※ネプォン編───失敗なんざ認めない。
「……は!!」
俺が気がつくと、ヘイムニルブのタインシュタ・フランの家の中にいた。
俺はイルハートの肩を抱き、シャーリーに睨まれている状態だ。
え、え、え?
俺がタインシュタ・フランの方を見ると、奴は澄ました顔で何かノートに記録している。
「やり直し、失敗、と……」
そんな声が聞こえた。
まさか、まさか、俺は!?
「おい! タインシュタ・フラン!」
「また、しくじったな、ネプォン」
「く……! おかしいだろ!? やり直し人生は、必ず成功するはずなんだ!!」
「やるべきことをしなければ、同じことの繰り返しになるに決まってるだろうが」
「やろうとした……やろうとしたさ! だが、できなかったんだ!!」
「そこまでは、知らん」
「お前の魔法が、不完全だからだろ!? 流行りの連中は皆……!」
「他の人間は辛酸を舐めながらも、『やるべきこと』をやるから、安全ルートに分岐するのだ。お前は、肝心な時に逃げてばかり」
「逃げる? できなかっただけだと言った!」
「無理に、時間を進ませただろ」
「!」
「せっかくの天運の加護を乱用しよって。ゆっくりもう一度やり直せば、グルレスの英雄が立つこともなかったろうに」
「ちまちまと、もう一度やればよかったと!?」
「ちまちま……。はぁ、そうとしか思えなかったか。もういい」
タインシュタ・フランはため息をついて、ノートを引き出しにしまった。
「もう一度! タインシュタ・フラン!!」
「諦めろネプォン。払える対価がもうない」
「対価はなんだ? また、集めてくればいいのか?」
「天運、輪廻、魂の不滅、約束された強さ、強靭な肉体……」
「は?」
「天の選定を受けた勇者として、お前の魂に付与された様々な特権が対価だった」
「!!」
「お前にはもう、何もない。輪廻の輪からも外れ、死ねば魂は魔界へ降り、魔物たちに食い荒らされる運命だ」
「は!?」
「諦めろ」
「納得できるか! そんなこと」
「今生が残っただけでも奇跡だ。この時間の歴史では、魔王にトドメを刺したのはお前だったからこその天の慈悲だろう」
「だよな? 本来、魔王を倒したのは俺だったよな!」
「アーチロビンが、瀕死に追い込んだ魔王に、棚ぼたで矢を捩じ込んだだけだかな」
「勝ちゃいいんだよ! ヒーローは、モブが弱らせた敵に格好良くトドメを刺すものだ。つまり、俺が真の勝者だ!!」
「そうか、よかったな。あとは、大事に余生を生きるがいい」
「く!! あぁぁぁ!!」
腹立たしくて、机の上に置かれた本や器具を両手で思いっきり払い落とす。
く……こんなにうまくいかないなんて!!
やり直せば、その時に戻ってパパッとやれば、俺の望む結果が勝ち取れると思っていた。
それがどうだ?
何も変えられず、元のまま。
これも……こうなったのも、全部あいつのせい。
「……この世から消してやりたい」
俺が言うと、イルハートがはぁ、とため息をついた。
「無理だと言っているのにぃ」
「なんとかしろ! イルハート!!」
「自分で考えなさいよぉ」
「くそ! タインシュタ・フラン!!」
「対価は───」
「俺の命を対価にしろ!」
「!?」
「それで、戻れるところまで戻せ!」
「……よかろう」
タインシュタ・フランは俺の目の前で印を切る。
これでいい……これで。
とにかく今度こそ───。
「……ホギャア」
───ん?
「ホギャ、ホギャ」
「おめでとうございます、元気な男の子です。胸に勇者の証である、アザがあります」
「嬉しい。私は勇者を産んだのね」
───え?
目の前に、俺の母親の顔がある。
ちょっと待て……俺はまさか!!
小さな手足、うまく喋れない口。
赤ん坊じゃねーか!!
戻れるだけ戻せと言ったが……これはいきすぎだろーが!!
俺は悲しくて俯く。
ここからやり直す、てか?
ふざけんな!
……しかし、ものは考えようだ。
魔王の思念にも取り憑かれていない。
天運も、勇者としての素養も元のまま。
面倒だが、もう一度やり直してやらあ!
ぜーんぶ覚えてるからな!
だが、元々何もかもうまくいっていた人生だ。なんの苦労もなく過ごす日々に、俺の記憶は少しずつ薄れていった。
成長して、神器へと導く剣を手にした時も、
「面倒だから、謎解きは明日やるわ」
と、言って基本放置した。
あいつに会うまでに、やればいーじゃん。
その程度。
今は毎日が楽しい。
さあ、次はどの女の子と遊ぼうかな。
ジェーン? エミリー? ヒルダ? ヘンリエッタ? あ、ミランダ。
まとめて今夜いただいてやるか。
そう思ったら、その通り叶う。
チョロすぎて、笑いが止まらない。
人生イージーモードとは、このことだ。
やがて、旅に出てイルハートたちと出会う。
そろそろ、剣の仕掛けを解かなきゃな。
───。
ダメだ。ちっとも解けねー。
確か聞いた方法では、こうだったよな。いや、こうだっけ?
あー、面倒くせ!
そうこうしているうちに、あの馬鹿弓使いと出会ってしまった。
あー、くそ!
……いや、待てよ? こいつなら、解けるんだよな。
俺は大帝神龍王に出会う前のあいつに、仕掛けを解かせようと思いついた。
今のこいつは俺に従順。
やれと言えば、やるはずだ。
「おい」
「はい」
「この仕掛け、解いてみろ」
「え? こ、これは神剣……ですよね?」
「神剣じゃねぇ。それへと導く道具だ」
「……は、はぁ」
理解したような、してないような自信のない顔。
俺はイライラしながら、馬鹿弓使いに剣を押し付ける。
「さっさとやれ!」
「は、はい!」
あいつは、オロオロしながら剣を受け取った。へへ、いい考えだろ?
解けないなら、解けるやつに命令すればいい。
あいつは剣を眺めた後、仕掛けを解き始めた。
剣はあっという間に、ベルのような楽器の形へと姿を変える。
へえ! こうだったのか!
俺はすぐに奪い取ると、そのベルを鳴らそうとした。
しかし……。
ガチャ。
何を触ってしまったのか、剣は元の形に戻ってしまった。
えー!?
戻るのは一瞬。
な、な、なんだとお!?
「おい! 馬鹿弓使い! もう一度やりなお……!」
「ねーぇ、ぼうやぁ。お腹すいたわぁー」
その時、イルハートが奴を呼びつける。
腹なんか、ほっとけよ!!
自分で、なにか作ればいいだろ!?
「メシか? 早くやれ!」
ヴォルディバが馬鹿弓使いの襟を掴んで、連れて行ってしまった。
あ! この馬鹿野郎!
その後も俺以外の三人が、よってたかってあいつに用事を言いつけるものだから、なかなかやらせることができない。
あー! ちくしょう!
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