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13話 いじめはだめだよ2

 ロランドはため息をつき、奪った荷物の数々を荷馬車に移動させる。

 数多くのガラクタに混ざり、短剣や遺跡で盗ったであろうアイテム、もしかすると他の冒険者から奪ったかもしれない荷物の数々を重ねていく。


「……もう喋って良いぞ」


 視線も合わせずそう言うと、ヴァルナがようやくと言わんばかりに吼えた。


「で!! なんなのじゃおヌシは!!」


 ……うるさい。

 また寝かせてやろうかと思うが、やる事があるので踏みとどまる。


「おい、手をあげろ。両手だ」


 焚火の傍に置いてある、先程自身が食っていた干し肉を拾い上げロランドは立ち上がる。

 ヴァルナが一瞬「何を言っておる?」と言わん顔になるが、すぐに身体が勝手に動きだした。

 ピクリと肩が揺れ、羽が震え、表情がこわばる。言われた通りに両腕を頭の上にあげた。


「……ふはっ、不思議じゃの~。考えてる事と全く違う動きをしてしまう。こりゃあ屈辱じゃ!! ふはは!!」


 愉快そうに笑うが、目は一切笑っていない。

 言うまでも無く、自尊心を侮辱されて怒り狂っている者の目つきをしている。

 ()()()()()

 喰いかけの干し肉をヴァルナの前に投げ捨てる。

 次に俺からされる命令を想像できたのだろうか、今にも血管から血が吹き出そうな怒りのオーラがビシビシとロランドの肌を刺す。

 しかし、ロランドという男が抵抗の出来ない者の殺気をまともに受け止める訳もない。


「食え。使って良いのは口だけだ」


 淡々と言い放つ。

 ヴァルナの身体が意志とは真逆に命令に従い始め、手を頭の後ろに回したまま膝を地につき、ゆっくりと顔を落ちた干し肉に向ける。


「いい趣味しとるのぅ~」

「生憎とそういう趣味じゃねえよ。検証だ」

「検証? 検証だと? 竜王たる儂の斯様な姿では娯楽にすらならぬと申すか? ……ふは、ふははっ……この得体のしれん()()が解けたら覚えとれよ、人間」


 ロランドの能力――《ドミナスレイヴ》。

 その能力の全貌とは、()()()()()()()()()()()()()、という物。

 種族による制限はなく、女でさえあれば人間は勿論、亜人、魔族、果ては獣までも手懐けられる。

 しかし発動条件が有り、()()()()()()()()()()、と心から感じている状態でなければならない。

 今回のヴァルナ相手には、自分を得体の知れない存在と印象付けて、姿を現すと同時にシクロの殺気をロランドの物と勘違いさせ、その一瞬を突いて発動させるという、かなり特殊な方法で発動を成功させたが、基本的には不意打ちから相手を拘束して発動させるなど、王道のルートが存在する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ちゃんと文字にしてみると実にバカバカしい字面だ。実際、ロランドは様々な相手にドミナスレイヴを試し、効果の検証を行ったが、最終的には「自分の旅において、使用用途があまりにも限られた無駄な能力」として位置付け、あまり使わなくなった。

 大体、強さの高低などすぐにわかる物では無いし、その上、発動を相手の心境に合わせなければならないなんて馬鹿げているにも程がある。

 そもそも大した戦闘技能を持たないロランドが不意をつける者など高が知れていたが、ヴァルナは明らかにそれらとは一線を画しており、ふとした瞬間に効果が切れて次の瞬間には視界が血で染まりかねない程の威圧感を有していた。

 しかしその効果は、世界が定めた秩序にも等しい強制力である。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――ヴァルナがどれだけ怒り狂おうとも、その身はロランドの命令を実行するだけの傀儡となるべく、動き続ける。

 豪奢な尾が地を這い、スリットから見えるしなやかな脚を折り曲げて首を落とした。

 焚火の影が彼女の身体の曲線を柔らかくなぞり、竜人としての威厳とはかけ離れた姿が露わになる。

 舌を伸ばして干し肉を掬い取ろうとするも、簡単にはいかずに何度も唇から落ちて拾い直す、その様は犬か猫もさながらであった。


「は……はむっ……ふ……」


 ヴァルナの頬が紅潮する。それは怒りか、恥辱の念か。

 吐息交じりの声を漏らしながらようやく干し肉を唇で掴み、ゆっくりと口内へ運ぶ。

 何度も落としたせいで、唾液についてきた砂も一緒に牙でかみ砕く羽目になったが、何とか喉を鳴らして飲み込むことができた。

 顔を上げると、ロランドは全く変わらない表情でヴァルナを見下していた。


「お前ほどのやつがどれだけブチギレようと思っても、絶対に逆らえないってのが判って安心したよ」

「それを確かめるための一連の命令という訳か。その様な動作確認紛いに付き合わされるとは、まっこと不愉快じゃの~」


 上がりっぱなしの両腕をようやく下げさせると、ヴァルナは焚火の横に腰を下ろした。

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