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12話 いじめはだめだよ1

 外が静かになる。

 頭を包んだ布を外し、身を起こした。


「シクロ、お前が出なくても問題無いから出てくるな。そのまま寝てろ。起きてたら見張り交代させるぞ」

「う、うん……」


 小屋の扉を開いて再び外に出ると、盗掘団達が無残にも全員横たわっていた。

 目の端に、馬車の馬も泡を吹いて気絶していたのが見え、多少悪い事をしてしまった気がした。村か街についたら良い餌を買ってやろう。


「ヴァルナ! 降りてこい!」


 空を旋回していたヴァルナが急降下し、地面の直前で翻って着地した。

 とても不服そうな顔でロランドを睨んでいるが、強制的に眠らされ、訳も判らず起こされたと思えば、竜の力を雑魚散らしに使われては良い気分もしないだろう。


「人間、説明してもらおうかの? 儂、どうなっとるんじゃ? ヌシを切り刻んでやろうと思っても身体が動かん。そしてヌシの命令に全く逆らえん。この竜王相手に呪いでもかけたのではなかろうな」

「後で説明してやるから黙ってろ」

(なんじゃこいつむかつくの~~~! ……ぬぅ! もう喋れん!)


 釈然としないまま喉から声が出なくなったことに苛立ち、尾や羽をバタバタと動かすヴァルナを尻目に、ロランドは倒れた盗掘団に近付き、腰の短剣を引き抜いた。


「おい、てめぇが頭目か?」


 先程一番に喋っていた、額に傷のある初老の男。

 周りの連中は気を失って小刻みに痙攣して倒れていたが、こいつだけが意識を保っていた。


「な……何しやがった……!」

「質問に質問で返してんじゃねえよ。立場が判ってねぇのか。どうなんだ?」

「そ、そうだ……」


 短剣を頭目の手の真横にザクッと突き立て、身を屈めて見下ろしながら告げる。


「さっさと起きて隠れてる奴等含めて全員の武器、それと金目のもんを全部置いて今すぐ失せろ」

「なっ!? ふざ、ふざけてんのか……!」

「お前の子分共の指をナイフで一本ずつ切ってやろうか? それともあいつに一人ずつ殺してもらった後に死体漁りでもしてほしいか?」


 後ろのヴァルナを親指で指す。

 とにかく不愉快そうな顔が目に浮かぶが、どうでもいい。

 咆哮だけで自分たちを行動不能にする様な竜人の恐怖など推して知るべしだ。

 無抵抗の盗賊風情、爪の一振りで即死は免れない事くらい想像がつくだろう。


「次は無い。早くしろ」

「くそったれが……! つまらねえ奴に目つけちまったもんだ……」

「こっちのセリフだよ、馬鹿野郎」



 * * *



 ヴァルナにも手伝わせ、隠れていた連中を一カ所に集めさせた。

 みな一様に気を失っているが、そのまま倒れられていても邪魔なので頬を叩くなどして意識を取り戻させる。

 しかしヴァルナの呪いはいち盗賊程度には過ぎた効果らしく、目覚めても全員が全員、蹲って苦しんでいた。


「これで全部か?」

「あぁ、仲間もこれで全員だ……」


 盗掘団共の手持ちの短剣やポーチ、遺跡の収集品を押し込んでいるであろう背嚢やら何やらが積まれた。

 ロランドは乱雑にそれらを開き、チェックする。

 これではどちらが強盗なのか判らないが、先に略奪を仕掛けた者からは何処までもむしり取る事を、ロランドは決めていた。


「……何だこれ」


 一番大きい背嚢を開くと、エメラルドグリーンに光る水晶が出て来た。

 手に取ると、月の光や焚火由来では無く自ら発光しているのが判る。

 明らかに普通の宝石ではない。所謂オーブと呼ばれる物だ。

 ロランドが顔を向けると、頭目が「そ、それは……」と狼狽える。


「遺跡の……近くにある遺跡の奥から盗ってきたもんだ。……なぁ、せめてそいつは勘弁しちゃくれねえか? 一番の戦利品なんだよ。言うなら、そいつの為にこうやって徒党を組んでるんだ! そいつが奪われたとなっちゃ、俺ら食いっぱぐれちまう!」


 命乞いにも似たトーンで懇願する頭目だが、ロランドはオーブを背嚢に戻して乱暴に放り、無言で近付く。

 そのまま動けない子分の手の小指と薬指を乱暴につかんだ。


「いでででででで!!」

「な、なにを……!」


 叫ぶように呻く子分、しかしロランドはしっかりと指を掴んで離さない。

 ゾッとする程に冷たい声色で頭目と目を合わせて言う。


「折り、切る。全部無くなったら、殺す。一人ずつやってやる。俺もこんな時間に人の叫び声なんか聞きたくねえからよ、もう一回だけ猶予をやる。次は無い」


 ()()

 この男はやる。言葉通りに。


 そうとしか思えない迫力に気敗けした頭目は額を地面に擦り付け土下座する。


「すまねぇ! わかった、全部持って行ってくれ!! だから許してくれ! こいつらに手を出すのは勘弁してくれ……!」


 頭目が掠れた声で叫び、ロランドは無言で盗賊の手を放した。

 子分はそのまま手を抑えながら呻き続ける。


「もう用はねえ。失せろ。動ける奴は動けん奴を担いでこの場から消えろ」

「くっ……わかった。おう、お前ら、行くぞ……!」


 頭目が重くなりまともに動かない身体を起こし、仲間を担いでロランドから距離を離し始める。

 それに悔しさを隠さない子分もいたが――。


「お、親分……でも……」

「やめろ!! ……俺達が言えた口じゃねえが、相手を選べ」


 一喝され、押し黙る。

 頭目がこちらの表情を伺う。ロランドの機嫌を下手に損ねない様に気を遣っているのが見て取れる。


「……あぁ、最後にひとつ聞かせろ」

「ひっ」

「もう何もしねえよ……この辺に村とかねえか?」


 すると、頭目の男はロランド達がこの風車小屋を見つける前に歩いていた街道を指差した。


「……あの街道に入って道なりに南に下れば、早朝から歩いてけば昼過ぎには着くだろうよ。祭りの時期みたいだから、あんたみてぇな怖え兄さんは歓迎されねえかもしれんがな」

「言うじゃねえか。失せな」


 そのまま苦しそうな呻き声をあげつつ、少しずつ盗掘団は夜の闇に溶け込み、離れ、消えていった。

 やはり道なりに歩いていけばすぐに村まで辿り着いていたか……寝て起きたらすぐ出発しよう。

 シクロが水浴びをしたいと言っていたから少し時間はかかるかもしれない。

 ――その前にもう一つばかり、しなきゃならん事もある。

 喋れなくなったまま不機嫌そうにこちらを睨むヴァルナを目の端に確認し、そう考えた。

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