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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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3話 竜王ヴァルナ 2

 変なガキだった。

 それ以上でもそれ以下でも無く。

 だから、腹を空かせてた様に見えたからパンを一つ、施しのつもりでくれてやった。

 たまたまその時は蓄えに余裕があったから、いつもなら絶対にしない事をしてしまった。

 小さい口でパンを食い終わると、ガキは笑って俺の眼を見やった。


「ボク、強いんだよ!」


 つまらない冗談を言う元気があるのか、と思った。

 その後悔が今なお続く事になるとは、想像もしなかった。




* * *




「なんじゃあ~~? もう終わりかの」

「が……あ……っ……」


 シクロとロランドが隅で押し問答をしている間に、十数人はいた冒険者達の最後の一人も地に膝をついた。


「勝て……勝てない……」

「儂に勝てると思って向かっておったのかヌシら? 冗談きっついのじゃ~~! ふははは!」


 ヴァルナの高らかな哄笑が空に響く。

 その声を聞きながら、冒険者は目を閉じ、静かに意識を手放した。


「は~~~……準備運動にもならん。のう? そこな小娘」


 風が吹いた。

 硝煙と血と焦げた鉄の匂いが、戦場を撫でる。


「…………」


 無言のまま、シクロが一歩、また一歩と前に出た。

 足取りは軽やかで、迷いがなかった。

 雷を纏った水晶の剣が、淡く光を放つ。


「料理は食べる順番が重要じゃ。先程から早う食らってみたくてうずうずしてしまったわ」

「そうかな。ボクは誰と一緒に食べるかが大切だから、順番なんか気にした事ないや」

「ふはっは、若いの~。小娘、名は?」

「シクロ」


 互いのオーラが少しずつ近付き、空間が捩じれ、混ざり合う。

 開戦の火蓋は今この時、落とされた。


「”勇者”シクロだよ」




* * *




 宿の扉を開けると、いつも通り……いや、いつも以上の静寂が出迎えてくれた。

 街の喧騒も、怒号も、悲鳴も、全てが無かったことになるような静けさだ。


「ま、そんな訳はねぇんだけどな」


 部屋の隅に乱雑に置かれたガラクタ……ロランドが旅の途中で得た収集品の数々に目を向ける。

 全部とは言えないが、金になりそうな物、使えそうな物を優先して背嚢に詰めていく。

 壊れた魔道具、最高位の杖の欠片、効力を失った指輪、何が起きるか判らないから開けないスクロール、未鑑定の瓶――。


「思った以上に使えねえモンしかねえな……」


 こういったガラクタの収集が自身の数少ない趣味とは言え、こんな時ばかりは何て無意味な物に時間と金と労力をつぎ込んでいるんだ、こいつは。と思った。

 それ以外の事には徹底して合理性を追求しているつもりだし、その為なら他人の事もどうでもいい。

 だが、ガラクタの山を見てるとまるで自分の人生を形にしている様で少しだけ笑えた。

 ……一瞬、シクロの顔を思い出したが、あいつともここでお別れだろう。

 竜王との勝ち負けはどうでもいい。()()()()()()()()()()()()()()()、それでも時間は食うだろうし、その間にこの街からおさらばだ。

 合理性の欠片も無い、感情で突っ走るクソガキ。魔王を倒す使命を課せられた勇者サマ。


 —―俺には関係が無い。


「……ん?」


 ガラクタの山から、他の全く使い物にならないアイテムと違って、()()()()使()()()()が出て来た。

 魔法の術式が刻印された、錐の形をしたレアアイテムだった。


「あったな、こんなのも……」


 それは【羽落とし】と呼ばれる、特定の質量以下の飛行物に対して強烈な落下衝撃を与える魔法アイテム。言うなれば、対空用の対魔族武器だ。

 売ってくれた商人は鳥を狩るのに便利だ何だと抜かしていたが、下手な嘘をついていたか、普通に馬鹿だったかのどちらかだ。どちらにしろ碌なもんじゃないが。


 そもそも飛行してる相手に使う物にも関わらず、矢とかでもなく、直接刺す必要がある錐の形をとっているのはどう考えてもふざけており、当然のように役に立ったためしは一度たりとてなかった。

 使える、と説明したが、それは効力だけはあるというだけで、実用性は皆無に等しかった。


「はぁ……結構高かったんだがな。いらねえか……いや、一応レアだし売れるか……?」


 逡巡する。そして、それがいけなかった。


 この少しの雑念が、竜王ヴァルナが空を飛んでいた事を思い出させた。


「……もしかしたら」


 自身の右手を見やる。

 この、凄い効果を秘めているのに使い物にならないアイテムと同じ様な、()()()()()

 こいつも、使い道が—―。


 いや、ありえない。


 だが、もし万に一つ、あのクソガキが……シクロが、竜王ヴァルナと対等にやりあえていたとしたら?

 負けるとわかっている勝負程くだらないものはない、だが—―。

 そこに勝算が()()()()()()()()


「……一応、持ってくか」


 分の悪い賭けに乗ってしまいそうになる、悪い癖だ。

 やっぱり俺は合理的に生きていないのかもしれない。

 羽落としをポーチの中にしまい、散乱したガラクタをそのままにしてロランドは部屋から飛び出した。

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