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神魔の隷王  作者: 地下渓谷


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16話 風祭りの村1

 壊れた風車小屋で一夜を明かし、まだ空気の冷たい早朝。

 ロランドが荷物を整え始めると、すぐにシクロが寝ぼけ眼のまま川へ水浴びに向かった。が、程なくして「冷たい! 冷たいぃぃ!」という叫びと共に、半裸のまま全力で引き返してきた。


「やっぱり村についてからでいい……お湯浴びたい……」


 とだけ呟き、荷台に飛び乗って毛布にくるまり、それきり静かになった。

 ロランドはため息ひとつ吐き、眠気の残る頭を軽く振って馬の手綱を取る。街道へ出て、陽が高くなる前の空気を切るように馬車を進ませる。

 やがて、前方に旅人や荷車の列が現れ始め、ロランドは先行していた行商の馬車を追い越す際に声をかけた。


「前を失礼。ひとつ尋ねたい、目的地は?」

「よう旅人さん。この先にある村さ」


 と、馭者が朗らかに答えた。その声にシクロの耳がピクッと動いたが、毛布からは出てこない。

 ロランドはと言えば、盗掘団の頭目が適当をほざいていた訳では無かった事に、内心で胸をなで下ろしていた。


「あぁ、良かった。一応村があると聞いてはいたんだが確証が持てなくてね。あとどれくらいの距離かわかるかい?」

「そうだな、太陽が昇り切る前には着くんじゃないかと思うがね」

「ありがとう、助かるよ」

「おう、良い旅を」


 馭者が手を振るのに一礼を返して、ロランドの馬車は先を行く。

 そこからさらに小一時間。緩やかな丘を越えると、ついに視界が開け、陽光に輝く小さな村が姿を現した。


「予定より早く着いたな」

「すっごい賑やかだね! お祭りかな?」


 シクロが荷台の後ろからロランドの肩越しに身を乗り出す。太陽を受けて輝く村は、まるで風そのものを祀る神殿のようだった。

 家々の屋根や軒先には、色とりどりの吹き流しがたなびき、回転する風車がきらきらと反射光を撒き散らす。

 あちこちに吊された風鈴が、風に合わせて澄んだ音を奏でている。

 近づくにつれ、風に乗って祭囃子の笛や太鼓の音が耳に届き始めた。活気に溢れた笑い声や呼び声も、ちらほらと聞こえる。

 シクロは目を輝かせて辺りをきょろきょろと見回し、鼻をひくつかせながら落ち着かない様子で声を漏らした。


「ねぇ、なんか良い匂いしない? あれ、屋台かな? ね、あっち行ってみようよ!」

「馬車に乗って観光なんかする訳ねえだろ」


 シクロの方も向かずに窘めていると、ちょうど通りかかった藁帽子の老人がロランドたちに声をかけてきた。


「ようこそ。旅の方かい?」


 ロランドは手綱を軽く引いて馬車を止め、軽く会釈する。


「ええ。すいません、ここには初めて来たんですが……今日は何か特別な日なんですか?」

「二年に一度の祭りさ。風祭りって聞いたことないかい?」

「……ああ、これが」


 前に滞在していたミューレの街で、近隣の村や街の情報を集めていた時に聞いた記憶がある。

 時期が近いとは聞いていたが、偶然祭りの期間中に来れたとは運が良い。


「やっぱりお祭り!? ねぇねぇ、美味しい物あるかな!? あるよね!」


 シクロが急に目をきらきらさせながらロランドの耳元で大きい声を出しながら肩を揺らす。


「ほっほっほ。妹さんかい?」

「……いえ、まぁ……そんなところです」


 ロランドは肩をすくめて苦笑する。

 大声を出されて反射的にシクロをどつこうとしたが、老人があまりにも微笑ましいと言わんばかりの表情で見ているので思いとどまった。


「後で勝手に出歩いていいから、少し黙ってろ……」

「ぶーっ!」


 あからさまに不満そうに唇を尖らせるシクロに、ロランドは眉をひそめながらもどこか諦めた様に視線を外す。


「ほほ、元気な子じゃないか。見たところ冒険者の方のようだが……宿ならこの先を真っ直ぐ行ったところにあるよ。一階が酒屋だからちょっと判りづらいかもしれないけどね」


 老人はそんな二人のやりとりに微笑みを浮かべたまま、道の先を指差した。


「丁度探していたので助かります」

「祭りはあと三日はやるから、楽しんでいってね」

「ええ、では」

「ありがとうね、おじいちゃん!」


 老人が手を振ると、シクロもそれに返す様に軽く手を振った。

 ロランドは一礼し、再び馬車を動かす。


 思い出すのは、夜を明かした風車小屋からここまでの道中、無風とは言わずとも不自然なほどに風が少なかったのに、この村に入る辺りから緩やかながらも風を感じるようになった事。

 風祭りの祭りというくらいだ、そもそもここら一帯は地理の問題でこの村以外は風が吹きづらくなっているのだろうか。


 ロランドが無言で考え込みながら、未だに自身の肩から身を乗り出したままのシクロの方に視線を移すと、にやにやと薄笑いをしていた。


「何度見ても師匠が敬語使ってるの、ちょっときもいよね」

「そんな事言ってる限りロクな大人になれねえからなクソガキ」

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