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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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24話 槍兵ガレン1

風祭りの村の祭りは年に一度、一週間ほど続く。

もとは村民だけが集まる小さな行事に過ぎなかったが、王都とミューレの街を結ぶ街道の中間にあるこの村が、商人たちの休憩地として賑わうようになってからは様相が一変した。

連日、旅人や行商が屋台を並べる“商いの祭り”として知られるようになり、いまでは観光目的で訪れる者も多い。


そんな祭りもいよいよ佳境、最終日。

ロランドたちがヴァルナを引き込んだその日の昼。

ロランドの旧知、ガレンは赤毛の女性と並んで村の通りを見回っていた。


「くぁ……平和だねぇ」


自慢の槍を肩に担ぎ、大きな欠伸をするガレン。

それを見た赤毛の女性が、真面目な顔でぴしゃりと叱る。


「コラ、気ィ抜いてんじゃないわよ。遊びに来てるわけじゃないの」


「へいへい……つっても事件なんかそう起きやしないだろ」


「そんなことはわかってる。盗掘団出没の噂くらいで、魔物の報告もほとんど無い地域だけど――一応“村からの正式依頼”なんだから、雑な仕事してたら報酬も渋られるでしょ」


「あいあい……ジェシカ姉さんは真面目だコト」


「あんたが不真面目なだけよ……」


赤毛に褐色の肌。小柄な体に、自分の身丈ほどもある斧を背負ったハーフドワーフの女――ジェシカは、呆れ半分でため息をついた。

うちのパーティの頭目はどうしてこうも緩いのか。

戦士としての実力は高く、冒険者ランクも私の“緑翠”より二つ上の“赤灼”。

ギルドの抱えている冒険者の中では十分に「一流」と呼んで差し支えない。

模範的存在として後輩に名を挙げられることも多く、ギルドマスターから直接依頼を受けることさえある。

情報収集能力も高く、村や街での人脈も広い――つまり、有能。

なのに。


「あ、そこの綺麗なお嬢さん。そう、君! 村の子かい? 本当に綺麗だなと思ってさ……俺たち、祭りの警備の仕事で来てるんだけど、何も無くて暇でね。よかったらどこか楽しいところでも――え? 後ろの女は気にしないでいいよ。一緒に夜まで風祭り(?)しようぜ」


目を離すとすぐこれだ。女に声をかけるか、いなくなったと思えば酒場にいる。


「やめんかいッ!!」


「いだだだ! 耳は! 耳は駄目だって! 千切れやすいんだぞ!!」


「言うこと聞けない耳なんか必要ないだろ!!」


ジェシカがガレンの耳をつかんで、困り顔の村娘から無理やり引きはがす。

何度繰り返したかわからないやりとり。

もう慣れたものだ。


「村の人に迷惑かけんな! 依頼の内容的にも一番やっちゃ駄目なことでしょうが!」


「ほんの冗談じゃねぇか! ケチくせぇなあ!」


「ケチとかそういう問題じゃない!!」


二人の口論が白昼の通りに響き、周囲の通行人が笑い混じりに視線を向ける。

――これもいつもの光景だ。ジェシカは深いため息をついた。


しばらく歩くと、やけに賑やかな広場に出た。

中央には噴水があり、その前には人が集まって何かの催しを行っているようだった。


「何かイベントでもやってるのかしら」


ジェシカが興味深そうに足を止めると、ガレンが肘で軽く小突いてきた。


「おやおや? いち警備員がこんなとこで祭り見物とは、いいご身分ですなぁ、ジェシカさん?」


「うるさいわね……ちょっと立ち止まるくらい良いでしょ。時間までに戻れば問題ないし、最初から最後まで見るつもりも無いわよ」


ぶっきらぼうにいなされて、ガレンも舌を出して茶化すのをやめた。

視線をイベント会場へ向けた、その時――見覚えのある人影が目に入った。


(あれ……あの子?)


冒険者や村人に混じって、一際背の小さい銀髪の少女。

目を細めて確かめていると、その様子に気づいたジェシカが眉をひそめ、距離を取る。


「……何、気持ち悪い顔してんの」


「いやぁ、ロランドの奴と一緒にいた子供がいるんだよ。あれ、言わなかったっけ? ロランド。昔、一緒にダンジョン潜っただろ。この村に来ててさ、一昨日も一緒に飲んで――って、どうしたん。すげぇ顔してるけど」


「……嫌いな奴の名前を聞いた時の顔よ」


たった今、ガレンの顔に引いていた自分が、もっと酷い顔をしているとジェシカは悟った。

子連れだろうが何だろうが、今さらあいつの現状に興味など無い。

そう言わんばかりに、ガレンに背を向けて歩き出す。


「あ、おい! 見て行かねぇのか?」


「あいつと鉢合わせるくらいなら、仕事してた方がマシよ! あんたもさっさと持ち場に戻りなさい!」


さっきまで小言を言っていた時よりも、ずっと機嫌が悪い。

ジェシカは人ごみの中に紛れ、そのまま消えていった。


「なんだぁ? あいつ、そんなにロランド嫌いだったのか。……まぁ確かに、ちょっと――いや、かなり、相当、愛想のない奴ではあるが……」


自分で言っていて自信が無くなる。

あの男は確かに不愛想だが、無駄に、不用意に誰かの恨みを買うような性格でもない。と思う。

不器用なだけで人並みに仲間を気遣ったりできるし、人並み以上に周りをよく見ている奴だった。

そして、ジェシカとの付き合いも長いが、彼女も理由もなく人を嫌うタイプではない。

ガレンは首を傾げ、ピンと閃いた。


「もしかして……痴情のもつれ……!? 俺の知らない間に……!?」


的外れな妄想が脳内を駆け巡る中、周囲が一斉に歓声を上げた。


「おっと」と顔を上げると、先ほど見かけた銀髪の少女が視界に入る。


(……ああ、間違いない。ロランドと一緒にいた子だな)


よく見ると、少女は木製の肘当てや胸当てといった簡易防具を身につけ、木刀を構えていた。

対面には、同じく木刀を握った筋骨隆々の巨漢――体格差は五倍はあろうかという男が立っている。


「あぁなるほど……武闘大会ってわけか。……って、いや、それはヤバいだろ!」


思わず口から声が漏れた。

どう見ても、力と質量の差がありすぎる。

いくらあの少女が早熟の剣士だったとしても、一撃で吹き飛ばされる光景が目に浮かぶ。


(あれくらいの歳なら立派な冒険者資格を持っててもおかしくねぇが……)


冒険者なら自己判断と自己責任が原則。

普段ならそう割り切るところだが、ロランドの“ツレ”となると話は別だ。

万が一があってはいけない――そう思うと、ガレンは無意識に手元の槍を握りしめていた。


だが、その緊張は的外れだとでも言うかのように、観客たちは大盛り上がりだった。


「いや、すげぇよあの子! もう何人目だ!?」

「これで九人目じゃない!? ほんとに優勝しちゃうかも!」

「しかも全部一瞬! 動きが速すぎて見えねぇ!」


興奮した声が飛び交う。

ガレンが「は?」と眉をひそめる間もなく、司会者の大声が広場を震わせた。


「さぁさぁ、今年のこの大会も佳境が近付いてきたかもしれません! 順調に七連勝していた大会常連のケリーを一瞬で撃破した超・新・星! 更にそこから八連勝の快進撃! その剣技はまさしく神速! 天才少女シクロ!!」

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