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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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21話 ドラゴン危機一髪1

謎の少女と出会った夜。

ロランドは宿の自室で金品の整理と、売り物であるガラクタの清掃を行なっていた。

無言で黙々と手を動かしてはいたが、昼の一件のせいでどうにも胸の奥がざらついて落ち着かない。


(あの緑の不気味なガキは何者だ。ヴァルナとの事を知ってる時点で、ただの人間の子供って線はねぇだろ……)


(ヴァルナの配下、竜人族……いや、それも違う。主人がやられてるのを知ってて俺を襲わねぇ理由がない。

 “あの子”呼ばわりしてたってことは、少なくともヴァルナより下じゃねぇな……同格、もしくは上か?)


(……四天王、あるいは魔王……? ねぇか。俺を脅かすためだけにこんな人里にわざわざ来るほど暇人とは思えな……いや、それこそ暇潰しで街を襲撃したヴァルナこそ、その暇人か……)


魔族という連中は、こちらの理屈で測るだけ無駄だ。

見た目こそ似ていても、思考も文化も根っこからズレている。考えるだけ時間の浪費――分かってはいるが、どうにも頭が回る。


ため息を吐き、視線を横にやる。


「……スー……スー……」


シクロが、寝息を立てながらベッドで丸くなっていた。

昼からずっと不機嫌で、何かにつけて腕に絡みついてきていたが、先ほどようやく眠ったらしい。


(あの緑のガキと顔近づけてたの、よっぽど気に食わなかったんだろうな)


頬を膨らませて睨みつけてきた顔を思い出し、ロランドは小さく鼻で笑った。

「一晩寝たらケロッとしてる」――そういう単純さは、旅をする上で案外ありがたい。


静かな夜。

シクロの寝息と、ガラクタを拭く布の音。

階下の酒場の笑い声も、今夜は遠くて心地よいBGMのように感じられた。


――そして、不意に。


きぃぃぃん……と、耳鳴りのような風を切る音が混じった。


(……ん?)


ロランドが顔を上げる。

直感が、嫌な予感を叫んでいた。

手元の布を放り投げ、椅子を蹴って立ち上がり、窓へ駆け寄る。

外は夜の闇。だが、暗闇の向こうに青白い光の筋が――こちらへ向かって一直線に迫ってくる。

その僅かな時間、思い出したのは自らの能力、ドミナスレイヴの効果の一つ。

”隷属した者はロランドの居場所を何となくではあるが、把握できる”といったもの。

つまり、今、明らかに此処を目掛けて突っ込んでこようとしているアレは――。


確信と同時に、ロランドは叫んだ。


「──止まれ!!!」


「無理じゃあー!!!」


次の瞬間――


ガァァァンッ!!!


窓が爆音とともに吹き飛び、ガラス片と風が部屋に舞い込む。

青い閃光が弾丸のように突っ込み、ロランドを抱きかかえる形で突入、そのまま床を転がりながら扉を突き破り、廊下を滑走して――向かいの部屋の扉にドンッ!と突き刺さらん勢いでぶつかって停止した。


「ぐはっ……!?」


「いったたた……何でじゃ……窓の手前で、こう、かっこよくピタッと止まるつもりじゃったのに……」


床の上、ロランドの上に青髪の竜娘――ヴァルナが見事にのしかかっていた。

マントが顔にかぶさり、髪に木くずが刺さっている。


「羽が急に動かんくなってしもうた……ご主人の命令の強制力は半端じゃないのぉ……儂は悪くないぞ……」


「悪いに決まってんだろうが……」


大声をあげる気力も起きない。

寝室の方から聞こえる「すぅ……すぅ……」という寝息。

奇跡的にシクロは起きていない。

いや、結構大きい音も衝撃も立てたと思うけど、なんで起きねえんだこいつ。


「つーか、いつまで乗っかってるんだよ」


「・・・わ、詫びの気持ちをじゃな・・・」


ロランドの顔面に、ヴァルナの形の良い胸がむぎゅ、と押し付けられている。

反応せずに数秒ほど耐えていると、むぎゅ、むぎゅ、と明らかに意図的な動き。


「......一応聞くが、何のつもりでやっている。いや、ていうかその“ご主人”って呼び方は何なんだ」


「んっ……何を白々しいことを……はぁっ……儂のような可憐で美しい女を支配下に置いたのじゃぞ……あっ……ヌシの元に戻ったら何をされるか考えたら……どうせ辱められるなら今のうちから慣れておこうと思うてのう……呼び名もその一環で……いっ……くふぅ……!」


「どけ」


「あぁっ!? なんでじゃ!? 体が勝手に起き上がってご主人から離れてしまう!!」


ロランドの命令により、上体をガクンと跳ね起こすヴァルナ。


(……思った以上にバカだった。あと、貞操観念が吹き飛んでる。いや、潔いっちゃ潔いけども……)


そんなことを思っていると、廊下の向こうからドタドタドタ! と階段を駆け上がる足音。続いて、女将の怒号。


「ちょっと!! 何だい今の物音は!?」


そりゃそうだ。

部屋を転がり回って廊下まで突き抜けたんだから、宿の者が血相を変えて見に来るに決まってる。


追い打ちをかけるように、ロランドの後頭部――つまり自分たちの部屋の向かいからも、扉を連続で叩く音と怒号が飛んできた。


「おい! 騒ぐなら下行って騒げ!! 廊下で盛ってんじゃねぇ!!」


「…………盛ってねぇ。」


げっそりとした表情で小さく呟く。

状況が悪化する一方だ。

起き上がったヴァルナを睨み、吐き捨てるように小声で命令する。


「いいか。適当に隠れろ。俺がなんとか誤魔化す」


「なんでじゃ!」


なんでじゃはこっちのセリフだ。

無理矢理身体を起こし、ヴァルナのエルフのように尖った耳元で、極力苛立ちを抑えながら囁く。


「魔族様は人間の社会に馴染みが無ぇから判らんのかもしれんがな、騒音含む迷惑行為は公共の場では怒られるもんなんだよ。 とっとと言う通りにしろクソバカ・・・!」


「あひっ! み、耳元で囁きながら命令されるのはドキッとするのぉ・・・ご主人、やっぱりそういう”気”があるんじゃ・・・」


「・・・・・・・・・・・・かはっ」


人は怒りの絶頂に到達するも、その場が“大声を出すのに不適切”であった場合、一周回って声が出なくなる事がある。

理性と怒気が正面衝突の交通事故を起こしているのだ。

結果的に、今のロランドのように喉の奥から乾いた空気が出てしまう。


「おっと、これ以上は流石に拙そうじゃな。では竜王ヴァルナはクールに去るのじゃ。積もる話もあるし早く戻るんじゃぞ」


そう言うとヴァルナは、シクロの寝てる部屋へ忍び込むように入っていった。

廊下の奥では、女将の足音がどんどん近づいてくる。

ロランドは両手で顔を覆いながら、天を仰いだ。


「……めんどくせぇ~~~……」

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