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姫騎士とチャラ男

 姫騎士と呼ばれる者がいた。グランド王国西方国境の砦のひとつ、ウェスリン砦にその者はいた。

 ちなみに、グランド王国は二十年前に貴族制度を廃止。それにともなう軍制改革により、騎士という身分は無くなったので、姫騎士と呼ばれる者は、騎士ではない。ついでに姫でもない。一兵士である。


 あと、彼女ヒルディ・オルテンを姫騎士と呼んでいるのは、一人だけである。

 ヒルディの後輩レミド・フォビオン。彼はヒルディを姫騎士と呼ぶ、ただ一人の存在であった。

 ついでにいうと呼ばれている当人は、ものすごく嫌がっていたりする。


 まあ、とにかく、姫騎士と呼ばれる者がいたのである。ウェスリン砦に。


 これは姫騎士と彼女をそう呼ぶチャラい後輩の物語である。



 円形のホール。広さは直径十メートル前後だろうか。あまり広くはない。ただ天井は高く、窓も高い位置にあるために、採光もよくできており、明るい。

 

 女性が剣を振っている。

 輝かんばかりの長い黄金の髪に、澄み切った青空のような瞳。目尻のつり上がった切れ長の目。高い鼻に形の良い唇。美人である。

 黒いシャツに黒いズボン。スレンダーな体には、とにかく無駄な肉がない。


 ヒルディからしてみれば、胸部に女性的な膨らみがもう少しあればいいなあ、と悩ましく思っているところである。


 ホールのドアが開いた。入ってきたのは、黒い軍服姿の男だ。詰襟の軍服は第二ボタンまで緩め、袖もまくり、とかなり着崩している。

 茶色い癖っ毛は肩まで伸びており、引き締めれば美男子といえそうな顔は、ヘラヘラと、どうもしまりがない。

 ひと言で言えば、なんか遊んでそうなチャラい感じの青年である。


「チース、姫騎士先輩」

 レミドは見た目だけではなく挨拶もちゃんとチャラかった。


 ヒルディは一顧だにせず、剣を振り続けた。あまりにも集中しすぎて声をかけられたことに気が付かない……わけではない。

 気が付かない風を装って無視しているのである。ヒルディは、自分を姫騎士と呼ぶこの後輩が苦手なのである。


「なんか、ヒルディ先輩って、姫騎士って感じっすね。姫騎士先輩って呼んでいいっすか?」

 初対面でこんなことを言われ、殺意が湧いたことは記憶に新しい。

 あと、その時に、ぶっ、と側にいた同僚たちが吹いたのが、結構傷ついた。


 だが、確かにヒルディの眉の上で切りそろえた前髪や、凛とした立ち振る舞いは、物語に出てくる勇ましい女騎士を思わせる。これで、ドレスアーマーなどを着れば、もうどっからどう見ても姫騎士だろう。


 ちなみに、切りそろえた前髪は、意図的にそうしたわけではない。単に切るのに失敗してしまったのである。ヒルディは手先が不器用な女の子なのである。


「いや、姫騎士先輩、マジ、パねえわ。早朝から一人で訓練とか」

 レミドは挨拶だけでなく、つぶやきもチャラく、なおかつ声が大きい。

「姫騎士先輩、やっぱ姫騎士だわ」


 ヒルディはイライラしてきた。素振りも乱れる。


「よし、俺もちょい、すぶっち(素振りのことらしい)まおうかな」

 ツカツカとヒルディの側にいき、腰の剣を抜いて、素振りを始める。

 ほいっ、おらっ、ていっ、と掛け声つきだ。

 隣のヒルディからしてみれば、鬱陶しいことこの上ない。


 だが、やめろとも言えない。しかも、掛け声こそアレだが、レミドの素振りは堂に入っている。

 ほうっ、はうっ、いええいっ。

 しかし、うるさい。


「んっ、うんん」とヒルディは剣を止めて、レミドの注意をうながした。


 へいへいへいっ、いえっい。

 レミドは、もうノリノリだ。独特のリズムで剣を振る。


 コホン、とヒルディは大きく咳払い。

「レミド君。少しいいだろうか」


 レミドは気づかない。

 わおっ、わおっ、わおっ、ううわっお。


「私の話を聞くんだ。レミド君」

 ヒルディは声を大にして言った。


 やっとレミドがヒルディを見た。

「あれ、姫騎士先輩、どうしたんすか? すぶるの終わりっすか?」

 ヘラヘラしながら言った。


「すぶっ……、いや、君のその妙な掛け声が気になってしまうんだ。すまないが、もう少し静かにやってくれないか?」


「えっ、マジっすか」

 レミドが大きなリアクションで、顔を押さえた。

「マジっすか。声、出ちゃってました? マジっすか」


「あ、うん、もっと単調な掛け声なら気にならないと思うんだが、どうも君のは統一性がなくて」


「俺、マジ、オリジナリティとか大事だと思うんすよ。みんなと同じって、なんかダサいっつうかあ。姫騎士先輩もそう思うっしょ?」


「いや、軍隊だから、オリジナリティは必要ではないと思うが」

 というか、変な自己主張をしちゃあ、ダメでしょう、と思った。


「マジっすか。姫騎士先輩、マジっすか。オッケーっす。超リスペクトの姫騎士先輩がそういう感じなら。俺もそういう感じっすわ。オリジナリティ、胸に秘めますわ。オリ秘めっすわ」


「う、うん、まあ、頼む」

 こいつ、ホント、面倒くさいなあ、とヒルディは思った。


「てか、姫騎士先輩。明日、非番すよね。俺も非番なんすよ。街とか行っちゃいます? 二人で街とか」


「いや、特に街に用はない。明日はのんびりと読書でもして過ごすよ」

 非番にまでこいつに付きまとわれたくない、とヒルディはにべのない。


「そっすかあ」

 レミドが寂しそうな顔をした。


 ヒルディの薄い胸がチクリと痛んだ。


「じゃあ、俺も読書すっかな。姫騎士先輩方の部屋行っていいすっか?」


 駄目に決まってるだろ、とヒルディは怒鳴りそうになった。ぐぐぐっとそれをこらえて、表情を殺す。

「すまないが。知っての通り、副隊長も同部屋だ。私だけの部屋ではない。みだりに男性を入れるわけにはいかないな」


 ウェスリン砦の宿舎は二人部屋である。

 ヒルディはウェスリン砦防衛隊で二人しかいない女性隊員。もう一人は副隊長のルビー・エルジュである。当然、二人が相部屋となっている。


「じゃっ、副隊長の許可とってくるっす」


「いっ、いや、許可とかそういう問題じゃない。だいたい、読書なら自分の部屋すればよいじゃないか」


「そんなん、決まってるじゃないっすか。それ、俺に言わせるんすか? マジっすか。俺、まだ、心の準備ができてないんすよ」

 やたらそわそわして、髪の毛を、どこから出したのかコームでとかす。

「マジっすか」


「いや、とにかく、君は君でやりなさということだ。街に行くなり、読書するなり。好きになさい」

 ヒルディは突き放した。


「じゃ、次の非番っすね。一緒に街に行きましょう。マジ、俺、楽しみにしてるんで」

 レミドは突き放されても喰らいついてきた。チャラく。


「えっ、ええと……」

 もう、なんなのよ、なんで私と過ごしたがるのよ、とヒルディは思った。



 レミドの執念が実を結んだわけではないが、ほどなくして姫騎士先輩とチャラい後輩は街へ行くことになった。

 当番の買い出しである。ウェスリン砦から馬車で三時間ほどの距離にあるロンダルト市である。


 隊の食料やら生活必需品やらを調達していく任務である。荷馬車を駆っての旅となった。

 ウェスリン砦では二人一組での行動が基本である。これを相方バディと呼ぶ。ヒルディはレミドの相方バディであった。


 任務なので文句をいう筋合いはないのだが、ヒルディははなはだ不満であった。

 御者席に並んで座り、隣でテンション高く手綱を握るレミドの方をあまり見ないように、敵襲を警戒するかのように風景を眺めたり、なにか考え事をするかのように腕を組んで目を閉じてやり過ごそうとした。


「姫騎士先輩、あれ見てくださいよ。マジ、すげえっすよ。なんすかね、あれ」


 仕方がないので振り返ると、レミドは手綱を握ったまま、南の空を見上げていた。

 そちらを見ると、空に赤っぽい十字のシルエットが見えた。尾を引くように一本線の雲が後ろにできている。


「うん? ああ、あれはドラゴンだな。心配することはない。ドラゴンは知性の高い魔物だ。人間には手を出さない」

 ヒルディは言った。


「マジっすか。あれがドラゴンすか。なんで、雲ができるんすかね。マジ、ミステリーっすよ」


「ドラゴンは翼のほかに飛行結界というものを使って飛んでいるらしい。その飛行結界が空気を冷やし、雲を作っていると推測されている」


「そうなんすか。てか、姫騎士先輩、マジ、賢者っすね。頭良すぎっすよ。もう、ソンケーしかないっすわ」


「ふっ、そんな大したことじゃないさ」

 クールに言いながらも、ちょっと照れるヒルディであった。


 またしばらくして。


「姫騎士先輩。今まで戦った魔物で一番ヤベエやつって、なんすか? やっぱ、ドラゴンっすか?」


「……」

 ヒルディは考え事をする振りで無視しようと思った。目を閉じてうつむく。


「さすがにドラゴンは無理っすよね。オーガーキングとかっすか? メチャでかいって話っすよね。城くらいあるとか、マジかよって、感じっす。そんなんどうすんだよって。ねえ、姫騎士先輩、どうなんすか? そこんとこ、どうなんすか?」


「ドラゴンはよほどのことが無ければ襲ってはこない。知性が高いからな。オーガーキングなど百年に一度現れるかどうかの存在だ。我々が戦うことなどないだろう」

 たまりかねて、ヒルディは言った。


「そうなんすか。じゃあ、ぜんぜん、オッケーすね。マジ、どうでもいいすね。ああ、心配して損したわ~」


「万一の場合は逃げるしかないだろうな」


「でも、そんなでかい魔物だったら、逃げられなくないっすか?」


 そこでヒルディは、ちょっと、この世の中を舐めてる風の後輩を、脅してみようかと思った。

 気を引き締めてやらないとな。ふふっ。


「我々が、なぜ常に二人一組で行動している分かるか?」

 低めの声で言った。


「俺、マジで、超マジで、感謝してるんすよ。姫騎士先輩が相方バディで、もうホント、最高っすわ。マジ、軍制改革万歳っすわ。陛下に感謝っすわ」


「う、うん、そうだな。陛下は偉大な方だ。陛下がご即位されてから、この国は大きく変わった。貧富の差も少なくなり……」

 ヒルディはそこまで言って、話題が変わりそうになったことに気づいた。

 コホン、と咳払い。

「それで、二人一組である意味だが、いみじくも君が先ほど言った、逃げられない相手からどう逃げるか、に関わっている」

 少し間を開ける。


「てか、姫騎士先輩。軍服超似合ってますよね。マジ、かっけえっす」


「えっ、ホント? そ、そうかな」

 ヒルディは照れた。


 ちなみに、女性の軍服は上着は同じだが、下はスカートとスラックスの両パターンがある。式典などではスカートを履くことになっており、あとは自由に使い分けて良いことになっている。

 ヒルディは今回はスラックスである。


 違う、私はレミド君の気を引き締めるの。

 コホンコホン、ウォホン。

 また咳をして、仕切り直す。


「どうして、二人一組か。それは、絶体絶命の窮地に陥った時、一人が囮になり、相方バディを逃がすため。なぜなら、なによりも重要なのは、隊に脅威が現れたことを報告することだからだ。一人が捨て石となり、時間を稼ぐんだ。命を捨てて」


「それ、今のうちに行けっ、てやつっすか。マジ、胸アツじゃないっすか。俺、囮やりますわ。そんとき、絶対、姫騎士先輩逃がしますわ」

 レミドの反応はやっぱりチャラかった。


 全然、気を引き締められてない。

 思わず顔を両手でおおうヒルディであった。



 ロンダルト市。グランド王国西方の街のひとつである。主要街道から大きく外れた、さびれたルートにある街のため、ガヤガヤした雰囲気はなく、のどかな田舎の町という様子。

 街を囲う外壁は三メートル弱と高すぎず。大通りにはレンガ造りの建物が並んでいるものの、せいぜい二階建て。

 周辺の村々から人々が買い物にやってくるような、ちょっとした街である。


「腹も減ったし、先、メシにしません? 俺の腹、マジ、限界突破っす」

 荷馬車をゆっくり走らせながらレミドが言った。


「いや、時間がない。買い物を済ませてから、パンでも買って、帰り道に食べよう」


 あんまりのんびりしていると夕刻までに帰れない。それはいろいろまずい。


「マジっすか。姫騎士先輩、酷いっすよ」


「ふっ、任務とは無情なものなのだ」


「あっ、あれ、美味そうっすよ。ちょっと買ってきますね」

 と言うが早いか、レミドは馬車から飛び降りた。


「おい、レミド君……」

 慌てて放り出された手綱を取る。


 見ると、レミドは料理屋の店先で売っている串焼きを買っていた。確かに肉を焼く良い匂いは、いかにも美味そうである。

 ヒルディのお腹がクウッと遠慮がちに鳴った。


「まったく、なんて奴だ。全然言うことを聞かないし。姫騎士とか呼ぶし」

 ついつい愚痴を言ってしまう。


 と、なにやら、串焼きを売っている少年と、レミドは楽し気に話している。

 最後にはなにやらハイタッチめいたことまでして戻ってきた。串焼きを二本手にして。


「レミド君。いきなり、手綱を放すなど言語道断だぞ。馬が暴走したらどうするんだ。こんな街中で」


「大丈夫っすよ。こいつらとは、もうマジ、マブなんで。ハート通じ合ってんで」


「マブ? なんだ、それは」


「マブダチっす。はい、姫騎士先輩」

 レミドが二本持っていた串焼きを一本差し出した。


「えっ、わ、私にか?」


「ったりまえじゃないっすか。一人で食べるなんて、超ダサいじゃないっすか」


 断ろうと思ったヒルディだったが、差し出された串肉はあまりにも魅惑的であった。

 香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。


「……貰おう。幾らだ?」

 とうとう串肉を受け取り、言った。


「いいっすよ。そんな。姫騎士先輩にはいつも超フォローしてもらってるじゃないっすか。マジ、お世話になりまくってるじゃないっすか。お礼っすよ。これからも、よろしく、お願いしゃ~す」


「そんなわけにはいかない。こういうことはキチンとしなくては」


「まあまあまあ。うまっ。これ、超美味いっすよ。マジ、デリシャスっすよ」

 串肉をかじりながらレミドが言った。

「ほら、姫騎士先輩も、がぶって。いっちゃってくださ~い」


 カプッと遠慮がちに肉をかじる。

 柔らかく、ジューシーな肉汁が口内に広がる。


「美味しい」

 つい頬を押さえてしまうヒルディ。


 はっ、と振り返るとレミドが微笑まし気な目で見ていた。


「やっぱ可愛いっす、姫騎士先輩は」


 かあ~、と顔を赤くするヒルディであった。


 買い出しはつつがなく終わった。

 ヒルディにとっては、もう何度もやっていることだし、買う物もだいたいいつも同じものだ。

 それにしても気になったのはレミドの顔の広さだ。

 まだウェスリン砦に着任して一ヵ月あまりだというのに、もう街に知り合いが大勢いた。


「よう、レミド。今度の非番はいつだよ。また飲もうぜ」

 などと中年男性に声をかけられたり。


「レミド君。また店に来てね」と女の子に声をかけられたり。


「レミドの兄ちゃん。バーラン(グランド王国周辺で盛んな球技)教えてくれよ」と子供たちにせがまれたり。


 なんだか知らないが、やたらと声をかけられていた。

 そのたびにレミドは、オッケーとか、イエーイとか、ものすごく軽やかに返していた。


 私なんて、もう二年も砦にいるのに、全然、街に友人などいないのに。

 などとヒルディは劣等感を覚えた。


 帰り道。

 ヒルディがレミドに顔の広さを褒めると(ちょっとひがみっぽく)、レミドはなんでもないことのようにこう言った。


「えっ、そうっすか? あれくらい普通じゃないっすか。ぜんぜん、普通っすよ」



 ウェスリン砦にはシャワー室が完備されている。白いタイル張りの部屋が小部屋に区切られており、最大四人まで同時に使用することができる。

 グランド王国および周辺諸国では、魔法道具は比較的安価で流通している。水道も燃料も必要なくシャワーヘッドのスイッチをチョンと押せば、すぐに湯が出てくる便利な道具が、兵士一ヵ月分の給料くらいの値段で買えるのだ。


 ただ、ウェスリン砦のシャワー室は男女別にはなっていない。軍全体の女性兵の比率が低すぎるためである。

 そのためウェスリン砦に赴任している二人の女性兵は、夜の八時から九時の一時間使用することになっていた。


 この夜も、ヒルディともう一人の女性兵でウェスリン砦防衛隊副隊長ルビー・エルジュは、ともにシャワー室を使用していた。


「ホントに、ホントに、レミド君は、もうっ」

 ガシガシと頭を泡だらけにしながらヒルディは言った。

「なんなんですかね? あの、軽薄な態度は。私、舐められてるんですかね?」


「懐かれてるのよ。いいことじゃない」

 隣のシャワーを使っているルビーが言った。こちらはゆっくり、撫でるように体を洗っている。

 ヒルディと違い、実に見ごたえのあるナイスバディ。

 長い黒髪が日焼けした肌に張り付く様がなんとも艶っぽい。


「ですが、今日なんてあれですよ。姫騎士先輩、彼氏いないんすよね。俺、マジ、立候補していいっすか? なんてヘラヘラしながら言ってきて」


 それにルビーが吹き出した。

 笑い声がシャワー室に反響する。


「ちょっと、先輩。笑い事じゃないですからね」

 ヒルディは唇を尖らせる。ヒルディからしたらルビーは年上であり先輩でもあり、頼れる姉御なのだ。


「ごめんごめん。でも、愛の告白じゃないの。いいねえ、若いって」


「ぜんぜん、そんなんじゃないです。からかってる感じでした。私が、恋人がいたことがないことを誰から聞いて、からかったんですよ。ムカつくなあ」


「ええ? 考えすぎだと思うけどなあ。ねえ、実際のとこ、ヒルディとしてはどうなの? 彼、見ばえはいい方じゃない。シュッとしてて。明るくて憎めないし。お似合いじゃない?」


 はあ? っとヒルディの声が棘っぽくなる。

「先輩、私の好み知ってますよね」


「筋肉盛り盛りで。髭が似合って。無口で頼りがいがある。レスター将軍みたいな人だっけ」


「そうです。ペラペラしゃべってヘラヘラしてる軟弱で軽薄な男は好きじゃないんです」


「はいはい。君もぶれないねえ」


 ヒルディはそれには答えず、シャワーを頭から浴びた。目を閉じて思い浮かぶのは、グランド王国軍のトップ、レスター将軍が悠々と馬にまたがり街中を進む姿。

 幼い頃に憧れた姿だ。


 しっかり泡を流し、タオルで体を拭く。

「先に出てます」


「ほ~い」


 シャワー室の手前の脱衣所で下着をつける。

 スポーティで簡素な白い下着。上は下着をつけず、そのままタンクトップをかぶった。普段は下にもう一枚下着を着るのだが、このまま寝るのだから、構わない。最後にスカートを履いた。

 ヒルディとルビーの部屋はシャワー室の近くだが、だからといってパンツで歩くわけにはいかない。滅多に使う場面ないスカートを、短い区間で利用しているのだ。


 濡れた髪を拭きながら廊下を歩いていると、階段から降りてきたレミドと出くわした。


 うわっ、とヒルディは内心、怯んだ。噂をすれば影。面倒なのに会ったなあ、といったところ。

 もちろん、顏には出さず、無言で脇を通り過ぎようとする。


「ちょっと待ってください、姫騎士先輩」

 レミドに呼び止められた。


「なんだ? 湯冷めするから早くしてくれよ」

 露骨に迷惑顔で振り返る。すると、レミドはいつものヘラヘラ顏ではなく、真剣な顔をしていた。

 それにちょっとドキッとする。


「あんた、その格好はダメっすよ。アウトっすよ」


「えっ、あ、ああ。そうかな」


「当たり前じゃないっすか。ここには女に飢えた野郎がわんさかいるんすから。そんな、チラチラ胸が見えるようなかっこうじゃあ、襲ってくれって言ってるようなもんじゃないっすか」


 確かに、いつもと違い、下に下着を着ていないので、スレンダーなヒルディの胸元はかなり露出している。下がスカートということもあいまって、思いのほかセクシーだ。


「マジで言ってんすよ。気を付けてくださいよ」

 言うとレミドは早足で歩いていった。


 後には胸元を押さえて赤くなるヒルディが立っていた。

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