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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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19話 風祭りの村4

朝の空気はひんやりとして、夜の喧騒を引きずった村の空気とは対照的にどこか澄んでいた。

空は薄く雲が広がって白く輝き、日が昇れば青く晴れ渡るのを予感させた。


まだ昨晩の酒が残っているのか頭の芯に多少の重さを感じていたが、いつも通りの時間帯に目を覚ましてロランドは自分の荷物を纏めて、まだ寝ているシクロの枕元に小遣いを入れた革の袋を置き、宿の廊下を静かに歩いて階段を降りる。

それから外に出て、宿屋から借りた三輪の手押し車を引き、裏に停めた自分の馬車の荷台から積み荷を何点か引き抜いて積み替える。


今日はやる事があった。


ロランドの旅に「伝説の魔獣を倒す」や「未開のダンジョンを踏破する」等、若い冒険者たちが掲げがちな大きな目標は無い。だが、旅をしながら何をするかは決めていた。

それは旅の途中で拾った物や獲得した物を、行く先々の村や街で露店を開いて売る、というもの。


辺境の村で大量に仕入れた工芸品や香料、ダンジョンで拾った武器から薬、魔法アイテムや使い古された盾、果ては謎の瓶や、元は鎧の一部だった板金等々……ほぼガラクタ売りではあるのだが、これが意外と売れる。

露店で売れなければ鉄は鍛冶屋に持って行けばいいし、魔法アイテムは道具屋へ、……といった具合に、どんなものでもそれなりに金になる。

20年近く続く旅において、馬車は幾度と無く乗り換えたし、傍から見たらゴミにしか見えないガラクタ達から需要が有るものを見抜けるくらいには観察眼も鍛えられたロランドは、基本的に先行きの見えない冒険者という立場でありながら、それなりに安定した生活を続けられるレベルではあった。


――村の中心にあるメインの市場は、既に職人や行商人たちの活気で埋まっている。

規模が大きい露店を扱う商人たちほど朝は早い。

しかし向かうのはそこではない。市場からやや()()の場所にある、道沿いに面したスペース。

昨日ロランドが足を止めてじっくりと物色していた露店達が並ぶ通りだ。

こういった場所でも露店を開く場合は、商人同士のトラブル回避の為にスペースを管理している村の商会に掛け合う必要があるが、前日の内に手続きを済ませていたロランドは自分のスペースを確認してから風呂敷を広げ、その上に荷を下ろす。


手押し車の荷台に積んだ数々のガラクタの中から、村の祭りに合う”商品”を手早く並べる。

からくり細工の人形や装飾品、何らかの宝石で出来た飾り物等、観光客・村人のような一般人に向けた物から、先日盗掘団から強奪した短剣の数々やダンジョン攻略に役立ちそうな道具などの冒険者向けの物も取りそろえる。


配置が終わったら後は客が来るまで暫く待機。

朝起きてすぐに作ったコーヒーを水筒からちびちびと飲みつつ、乾燥したパンを齧る。

味気のないパンを一つ、ゆっくりとたいらげて二つ目を手に取る。

一緒に、小さく包装した紙から四角い塩漬けのチーズを取り出して、こちらも少しずつ口に入れながら、それをあてにパンを齧る。

塩辛さをパンで中和して噛み締め、チーズのまろやかさを堪能してからコーヒーの苦味で飲み込む、これを繰り返す。

決して美味な組み合わせではないが、これがロランドのいつもの朝食である。健康的かは疑問だが、ほぼ確実に目が覚める。


時間をかけて朝食を摂っていると、次第に他の商人たちも姿を現し始め、手慣れた様子で露店の準備を進めていく。

ロランドの両隣もあっという間に埋まり、あちこちから布を広げる音や品物を並べる音、値札をつける小言などが聞こえてきた。


ロランドの露店は、周囲と比べるとあまりに無愛想だった。

飾り気など一切無く、布も掛けずに並べられたガラクタや骨董品のような品々。

だが逆に、それが奇妙な統一感のなさを生み出し、通りすがりの者の興味を引いていた。


活気が通りに満ちていくと同時に、通行人の足も増え始める。

村の住人、外から来た観光客、各地を旅する冒険者たち……

子どもたちの歓声が響き、親子連れや老夫婦がのんびりと通りを歩く。

そんな中――


「おう兄ちゃん、これくれや。幾らだい?」


ガタイの大きい中年の男が無造作に積まれた品から、分厚い金属の板らしき物体を指差す。

それはミスリルと呼ばれる金属……で作られた鎧……だった物の一部である。

ミスリル金属は加工がし易く頑丈と、鍛冶師にとって非常に優秀で汎用性も高い。

本来であれば独特な灰色の輝きを持っているが、経年劣化でくすんでしまっている……にも関わらずこれを迷うことなく購入しようとするのであれば、見た目から考えてもこの男は鍛冶師だろう。

そういう相手であれば—―。


「あぁ……こんなもんでどうだ?」


ロランドが両手の指を五本と一本上げてみせると、客の男は顔を少々訝しめる。


「六かぁ……四にゃなんねえか?」

「……五だな」


これくらいのミスリル板は、倍とはいかないが未使用の新品であればもう半値ほど高い。しかし一度何かに加工したとしても、供給に対して需要がそもそも高いので値崩れは殆ど起きない金属なのだ。


「か~っ! じゃあそれでいいや。ほれ」

「どうも」


—―相場より、僅かに高く設定する。


とは言え、大概の客は値下げを要求してくるもので、そこで本来の相場を提示すれば—―殆どの客は納得して買っていく。相場の知識が怪しい相手であれば気分良く帰ってくれる。

多少厄介な相手であれば、そこからが本当の値段交渉になるが……まぁ、ロランドの場合は元手が殆どタダ同然のガラクタなので、多少相場より安く売れても儲けものである。


そういう訳で、男は銀貨を六枚、ロランドに手渡してミスリルの板を持って去って行った。


(祭りは良い。誰も彼もが浮かれてるから財布の紐が緩んでくれる。これでまた少しは物が減るな)


—―それから客足は徐々に増えていく。

盗掘団から奪った短剣や探掘道具も、砥石と自作の洗浄液で磨いて、格安で置いていたらすぐに全部無くなった。

壊れた楽器や、変な形の木の枝や石、魔法石が抜き取られた杖……どれもこれもが売れていく。

”見る人が見れば”価値のある物を、出来る限り清掃しておけば人通りの多い祭りで中々の成果を上げてくれるものだ。


そんな調子で物を売っていると、すぐに太陽が一番高い所まで登って来ていた。



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