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10話 街を抜けて

 夜も更けて来た時間帯の南門。

 街の住民から見ると、いつもの日常からはかけ離れた光景。

 家族を連れた者、荷物を背負った者、裸足で走る子供。

 誰もが我先にと、街を出ようと必死だった。

 この混乱の最中に検問などまともに行われる筈が無く、門番たちは住民の誘導と安全確保で精いっぱいだった。

 人ごみに紛れて何とかして街の外に出る事に成功したシクロは周りを見渡すと、中と殆ど変わらずに住民達でごった返していた。


「うえー……ここから探すの? めんどくさいよ~~……」

「遅ぇよ」

「わっ! 居た!!」


 南門から出てすぐの所。出て来たばかりのシクロの近くに、ロランドは荷馬車と共に立っていた。

 荷馬車に大小さまざまな荷物……大半はロランドの収集しているガラクタだが……の中に、一つ、古ぼけた大きな布で包まれた物体が置かれてある。

 その布の上にも容赦なくガラクタが乗っかっているので、まさか中に人が居るとは誰も思わない……かは微妙な所だ。羽と尻尾を無理に折りたたんでいるのか、人が詰め込まれた布にしては中々に歪な形をしていた。

 恐らく、ではなく確実にあの布の中にヴァルナが寝ている。


「どう見ても遺棄する前の死体だよぉ……樽の中に入れるとかじゃダメだったの?」

「羽がデケェんだよ。それより何してたんだ? クソかションベンか?」

「うぎゃー!! ノンデリ!! 最低!! 知り合いに挨拶してきて良いって言ってくれたから、ちゃんとしてきただけだよ! それに、宿で師匠の荷物集めてくるのすっごく大変だったんだよ!? 部屋の中ガラクタだらけでさ! 何持ってきたら良いかわからないからバックに全部詰めて持ってきたんだからね!」


 ギチギチになって、今にも破けて中身がぶちまけられそうになった背嚢を荷台に放り投げてシクロがぷんぷんと不満を口にした。背嚢はヴァルナを包んだ布に当たった。

 それを見たロランドは無言でシクロに近付いて……なんと、薄く笑みを浮かべて頭を撫でた。


「……全部持って来てくれたのか……ありがとう。こればっかりは助かった」

「う、う、う、うれしくなーーーい!! いやうれしい! けどうれしくない! 信じらんない! 先にもっと褒めるべき所がある筈だし大体全部無くても殆ど困らない物ばっかりでしょ!?」

「ピーピーうるせぇな。変に注目されるから静かにしろ。それよりさっさとこっから離れるぞ」

「も〜〜〜!! バカ!! バカ師匠!! うすらとんかち!! ……そういえば何で街を出るの? だってもうヴァルナは……むぐっ」


 ロランドは咄嗟にシクロの口を抑え、口の前に人差し指を立てて「静かにしろ」のジェスチャーをとる。

 こくこくと頷くシクロ。


「よし、行くぞ」


 そう言って馬車に乗り込み、そのまま馬の手綱を引く。

 シクロは荷台にちょこんと座ると、荷馬車がゆっくりと動き始める。


(……師匠の掌にキスしちゃった)


 少女は口元を抑えながら、脚をバタバタさせながらも黙って座っていた。



 * * *



 街から離れ、街道を進む。

 喧騒はもう聞こえず、街の姿ももう見えなくなった。

 荷台からシクロがロランドに近寄って背中越しに声をかける。


「ねーねー、なんでこんなに急いで街を出るの? ボクまだいたかったんだけどー! 串焼き結局食べれなかったし! ヴァルナだって今のままなら兵士の人に渡しちゃっても問題無いんじゃなかったの? なんで連れてきたの?」

「答えてやるから一気に聞いてくるんじゃねえ……まず、あいつは被害を出し過ぎだ。別に誰を何人殺そうが俺たちには関係ねえが、戦いの最中も手当たり次第に建物を破壊してただろ?」

「いやボクとしては関係無いって気持ちになるのは無理があるけど……見てたの?」

「時計塔の屋上からな。俺の考えた作戦が時計塔まで誘導する必要のあるものだったとは言え、お前がヴァルナと戦いながらチョロチョロ街中を逃げ回っていたせいで被害が広がったと考える奴が現れかねん」

「そりゃあまぁ……」

「ま、話が通じないが現れるのも仕方がねぇ。二つ目は、何でヴァルナの捕獲に成功したのかを探られたくない。さっきまで暴れてた奴が急に大人しくなるなんて、魔法でもなけりゃ不可能だからな。俺の能力は強力な上に俺自身にもよくわかってない部分が多いし、国を挙げて研究をさせろなんて申し出があったら最悪だ」

「四天王にも効くなんて知れたら攫われちゃうかもね?」

「間違いなく攫われる。一介の冒険者なのに魔王を倒す手立てがあるってだけで人類の希望だ何だと祭り上げられて死地に送られちゃ敵わん。そんなのはお前がやりゃあいい」

「ボクだって危ないとこに行くのはやだよ!?」

「勇者サマなんてそういうもんだろ……三つ目は、こいつが一人で来たのが気になってな。魔王直属の配下なんて言うなら部下の千や二千、それ以上いてもおかしくはねぇ」

「暇つぶしに来たって言ってたよね? 散歩に部下をぞろぞろ連れてくる方がおかしいんじゃない?」

「……それであの規模の攻撃を街に仕掛けてくるのは、よほど腕に自信があるか、よぼどのバカだけだろ」


 若しくは、よほど腕に自信のあるバカ、だ。

 ……いや、寧ろそうでなければ単騎特攻なんてしないかもしれない。とは言え、それでも俺たちが……いや、シクロがいなければ恐らくあの街は滅んでいた。

 そして、竜王が倒されたと魔族に広まる前にこちらから手を打つ義務のある問題が一つある。


「……あとはそこのバカトカゲを起こしたら教えてやるよ」

「口悪ぅ〜……勿体ぶらないで教えてよ〜! そういうとこ師匠の良くない癖! だよ!」

「やかましい」

「……ヴァルナ連れて来たの、身体が目当てだったりしないよね……? 綺麗な顔してたもんね……」

「お前マジでなんなの?」


 ガキが変な知識をつけるとロクな事にならねぇ。背中越しに暗いオーラを放つシクロの存在に、つくづくそう思った。



 * * *



 ぽつぽつとシクロが話しかけてくるのを適当にいなしながら、ロランドは荷馬車を走らせ続けた。

 ランタンと月明かり以外に光はなく、夜も深まってきている。

 街道を辿ればいずれは村や街に辿り着くはずだが、いかんせん距離がわからない。


「……今日は野宿だな」

「えっ! やだ!」

「俺が一番嫌だよ、クソバカ」


 荷台から、駄々をこねるシクロの声と音が聞こえる。

 そうは言っても、都合よく宿泊できそうな場所が見つかるはずもない――そう思った矢先だった。


「……あるな」


 木々の続く道を抜けると、月明かりに照らされた大きな建物が視界に入った。


「……風車か?」


 ロランドは馬の手綱を引き、建物の方へと進路を変える。

 かつては立派な木造の風車小屋だったのだろうが、今は朽ち果て、羽根もほとんど落ち、骨組みだけが夜空に晒されていた。

 近づくにつれ、川のせせらぎも耳に入る。


「はっ、丁度いい。野宿に変わりはないが、雨風くらいはしのげるだろう」

「うーん……まあ、いいか……」


 シクロも妥協できたのか、文句を言うのをやめた。

 ロランドは馬を風車小屋に寄せると、野営用の道具や布団代わりの布を引っ張り出し、朽ちた小屋の中へと運び込む。

 荷台には、いまだ布に包まれたままのヴァルナが放置されていた。

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