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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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17話 風祭りの村2

 老人に教えてもらった方角に馬車を進ませると、すぐに木造の大きな建物が目に入った。

 馬車を建物の裏手に停めると、シクロがロランドの横にぴょんと飛び出して並び歩く。

 建物に入ると丸椅子に腰かけた客がちらりとこちらに視線を向ける。一階は酒場と聞いていたが、どうやら日中は食堂として営業しているらしく、まばらに客らしき人の姿が見えた。

 帳簿に目を落としていた受付に声をかけると棚から鍵を一つ差し出してきたので、ロランドは代金として銀貨を支払って二階に向かおうとしたが、シクロが受付に浴場の場所を聞き出して「ボク先にお風呂!」と言って、元気に駆けて行くのを見送った。


 二階へ上がり伝えられた番号の部屋へ入ると、窓際に机と椅子、端に寝台が二つあるだけの実に簡素な作りの部屋が出迎えてくれた。

 荷をほどいて暫く待っていると慌ただしい足音と共に風呂上りのシクロが部屋に入って来て、早く外に出ようと急かされながら重い腰を上げ、鍵をしめて部屋を後にする。


 村の中心部まで行くと祭りらしく露店が立ち並ぶ通りに入った。その多くは飲食と工芸品が殆どである。

 メインストリートから少し外れた場所になると、旅の行商や冒険者向けの雑貨屋、魔道具や骨とう品、果ては占い屋だの明らかな呪物等を売る露店が目立つようになる。

 ロランドの目当てはこういった”外れ”の露店群であり、自身が冒険で集めたガラクタや、昨晩盗掘団から略奪した武器や道具などを売りさばく場を、村や街を訪れる度にチェックしていた。

 普段はなんて事ない村の道路が、祭りの活気で埋め尽くされている。きっと村の外にも有名な祭りなのだろう、観光客らしき姿をとても多く見かけた。

 露店をじっくり眺めるロランドの傍ら、シクロが退屈だと騒ぐので小遣いをやったら「わーい!」と声をあげて走ってどこかへ行ってしまう。


 シクロがいなくなったのを確認して、静かに露店を物色するのを再開していると、通行人に肩がぶつかった。


「すまない」


 ロランドが顔を上げて謝罪すると、金色の髪を逆立てた長身の男がそこにいた。


「おっと悪い、こちらこそ......あれ、お前......ロランドか?」

「......ガレンか」


 懐かしい顔に、思わず眉をひそめる。

 その高い背丈を越える槍を携えた戦士ガレンは、かつてロランドと共にダンジョン探索を行った事もある旧知の仲……。


「ちっ、うるせえ奴がいなくなったと思ったらまた鬱陶しいのに会っちまった。どっか行け」


 ……の筈なのだが。

 ロランドはあからさまに嫌そうな顔をガレンに向け、しっしっと言わんばかりに手を振る。


「傷つくなぁ! 久しぶりに再会した元パーティメンバーへの仕打ちかそりゃあ!?」

「お前なんぞとパーティを組んだ記憶はねえな」

「ひどい!」


 大袈裟に肩を落とすガレンを無視して、ロランドはまた露店の棚に目を戻した。


「まだガラクタ集めて売り歩いてるのか? 金になるんかねそんな事して」

「てめーに関係ねーだろ」

「つれないなぁ。それでも昔よりはマシだけどよ」

「昔の話をするんじゃねえよ……ていうかお前こそ何でいるんだ。まさか観光に来たって訳でも無いだろ」

「ギルドの依頼でよ、大所帯のキャラバンの警護についてきたのさ。祭りが終わるまでは滞在するみたいだし、ついでに村の警備の仕事も請け負って一石二鳥よ。ま、とは言っても見回りか酔っぱらいの喧嘩を止めるくらいしか無さそうだから楽なもんだけどな」

「そうか。おつかれ。早くどっか行け」

「待て待て。せっかく知った顔に再開したんだ。今夜にでも一杯やろうぜ? 酒場くらい知ってるだろ」


 ロランドが渋い顔をして睨むも、ガレンはこの態度にも鳴れているのか気にする素振りが無い。


「……俺の泊まってる宿の一階が酒場だから、そこでいいか?」

「はは! 昔より話が早くなってて助かるぜ。夕方になったら落ち合おう。逃げんじゃねーぞ?」

「泊まってるつっただろうが。どこに逃げるってんだよ」

「それもそうだな。じゃあまたな」


 宿の名前を伝えてやると、ひと笑いしてガレンは手を振りながら、ざわめく人の波の中へと消えて行く。

 ロランドはまた一つ、深く長い溜息を吐いた。


「……まぁ、無駄な事ばかりでも無いから良いか」


 ガレンは一般的に見ると”気のいい”男である。ギルドの仕事も幅広く請負い、様々な冒険者たちとパーティを共にしたベテランの戦士だ。

 ロランドのような不愛想な冒険者にも分け隔てなく声をかけるし、久しぶりに会ったからといって飲みに誘ってきたりもする。

 ロランドも彼を特別嫌っている訳では無いのだが、ああいった調子の軽い相手とはどうにも距離感が掴めない。そもそも何で一回かそこら、依頼で一緒になっただけの男の顔を覚えているんだ、と思う。一回だったか? もう殆ど覚えて無い。

 しかし冒険者の話というのは大なり小なり役に立つ物で、ガレンのように交友関係が広い者から得られる情報というのは軽視するものではない……ので、渋々ながらもガレンと飲むのを承諾した。


 露店に再び目を向ける。

 そこには「用途不明」と書かれた木箱に、妙な形の金属片や割れかけた仮面、透き通った赤い石が無造作に詰められていた。

 その中から一つ、翡翠をあしらった髪飾りを手に取り、迷うことなく代金を支払った。

 やや古ぼけた質感の髪飾り、しかしこういった場所で無造作に売られているならば未鑑定の魔法アイテムの可能性もある。ロランドは直感でそういった買い物をする事がままあった。

 ……大概がガラクタだが。そうであればシクロにでもくれてやれば喜ぶだろう。


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