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11話 壊れた風車小屋

 風車小屋の扉を開くと、軋み音が鳴り響いた。

 外観こそ朽ちてはいたが中は思ったよりも広く、壁も屋根もしっかりと残っており雨風を避けるには十分だ。

 月明かりが、屋根に空いた穴から静かに差し込んでいる。

 馬を近くの木に寄せて繋ぎ、道具を下ろして手早く野営の準備を始めた。

 床に布を敷き、簡単な枕代わりに荷物をまとめる。

 そこにすかさずシクロが座りこみ、かけ布団代わりの布で身を包んだ。


「……近くに川あったんだから水浴びに行けよ」

「疲れちゃったから今日はもう寝ちゃう……」


 言いながら欠伸をし、そのままごろんと横になってしまう。

 今日は色々あったし、実際シクロが疲労で倒れても仕方ない働きをした事はロランドも承知しており、それ以上は何も言わなかった。


「……ほんとは俺が先に寝ようと思ってたんだがな。こいつ、寝ると中々起きねえし」


 常に気を張りつめていてもつまらない。

 今日くらいはシクロのやりたいようにやらせようと思った。


「う~~~ししょう~~~」


 目を瞑ったままバタバタと手足を揺らす。

 たまに甘い態度を取ってやるとすぐこれだ。次に飛んでくる言葉は聞くまでも無くしょーもない事に違いない、とロランドは直感した。


「なんと今ならぎゅーっってするのも、なでなでするのも、ちゅ、ちゅ……ちゅーもやり放題……だよ!?」

「キリッとした顔で何言ってんだこのバカガキ。早く寝ろ」

「うわ~~~ん! いけず!! いいもんいいもん!べーっ!!」


 布団代わりの布を翻して反対方向を向き黙ってしまう。

 そのまますぐに寝息が聞こえてきた。

 ロランドはそれを見て、ため息をつきながら見張りのために風車小屋から出た。


「全く、随分とやかましくなったもんだな……この旅も、あいつも……」


 馬車の荷台から薪を幾つか取り出して簡単に積み重ねる。

 自身のポーチから魔法石の打ち込まれた火打ち石を二つ取り出して何度か打ち合わせると青白い火花が起き、乾いた木の皮がぱちぱちと燃え上がり始めた。

 そのまま座り込み、スローペースで枝を一本ずつ投入しながら焚火を育てていく。


「今日は色々ありすぎた……もう何も起きないといいが……」


 焚火を燃やすのは獣や野党を呼び込む可能性もある為、場所によっては適さない事もある。

 普通なら風車小屋の近くなんて風が強くて当たり前だから、火が巻き上がって他の場所に引火しかねないので焚火なんてご法度だ。しかしこの周辺は少し不気味に感じる程に風が吹いていない。


 焚火を前に、ロランドは静かに身を丸めた。

 火の粉が時折青白い尾を引いて夜空に消えていく。

 とても静かな夜だ。

 背嚢から、紙で包んだ干し肉を取り出して開き、少しずつ口に含む。

 街に滞在していた時に保存食として何点か作っていた物だったが、悪くない食感だった。

 シクロが起きた時用に一つだけやるか、と、焚火から少し離れた所に置いておく。

 焚火の弾ける音、少し離れた川のせせらぎ、多くは無い虫の鳴き声。

 それ以外は何も聞こえない――はずだった。

 無音に紛れて不自然な音が混じっている。砂を踏むような、複数の足音。

 獣でも魔物でもない。人間の足音。


「数は……わかんねぇな。多過ぎる」


 焚火に手を伸ばしかけ――思い直してそのままにする。

 目の端で蠢く影がこちらに近付いてきているのを見る限り、消しても無駄だ。

 少しずつ話し声も聞こえるようになってくるにつれ、連中の装備も薄っすらと見えて来た。

 装備も姿も旅人や村人とはかけ離れている。

 粗末な革の鎧、無造作に持った短剣や鉈、油断なく周囲を伺う視線。


(盗掘団ってとこか……)


 ふと、街に滞在していた時に聞いた話を思い出した。

 未開の遺跡がこの辺にあり、遺跡荒しらしき集団の目撃情報があがっている、とか。

 今更思い出すなんて迂闊だ。つい舌打ちが出る。


「ちっ……あの手合いが夜中に動いてるなんざ、間違いなくロクなもんじゃあ無いな」


 この後の展開を考えると面倒事は避けられん、と判断したロランドは馬車の荷台に乗り込み、ガサガサと漁り始める。

 散乱するガラクタを押しのけ、ヴァルナの入った布を引っ張り出して荷馬車から放り出す。


「何も無けりゃ朝には起こすつもりだったが……面倒事ってのは重なるもんだな。本当に」


 そうこう言ってる内に複数人の人影がはっきりと姿を現してこちらに近付いてきた。

 焚火の灯りが、その集団の顔まで浮かび上がらせた。

 中心人物であろう額に古傷のある男が口を開く。


「……よう、旅のお方。えらくのんきに火なんぞ焚いてるじゃねえか」

「あぁ、そうだな。少しばかりのんき過ぎたよ。てめぇらみたいな害虫まで寄ってきちまうなんてな」


 ロランドの言葉に盗掘団の連中は笑い声を漏らす。


「随分と口が回るねぇ……ま、今日は運が悪かったな。俺達も別に鬼や獣じゃねえ。命まで取りゃしねえよ」

「そうかい。じゃあ薪の一本でも分けてやれば喜んで帰ってくれるのか?」

「一本と言わずもうちょっと恵んでもらおうかい。その荷馬車の中身と、ついでにお前の懐も軽くしてやるよ」

「そいつは困っちまうな」


 ゆっくりと、風車小屋の扉の方向へ歩く。

 それに気付いた盗掘団員の一人が怒鳴る。


「おいっ! 何してんだ!?」

「……どうせこの人数に囲まれちゃ逃げようがねえんだ。幾つか小屋の中に避けてある荷物もくれてやるよ。俺も命が惜しいもんでな」


 男達が顔を見合わせ、爆笑した。


「はははは! 随分と殊勝な兄ちゃんじゃねえか! いいぜ、待っててやるから取って来いよ」

「ああ」


 そうして小屋の扉に手をかけ、軋み音をあげて開き、ロランドはゆっくりと小屋へ入る。

 ――直前、盗掘団たちの方に顔を向けた。


「ついでにとびきりの土産も用意したからよ、楽しんでくれ」

「あん?」

「――ヴァルナ、起きろ! 飛べ!! こいつらを()()!!」


 瞬間、ヴァルナを包んでいた布が引き裂かれ、大きな翼を広げて上空へ飛んだ。


「ふはーっ!! 寝起きスッキリ!! 竜王ヴァルナ見参!!」


 街で暴れまわっていた美麗な竜人と代わりの無い姿がそこに在った。


「なんだ!?」

「おいテメェ、なんだあいつは!?」

「鳥!? いや……竜人!?」


 騒然とする盗掘団。陰に隠れていた数人も騒ぎ立て、上空を浮くヴァルナに目を向けた。

 ロランドは小屋の中に転がり込んで、シクロが身を包んでる布を剥ぎ取って自身の頭を覆い隠す。

 その衝撃でシクロはびっくりして目を覚ました。


「うにゃ!? し、ししょ……!?そそそそんな!こんな大体に寝込みを襲ってくるなんて……!近……!ボ、ボク頭がおかしくなっちゃうよ~~~!!」

「元々頭おかしいだろお前は!耳塞げ!お前には効かないかもしれんが寝起きにはきついぞ!」

「はえ?」


 ――直後。


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 《呪縛の咆哮(ケイズス・ロアー)》が空より打ち放たれる。

 聞いた者全てを呪い、行動不能にする邪竜の咆哮。


「うるさーーーーい!! なんなの!? 何でヴァルナ起こしてるの!?」

「……まぁ、厄介事はひっきりなしに起きるって事だ」

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