※ネプォン編─── うまくいくはず、だろ!?
このままじゃ、ヤバい!!
だが、イルハートたち三人は、目が覚めているうちはあの馬鹿弓使いを手放さない。
その辺にあるものを一つ拾うだけでも、あいつにさせるからだ。
自分でやれ! てめーら!!
と、思いつつ、奴がこしらえた飯を目の前に配膳させる俺も同じだが。
楽なんだもん。
こうなったら夜だな。
こいつらが寝静まったら、馬鹿弓使いを叩き起こしてやらせる。
そう決めて、夜になるのを待ち、馬鹿弓使いをそばに呼んだ。
奴は眠いのか、目をこすりながらやってくる。
「おい、一度やったから解けるだろ?」
俺は、改めて剣の仕掛けを解かせた。
奴はあくびを噛み殺しながら、仕掛けを解く。
なんで、こいつはスイスイ解けるんだ?
ムカムカしてくる。
俺にできないことができるなんて、生意気だ。
こいつは、大帝神龍王と融合し、あのフィオを恋人にできて、英雄の座を奪う存在。
忘れていた恨みつらみが、湧き上がる。
そんな俺の怒気を尻目に、奴は仕掛けを解いて渡してきた。
俺は仕掛けが解けた剣を受け取ると、今度はすぐに振ってみる。
リーンと美しい音色がして、目の前に光が溢れてきた。
そして、俺の手に本物の神剣が舞い降りてくる。
やった! ついにやったぞ!!
これ、これだよ。
これが正史だ。
これこそが、望んだ結果なんだ。
「あははは! ひひひ!」
笑いが止まらない。
俺は体を震わせて笑い続け、そんな俺を奇異な目で見る馬鹿弓使いに、神剣をかまえた。
「ネプォン!? な、何を?」
「よくやった。褒美に、お前でこの神剣の切れ味を試してやる」
「やめてください!」
奴は慌てて逃げる。俺は、笑いながら奴を追いかけた。
逃げろ、逃げろ、逃げろ!!
お前の、その無様な姿は最高だ。
この瞬間を待っていたんだ。
俺は崖の淵まで奴を追い詰め、神剣を振りかぶった。
「安心しろよ、フィオは俺が可愛がってやるからさあ!」
「フ、フィオ? 誰のことだ?」
「ああ、まだ会ってないのか。へへ、未来のお前の恋人になる女の名前だよ」
「フィオ……」
「あばよ! さっさとくたばりやがれ!」
「やめろぉ!! ───あ!」
奴に一太刀浴びせようとした時、崖が崩れて馬鹿弓使いは落ちていった。
あーあ。ま、この高さから落ちれば、生きてはいまい。
後ろから奴の飼っているオウムが飛んできて、崖の下に降りていく。
ふ、ま、お前が弔ってやれ。
鳥の弔いがどんなものかは、知らねーがな!
俺は、変形したベルの形をした剣も崖の下に放り投げた。
神剣を手にした以上、必要ねーからな。
「あははは! ひひひひ!」
笑いがずっと止まらない。
俺は一晩中笑い続けて、仲間たちも奇妙な目で見ている。
「あの馬鹿弓使いを、殺しちゃったの?」
シャーリーが、俺を覗き込んできた。
俺は笑いすぎて涙目になりながら、頷いた。
「ああ、ああ。ひひひ」
「気持ち悪い」
「それより、ふふふ、シャーリー」
「ん?」
「お前の───後輩に、ひひひ。フィオ、て、孤族の女がいるだろ」
「フィオ……孤族……ああ、いるわよ」
「今度紹介しろよ、けけけ」
「は? なんで?」
「モノにしたいからさあ! あははは!」
これでいい。魔王を倒して、フィオをモノにする。
これで完全に、あの馬鹿弓使いを負かすことができるだろ。
俺の勝ちだ!
本来こうあるべきだったんだ!
笑い続ける俺に、ヴォルディバが話しかけてきた。
「たく、飯炊き係を殺るなんて、馬鹿なやつ。身の回りの世話はどうなるんだよ」
「じ、じ、自分でやれや。ははは」
「嫌だね、面倒くせ。おい、シャーリー。お前、やれ」
「嫌よ、面倒だもん」
「神官だろ?」
「だから何? 嫌なものは嫌。イルハートに言えば?」
「私も嫌よぉ。あのぼうやがいないなら、前みたいに宿屋に泊まりましょ。ルームサービス付きの」
「そうだな」
「お金かかるわね」
くくく、困った奴らだ。
だが、まあ、この神剣があれば、名うての魔物たちもどんどん狩れる。
金になんか不自由するものか。
いざって時は、大金持ちの俺の実家に仕送りさせりゃいいからな。
「ひゃははは!!」
俺は勝利に酔いしれて、日々を過ごした。
大帝神龍王は、無視することにする。
神剣さえあれば、もう関係ないからな。
立ちはだかる魔物たちを次々と倒し、俺たちはその名を轟かせながら魔王に挑むことにした。
怖いものなし。最高だぜ。
「ねぇ、ネプォン」
イルハートが、立ち寄ったガルミットの交易都市で声をかけてきた。
「ん?」
「その神剣、最近変な音がするわよ? この街に鍛冶屋があるらしいから、一度見てもらえばあ?」
「変な音だ?」
俺は神剣を眺めた。よく見ると、剣の刃にヒビが入っている。
この間倒した、強固な外殻を持つ魔物と戦った時にできたヒビだな。
確かに、少し亀裂が深い気がする。
まあでも、別に支障はない。
「面倒だから、いい」
「えー、でもぉ。魔王に挑むのよ? 万全に整えて挑まないと」
「いいって。このままでも、もうすぐ俺は伝説になる。いや、既に伝説の存在だな」
「魔王に勝ってこそ、歴代の英雄に胸がはれるわよぉ?」
「勝つさ。俺は伝説だから」
俺はニヤニヤしながら、ヒビを放置した。
天の加護があれば、負けることはない。
俺たちはガルミッドで、物資を補給したあと、魔王の居城に攻め込んだ。
眷属たちを倒し、魔王に対峙する。
奴は強かった。
でも、馬鹿弓使いが倒した時より、遥かに弱い。
楽勝だな。
俺は、奴の心臓を貫こうとして、懐に踏み込んだ。
その時だ。
ミシミシ…‥パキン!!
魔王の鎧を貫く前に、剣が折れる。
何い!?
俺は慌てて、距離を取る。
神剣が……そんな!!
半端に刺さった神剣を魔王が引き抜き、遠くに放り投げる。
こ、こうなったら!
「シャーリー!」
「な、何!?」
「魔王ダーデュラを封印する、あの三叉の水晶を出せ!」
「わ、わかった───あ!」
「どうした!?」
「そういえば、神殿に忘れてきたんだった」
「はあ!?」
「後輩のグライア神官に、届けるよう手紙を出していたのよ。あの子ったら、まだ来てなかったわ。グズなんだから」
「グライア神官、て、フィオのことか!?」
「そーよ。あんた、会いたがってたわね」
ば、ば、馬鹿野郎! この場はどーすんだ!?
手元に残った剣の刃は短い。
どう考えても、魔王の心臓まで届かない。
あ、あわわ。
魔王が勢いを盛り返してきて、俺たちは追い詰められていく。
「ひ……は! ど、どうしよう。あれ? ヴォルディバは? シャーリーは?」
「みーんな逃げたわよぉ?」
イルハートが、大技を出して魔王を怯ませながら言う。
はあ!? 逃げただと!?
「だってぇ、神剣が折れた以上、勝てないじゃなーい?」
「だから逃げたってのか!?」
「当たり前でしょ。私も逃げるわぁ」
「こ、こら、なら俺も!」
「あなたは、ダメでしょ。勇者なのにぃ」
そんな会話の最中、俺は魔王の腕に捕まって奴のそばに引き寄せられた。
「う、うわぁぁ!」
“騒ぐな、勇者”
心の中に、奴の声が響く。
「ヒィッ」
“お前、助かりたくはないか?”
あの時と同じだ。あの時と同じ!!
「し、死にたくない……!!」
イルハートが見ているので、俺は自然と小声になる。
“なら、我と契約せよ。我の転生の秘術の発動に、力を貸せ”
「い、いいだろう。だが、ふ、復活するなら、俺の寿命が尽きた後にしろ! 今度こそ、約束を守れよな!!」
“ククク……ハハハ! 大した勇者だ。天はまた、勇者選びに失敗したな”
し、し、仕方ねーだろ!?
神剣が折れた以上、魔王を倒せる武器はもうない。
この場でやつに殺されるか、提案を飲んで生き延びるしかない。
死にたくない───死ぬのは嫌だ!!
魔王は俺の目の前で、鋭い爪をカチカチと鳴らした。いつでも、俺を引き裂ける爪だ。
「た、た、助けて……」
俺は震えながら懇願した。
情けないが、本音だ。
魔王は笑いながら、心に語りかけてくる。
“この契約は、世界を我に売ることと同じ意味を持つ。いいな、勇者”
「俺が死んだ後なら、知ったことか!!」
俺が痛くなければいい。
俺が辛くなければいい。
俺が損をしなければ、それでいい!!
世界がどうなろうと、関係ねぇ!!
“ふふ、いいぞ。愚かな勇者”
「いて!」
魔王は短剣を取り上げると、俺の指先を切って血を塗らせた。
その短剣で、魔王の心臓を貫かせてくる。
魔王は、笑いながら肉体が消滅していった。
あ、あ、後のことなんか知るか。
どうとでもなれ!!
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