかった、年相応の無邪気さだった。


「あはは! 師匠の事だし、どんな理由で嫌われてても驚かないけど! 何やって嫌われたんだろうね? 俺の犬になれ!とか言って靴でも舐めさせたのかな」


「いや知らねえけど...お前の中のロランドってどういう奴なんだよ...」


少なくともガレンの記憶にあるロランドはそんな畜生な性格では無い。何を考えているかは判らないが、寡黙ながらも素直な男という印象だった。

この少女の前ではそういう感じなのか?教育に悪くないか?などなど、ガレンはいらぬ心配事をしてしまう。


「何にしても師匠と一緒にいられなそうならパスかな〜」


さも当然とでも言うかのような声色。

はぁ、とため息を吐いてガレンは肩を落とした。


「…ほんと、随分ロランドにお熱みたいだな」


シクロは小さく頷く。


「うん。というか師匠以外の事は別にどうでもいいかな。全部。

...あ、でも美味しいご飯や、旅先で会った小さい子供とかも好きだから全部ではないか」


好きなものを数えるように指を折り、淡々と答える姿は、純粋な子供そのもの。

だがその傍らで、興味の無い物には徹底してsis武闘大会が終わって、まだ熱気が残る昼下がり。


ガレンは道具屋の軒先で購入した封筒と、手紙用の少しばかり良質な紙を持って、村の飲食店の簡易な木のテーブルについた。

さらさら、さらさらとペン先を滑らせ、推薦文を丁寧に記していく。軽薄な雰囲気を自ら醸し出していながらも、その筆跡の流麗さは品の良さを感じさせる。

その向かいの席で、シクロはぼんやりと外を眺めていた。風に揺れる銀の髪が、陽光に淡く光る。


書き終わった書類を封筒へ差し込み、ガレンは軽く叩くように整え、手渡す。


「よしっ、これで後はギルドで冒険者登録の時にこれを受付に渡せば手続き完了だ」


シクロは受け取ると同時に椅子の脚を引いて立ち上がろうとする。


「どーも。もう帰っていい?」


「ほんとに気がねえ奴だな…飯食い終わるまでくらい話に付き合ってくれても良いじゃねえか。まだ残ってるぞ」


苦笑交じりに言うが、シクロは返事をせず、皿へ視線を落とした。

――すると急に、目の前に出ている麺類の食事を口へ運ぶ速度が倍になる。


(露骨だなぁ…)


ガレンは内心で苦笑し、テーブルの縁を指で軽く叩いた。


「…まぁいいや。のんびり世間話もさせてくれなそうだから直球で言わせてもらう。シクロ、俺はお前が欲しい。俺らのパーティに入らねえか?」


麺が絡まるフォークを持つ手が、ぴたりと止まる。

沈黙の中、シクロの瞳がちらりと上がり、ガレンを見る。


「…なんで?」


その表情に、この提案への興味はまるで無いというのは見てとれる。

だが、ガレンはその視線を真正面で受け止め、軽く息を整えた。


「別に言わなくてもわかってんじゃねえか? 

お前の強さは一級品だ。あの強さがあれば何処だって目指せる。勿論、俺も、俺の仲間もその強さのおこぼれを貰いたいだけって訳じゃねえ。

互いを高める為に、自分より優秀な奴と共に戦うってのはスゲー大切な事だからな」


ガレンの言葉には、戦士らしい誠実さが宿っていた。

小細工も無しに自身の気持ちをぶつける。愚直といえばそうなのだが、これが一番だと信じて疑わない。

シクロは小さく瞬きをする。だが、表情は変わらず。


「ボクに得ある?それ」


目を逸らし、コップを指で弾いて中に入った水が揺れるのを見ている。

ガレンの肩がわずかに沈む。

しかし、彼はすぐに口角を上げて言葉を続けた。


「俺が、いや、俺たちが提供できるのは冒険者としてのノウハウ、ってとこだな。ギルドに登録してるのと、そうでないのとでは、かなり勝手が変わる。

俺自身は登録してから結構長いし、ギルドに顔が効くって自負もある。人脈の紹介もお前になら惜しみなくしてやる。

...やってく内に俺たちより良い仲間と出会う事もあるだろう。そうなったら別にそっちに行ってもらっても構わねえよ。ま、そう簡単に愛想つかれないように頑張らせてもらうけどな」


言いながら、胸を軽く叩く。

長年の実務で得た自負がそこにはあった。



「ふーん。ていうかさ、何でボクにそんな色々しようとする訳? 蹴り飛ばされて頭おかしくなったの?」


シクロは、次はフォークの柄を弄ぶように指で回し、視線をガレンへと戻す。

呆れ気味の表情で、悪態めいた言葉まで飛んできた。


「何でって、そりゃお前、優秀な人材は早い内に良い環境でのびのびと育って欲しくなっちまうもんなんだよ。

まぁロートルのお節介魂が疼いちまうと言うか…早い話が、俺はお前に惚れ込んだのさ」


本当はまだまだロートルを自称するつもりも無いが。

ガレンは鼻をかき、肩をすくめた。

彼なりに、最大限の敬意を込めて。


「あっそ。暇なんだね」


「…手ごわいな」


ガレンの頬がぴくりと引きつる。

その反応に、シクロは全く悪びれない。


ガレンは椅子にもたれ、天井を仰ぐように息を吐く。

微塵もこちらの要望に傾く気配が無い。そりゃ簡単にいくとは思ってなかったが、ここまでとは。


勿論だが――別にガレンは少女趣味というわけではない。

女性は好きだし、この目の前の少女の将来性は、そういう意味でも猛烈に高い。

だが今はそういった話ではない。

あの、大会での短い触れ合いで、圧倒的な才覚に触れた。

その可能性が、この先どれだけ輝くのかを見たい――ただそれだけだった。


「で、もしそれでボクがパーティ入るよって言ったとして、師匠はどうなるの?」


師匠──ロランドの事か。

少しだけ動揺する。まさかここであいつの存在が浮いてくるとは予想していなかった。

いや、予想するべきだったのだ。酒場でチラッと見ただけでも、この子はロランドにだけは懐いていたから。


「え…うーん、俺は別に入ってもらっても構わねんだけど、ジェシカがな…あ、ジェシカってのはうちのモンなんだけど、あいつが何かロランドの事、嫌ってるみたいでよ…理由は知らねえんだけど…」


想定外の事態にガレンは腕を組み、眉間にしわを寄せた。


それを聞くや、シクロは――

ふっと肩を揺らし、けらけらと笑った。

今までに見せなかった、年相応の無邪気さだった。


「あはは! 師匠の事だし、どんな理由で嫌われてても驚かないけど! 何やって嫌われたんだろうね? 俺の犬になれ!とか言って靴でも舐めさせたのかな」


「いや知らねえけど...お前の中のロランドってどういう奴なんだよ...」


少なくともガレンの記憶にあるロランドはそんな畜生な性格では無い。何を考えているかは判らないが、寡黙ながらも素直な男という印象だった。

この少女の前ではそういう感じなのか?教育に悪くないか?などなど、ガレンはいらぬ心配事をしてしまう。


「何にしても師匠と一緒にいられなそうならパスかな〜」


さも当然とでも言うかのような声色。

はぁ、とため息を吐いてガレンは肩を落とした。


「…ほんと、随分ロランドにお熱みたいだな」


シクロは小さく頷く。


「うん。というか師匠以外の事は別にどうでもいいかな。全部。

...あ、でも美味しいご飯や、旅先で会った小さい子供とかも好きだから全部ではないか」


好きなものを数えるように指を折り、淡々と答える姿は、純粋な子供そのもの。

だがその傍らで、興味の無い物には徹底して目を合わせようともしない。

子供ならではの残酷な無邪気さも確かに兼ね備えていた。


「妬けるね」


ガレンは半ば本気、半ば冗談で呟く。


「ふふ。ごちそうさま。それじゃボク、もう行くね。推薦状はちゃんと使うよ。多分、師匠も次の目的地は王都だと思うからそこで手続きする事になると思う」


椅子を軽く引き、荷物を抱えると、シクロは席から立ち上がる。

その動作は迷いなく、風のように軽い。


「そうかい。じゃあな」


ガレンも軽く手を挙げ、背中を見送ろうとした――が、


「あー…最後に一つ、やっぱ聞かせてくれよ。あいつの何がそんなに良いんだ?」


その問いに、シクロの足が止まる。

背中越しに、静かに答えた。


「ボク、強いんだよ」


喧騒の残る食堂の音が、ふっと遠ざかる。


「でも、あの人は、だからどうしたって言ってくれるの」


「あの人が最初にボクの力に興味なんか無いと言ってくれた、あの人だけがボクの強さを無視してくれた」


「ボク自身を見てくれた」


その言葉の一つ一つには、シクロの人生そのものが乗せられていた。

少女のその短い生涯において、ロランドという存在がどれだけの重みがあるのか、どれだけの価値があるのか、雄弁に感じさせられた。

シクロは振り返り、年相応の少女として微笑む。


「サイコーにかっこいいでしょ?」


その笑顔は、ただ真っ直ぐだった。


「……なるほどねぇ。そりゃ俺の口説き文句なんざ、全部地雷になっちまってる訳だ」


ガレンは大きく天を仰ぎ、肩をすくめた。


「そういう事。お兄さんは悪い人じゃないと思うけど、ボクのタイプじゃないかなぁ」


シクロは悪気なく言った。

ロランドの話をしてから明らかに表情も雰囲気も柔らかくなり、その証拠に終始仏頂面だったのが今では優しく微笑んでいる。

こりゃあ駄目だ。とてもじゃないが仲間になってくれなんて、もう言えない。


「はっはっは!言ってくれるじゃねえか!そういう時は嫌いなタイプですってハッキリ言った方が諦めもつくってもんだぞ!」


「あんまり人と話する時に波風立てる様な言い方するなって言われてるんだよね」


「師匠にか?」


「正解。じゃあね!」


軽く手を振ると、シクロは扉の外へ消えていく。

その足取りは軽快で――迷いがなかった。


「いやぁ〜、参ったね。子供の惚気ってのは純度100%だな…俺まで恥ずかしくなっちまう」


ガレンは頬をかき、苦笑しながら空いた皿とカップを見つめる。

暫くそうしていると、店員がその食器たちを持って行ってしまった。


「……あ、結局なんで師匠呼びしてるのか聞いてなかったな。 まぁ、また会えるだろ」


いつ来るか判らない、再開への予感を感じながら、シクロの勧誘に熱中してたせいで一口も手を付けていなかった目の前の肉料理を口に運ぶ。

少々冷めていたが、食えない事は無かったので、ゆっくりと時間をかけて食べてやった。

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