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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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2話 竜王ヴァルナ 1

「ふはーっはっはっは!! 何じゃ多少は活きが良いのがおるのぅ!そうでなくてはのぅ!」


 蒼炎を纏い、高笑いする双角の娘。よく見れば鱗に覆われた羽も尻尾もある。

 その出で立ちはドラゴン。最強の生命体と謳われるドラゴンを模した物に見えた。

 というよりも、恐らくは……。


「儂ん名はヴァルナ! 魔王直属の配下、四天王が一人! 竜王ヴァルナであーる!! 此度はちょっくら暇潰しに街の一つや二つ、ぶっ壊しに参った!!」


 —―ドラゴンそのもの。それも、特段に危険な。

 その姿は、幼さと威厳、そして狂気が同居していた。

 鮮やかな青紫の東洋風の装束に、漆黒のファーを纏ったマント。

 スリットの入った衣装からはしなやかな脚が覗き、尻からは細くしなった竜の尾が揺れている。

 頭には煌々と輝く双角。背中には、鋭くも鈍い色で青く光る翼。

 遠目からでもわかる、薄い鱗で覆われた指先の鋭い爪。それは彼女が”人の形を取っているだけの怪物”であることを物語っていた。

 童顔にアイシャドウを施したその顔立ちは、まるで人形のように整っていて美しい――だからこそ、背筋が冷えるほどに異様だった。


「ついでに冒険者とかいう、あわよくば魔王や儂らを討伐したいなーとか考えてる身の程知らずのバカ共と、ちょびーっと遊んでやろうと思ってのぅ」


 魔族の頂点―――魔王。

 その直属の配下として動く4人の魔族、通称”四天王”。

 鬼王、嵐王、命王、そして目の前で街を破壊してみせた竜王。

 冒険者の目標の最大到達点とも言える、存在そのものが災害級のバケモノ。

 そのバケモノが、明らかにこちらに目を合わせて、笑っていた。


「……最悪だ。終わりってのはこうも唐突に来るもんか」


 若い時分に冒険者となって20年近く。

 死なない事を第一に考えて慎重に行動していたつもりだったのに、こんな事故の様な終わりを迎えるとは……。

 ロランドは完全に諦めモードに入っていた。だがそれもよくある冒険者の結末の一つであり、何も知らないままいつのまにか命を落としていたなんて事になっていないだけマシかもな、と思った。


「―――うおおおおっ!!」


 次の瞬間、雄たけびを上げながら、街の戦士がヴァルナに突っ込んでいった。


「おほっ♪」


 ロランド達を見ていた視線が、戦士の方を向く。

 剣を振り回して何度もヴァルナに斬りかかるが、ヴァルナは丸腰にも関わらず、一歩もその場を動いていないのに一太刀もその身を掠めない。


「ふははっ、頑張れ頑張れ❤ 少しでも傷を与えられたら貴様に抱かれてやってもいいぞ?」


「ぐっ……舐めるなバケモンがぁぁぁ!!」


 剣による怒涛の攻撃を叩き込むも、竜の爪に全て受け流される。

 鉄と爪がぶつかる度に小さい火花が舞う。


「応戦準備! 前衛は盾を構え! 後衛は魔法詠唱を開始! 奴の注意を逸らせ!!」

「おお~~~! よいぞよいぞ!」


 ヴァルナが戦士の剣技を弾いてる内に、次々と他の冒険者たちが集まってくる。

 この街を拠点とする冒険者たちが、恐怖を押さえつけて立ち向かう。


「遊び相手なんぞ何匹おってもよいからの~~~。――あ、ヌシはそろそろ死んでいいぞ」

「何ッ!? ―――ぎゃッ……」


 ヴァルナが腕を一振りすると、紙のように剣もろとも戦士の顔が引き裂かれ、無残にもその身が崩れ落ちる。

 血を噴き出して動かなくなった戦士には目もくれず、次の獲物達の方を見やる。

 それはまるで小動物を虐待して快感を得る異常者の如き様相。

 きっとここから起きるのは一方的な大虐殺でしか無いだろう。

 そしてその果てにこの街は滅びる。確定事項でしかない。ロランドはそう確信していた。

 だが幸運にも、床に転がってる戦士と、これから同じように転がるであろう冒険者たちの到着によって自分が一番最初に肉塊にされるのは免れた。


「……よし、シクロ」

「勿論だよ師匠!」

「とっとと逃げるぞ」

「あいつぶっ倒そう!!」

「は?」

「へ?」


 真逆の意見が相手の口から飛び出て、お互いが信じられないといった顔でお互いを見た。


「……お前さっきの見ただろ? 一人死んでんだぞ。一撃で。」

「そうだね」

「……あの戦士、多分って言うか……絶対俺より強かったよな」

「師匠、弱いもんね~~~。今あそこにいる人達の誰よりも多分弱いもんね」

「言ってくれるじゃねえかクソガキ」


 悪びれも無く無礼を宣うシクロに、しかしロランドは反論しようとはしなかった。

 そう、このロランドという冒険者、歴こそそこそこ長いが、戦士としての実力は低かった。


「俺は面倒事に巻き込まれずに一日一日をその日暮らしできればそれでいいんだよ」

「そんなのはあいつを倒さない理由にはならな~~~い!!」


 耳元で、大声で叫ばれる。

 反射的にシクロの頭めがけて拳を振り下ろしてしまったが、当たり前のように避けられる。


「お、お前……マジでぶっ殺すぞ……」


 耳がキンキンする。こめかみを抑えてしかめ面をするロランドを無視してシクロは吠える。


「師匠、ボクより弱いんだから殺せるわけないでしょ!」


 本当に、言ってくれる。

 これにも反論はできない。事実だから。


「あいつ、滅茶苦茶強いよ。ボクが見た中で一番強いかも。でもボクなら……ボク達ならきっと……多分……もしかしたら……」

「……自信ねえんじゃねえか」

「いや! 絶対倒せちゃう! 任せて!」


 がばっとシクロが立ち上がり、ロランドに背を向けて剣を鞘から抜き、ヴァルナへと歩みを進み始めた。

 その剣は水晶で出来ており、雷の煌めきを放ち、神々しい光を纏っていた。

 歳に全く見合わない強者のオーラ。

 ロランドの人生を何周しても到達できない高みにいる。何度見てもそう思わされる。


「めんどくさ……」


 今日何度目かのため息をついた。

 なし崩し的に戦う羽目になってしまった。もしかしなくても今日が人生最期の日になるかもしれん。


「シクロ」


「ッ! ……何、師匠!?」


 にこにこ顔でこちらを振り向かれる。嫌だなぁ~~~癪だなぁ~~~。

 そう思ってしまったロランドはゆっくりと立ち上がり……。


「後は任せた」


「え”っ”」


 踵を返して、その場から走り去った。

 やってられるか。さっきまで99%だった死ぬ確率が一気に下がったんだ。

 どう考えても逃げの一択だろ。


「し、師匠~~~~~!!! もう、馬鹿ぁ~~~~~~!!」


 俺は師匠でも何でも無い。ただ合理的に動くことを第一に考えた一介の冒険者である。

 この選択でいい。この選択以外ありえない。早いとここの場から離れて、この街から出て行ってしまおう。遠くなるシクロの声と戦闘の音を背に、全速力でロランドは駆けて行った。

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