魔王城崩壊
魔王ダーデュラが消滅して、城を構成していた魔物たちも目覚めたのだろう。
ガラガラと崩れる音が、そこかしこからする。
崩壊が始まったんだ。
元々この城は低クラスの魔物たちが、魔王のために寄り集まって変身し、城を構築していたに過ぎない。
目覚めれば、散り散りになって逃げ去るはずだ。
「主人を失って、酔いまで醒めよったか! ええい! 酒精の効能も、魔王消滅と共に消えたようじゃ!」
魔道士ティトが、揺れる城を見回しながら悔しそうに舌打ちした。
翼の靴を履いて、みんな浮遊能力があるとはいえ、早く脱出しないと、崩壊に巻き込まれるだろう。
逃げ去る魔物は恐慌状態だ。
下手に巻き込まれると危険だ。
「急いで脱出だ! タインシュタ・フラン! みんなをケルヴィン殿下の飛空挺に転送してくれ!!」
俺が叫ぶと、タインシュタ・フランはネプォンを指差した。
「定員オーバーだ。こいつが増えたせいで、一度に運べない」
「なら、俺が残る!!」
俺はみんなをタインシュタ・フランの近くに集めた。
「いや……いや! アーチロビン!!」
フィオが手を伸ばしてくるのを、俺はゆっくり遠ざけ、イルハートの入った結界の鏡を彼女に握らせた。
「先に行け! 後から行く! 必ず!! じっちゃんを頼む!!」
「アーチロビン!」
「待てい! 小さくすれば問題なかろう!?」
聖騎士ギルバートと、魔道士ティトが、タインシュタ・フランの方を見た。
「無理だ。ここは魔王の城の最深部。国境を越えるのとはわけが違う。時間がない。飛ぶぞ」
「すぐに、彼を連れに戻りますよね!? タインシュタ・フラン!」
フィオが念を押すように言うと、彼は首を横に振った。
……だろうな。
俺を見て、タインシュタ・フランは薄く微笑んで言い放つ。
「最初に降り立ったあの場所に、転送の魔法陣の効能を残してきた。英雄なら、天運の加護で辿り着けるはずだ」
天運の加護。
上手い言い訳だ。
早い話、『自分で何とかしろ』てことだ。
『リスクは分かっていたはず。あとは自己責任』
彼の目はそう言ってる。
魔王が去り、全てが終わった今、この人は興味の対象をなくした。
戦いの記録も十分で、目的も果たしている。
もう、命懸けでここに戻る理由がない。
俺たちの生死は、どうでもいいからだ。
「あんな端まで、戻れと言うの!?」
フィオが、彼に食ってかかろうとする。
よせ、フィオ。
ヘソを曲げれば、彼は自分一人で飛び去ってしまうだろう。
こういう変人は、自分だけに軸があるので、共感力が低い傾向にある。
頭で理解はできても、自分の得にならないことで、行動を変えることはまずないと思っていい。
俺は素早くフィオを振り向かせると、キスで口を塞いだ。
彼女の力が抜けて、大人しくなる。
「無事でいてくれ、俺なら大丈夫」
俺はゆっくり彼女から離れると、タインシュタ・フランを見る。
彼は軽く頷くと、転送の秘術でみんなと一緒に消えていった。
フィオが泣きながら、俺の方を見て叫ぶ。
「必ず、戻ってきて!! アーチロビン!! 私……呼ぶから。あなたを呼び続けるから!!」
「フィオ……!」
シュン!
みんなが、細い光になって消えていった。
よかった……少なくともみんなは助かる。
ガタガタ! ガタン!!
立っていられないほどの衝撃が、伝わってきた。外に出ないと。
「アーチロビン、ミンナ、イッチャッタネ」
懐に固まっていたオウムのフェイルノが、モゾモゾと動いて俺を見上げた。
魔王が消滅して、時間停止の影響もなくなったからな。
「ああ。お前も預けておけばよかった」
「イヤ。アイボウハ、イッショ」
「……そうだ。そうだな、お前は大事な相棒だ」
俺はフェイルノの頭を指先で撫でると、崩壊していく城の中を疾走した。
足を瓦礫にとられそうになりながら、出口を目指す。
バキバキ!!
ザザー!!
魔族たちが、一斉に元の姿に戻ってそこかしこから逃げ惑っていく。
途中でぶつかり、もみくちゃにされながらも、とにかく走った。
俺だから耐えられる。
フィオたちであれば、すり潰されていたかもしれない。
「離せ! 離せよ! 馬鹿野郎!!」
ふと、暗黒騎士ヴォルディバの声が聞こえる。
奴は瀕死のまま、数体の魔物に挟まれて飛び去るところだった。
「ヴォルディバ!!」
「あぁぁぁー!」
奴の姿は、魔物の影に隠れて見えなくなる。
気をとられた次の瞬間、足元から光が差し込んできた。
外か!? いや、違う。足場の魔物たちが逃げ出していなくなったんだ!!
元の姿に戻るのが遅い魔族たちは、浮遊ができないのか、半端な姿のまま瓦礫と化し、地上に向かって落ちていく。
戻れないまま、死んだようだな。
でも、俺もこのままではやばい。
なんとかして……て……て、え?
「うわ!」
俺は空中に放り出され、城の残骸と共に落ちていく。
翼の靴のおかげで、落下速度は少し遅いけど、それでも落下は止まらない。
「アーチロビン!!」
「掴まってろ! フェイルノ!!」
俺はフェイルノを宥めて、一緒に落ちていく瓦礫を見つめた。
下は海と、その近くには小さな港街がある! このままじゃ、甚大な被害が出る!!
最初はポリュンオスの上空だったけれど、移動したんだな。
小さな街は、シールドが張られているか怪しい。
「小さな瓦礫でも、速度がつけば衝撃がでかい……!! 仕方ない!!」
俺は弓を構えると、空に向かって撃ち放った。
「蒼炎! 解放!!」
蒼炎を纏った矢が、瓦礫を飲み込んで焼き尽くしていく。
一つ残らず……!!
「アーチロビン! ハヤク……ハヤク!! モウスグ、ウミ! カイメンニ、ツイチャウ!!」
目の端に、地上の景色が見え始める。
俺は急いで残りの瓦礫を焼き尽くし、残らず溶かしきったのを見届けた。
やった……!!
俺は満足して、フェイルノを懐に抱き締める。
これで、誰も傷つかない。誰も何も、失わない。
あとは、俺が戻れば……。
そう思った瞬間、頭を殴られるような衝撃がきて気を失った。
しまっ……た。
海中に、突っ込ん……だ……。
目の前が暗闇に包まれていく。
フィオ……。
そう言ったつもりだったのに、声になったかどうかは、わからなかった。
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次話は、ヒロイン、フィオの視点となります。




