奥の手
どう攻撃しようと、体力も魔力も回復できて、防御力と攻撃力も高い相手にどうすればいいのか。
ましてや、英雄と同等の実力を身につけた魔王に。
けれど……完璧に思えても弱点はある。
先代の魔王が転生した場合は、大魔導士がその魔力供給機関として、体に取り込まれるとか。
今、大魔導士イルハートのコピーが、彼女の代役として取り込まれている。
つまりそこは、元々魔王のものではなかったもの。
体力ではなく、魔力を削り続ければ、いずれ限界がくるんじゃないか!?
酷使された機関は、すり減るものだから。
コピーが寸分変わらぬ存在だとしても、オリジナルほどもたないだろう。
俺は弓を逆に持ち替えた。
弦で狙いをつけ、弓本体のハンドルを引いて矢を放つ。
他の弓ならこううまくはいかないけれど、そこは神弓。
連射して力場を発動した。
矢は絶対武器防御のスキルによって、魔王から逸れていくけど問題ない。
大気が振動して、力場によって削られるものが、体力から魔力へと切り替わる。
「……!?」
魔王も何が起きたのか、わかっていない。
防御のスキルは『体』を守るもの。『魔力』を守るスキルはこの世界にはない。
あとは魔王の攻撃を誘うだけ。
一つだけある。プライドの高い奴の攻撃を、効果的に誘うもの。
「フィオ」
俺は彼女に話しかけた。
「どうしたの?」
「今から、魔王ダーデュラを直接攻撃する」
「え!? 『絶対武器防御』のスキルを発動したままの相手に?」
「考えがある。フィオは、シールドを張り続けていてくれ。何があっても」
「……わかった。あなたを信じる」
俺は、浮遊状態をうまく操って、魔王ダーデュラに接近した。
「!?」
咄嗟の動きに、魔王は戸惑いを見せる。
弓使いは、遠距離攻撃が主体と思われがちなもの。
まさか。そればっかりなわけない。
俺は神弓を背中に装備しなおすと、拳でダーデュラがつけている仮面を殴った。
バキ!
……やった!
素手の一撃が、はいった!!
人間の素手の一撃なんて、大したダメージにはならないが、素手は『絶対武器防御』の対象外だと思ったんだ。
ガ……ガガ!?
魔王ダーデュラの体が、小刻みに震え始める。
何が起きているのか、魔王ダーデュラは認めたくないだろう。
素手だと?
人間ごときが!?
そう言いたげな、空気感が感じられる。
見下している相手に、顔面パンチを喰らうなんて、相当な屈辱のはずだ。
パキパキ!
魔王ダーデュラのつけていた仮面に、ヒビが入っていく。
俺はすぐさま離れて、距離を取った。
パキン!!
魔王の仮面が半分に割れて、中から黒い闇が溢れてくると、巨大な渦に変化する。
相当お怒りだな。
そのまま、俺たちを粉々にする気だったのだろう。
ビュオン!! ガガガガ!!
大きな音はするのに、その勢いはその場で止まったまま。
一回目!
ならばと、魔王はまた巨大な魔法を放とうとして、不発になる。
二回目。
次に魔王は、俺を引き裂こうと、鋭い刃を放とうとした。
三回目!
ズバ!
魔王本人に衝撃が跳ね返り、魔王は思わず自分の体を見回す。
……どこも切れてない。
だが……、魔力が大きく削られているはずだ。
プシュー!!
大きな音がして、魔力が回復していく。
これを繰り返せば!!
俺は再び、素手による攻撃を浴びせ、魔王の攻撃を誘っては跳ね返した。
何度も、何度も繰り返す。
魔王も、俺の意図を察して冷静になろうとしていたみたいだが、屈辱の感情がそれを上回っていた。
元々見下していた種族に、ここまでやられちゃな。
攻撃抑止で、殴りかかってくる俺を防げないばかりか、倒そうと繰り出す技は全て自分の魔力を削ってくる。
この現状に、奴自身の無意識の焦りが余計な魔力の浪費を招いていた。
いつだって窮状を打破するのは、予想の斜め上の行動だからな、ざまあみろだ。
それでも、魔王の膨大な魔力はいつ尽きるのかわからない。
あらゆる体術を駆使して、その時を待つ。
必ず───必ず倒すんだ!!
グニャリ。
何度目かの攻撃の後、魔王の姿が歪む。
……きた!
限界がきたんだ!
魔王ダーデュラは、魔力を回復させようとして、身の内に呼びかけているようだけど、何も起きない。
魔王の胸から、黒い砂のようなものが溢れてきて、異空間の底にハラハラと落ちていく。
大魔道士イルハートのコピーが、限界を迎えて消滅したんだ。
キュオオオオオー!!!
切り裂くような悲鳴が響いて、魔王ダーデュラの周りから光が溢れて、次々と離れていく。
同時に、異空間だった空間が元の魔王の城に戻った。
魔力が、完全に尽きたな!!
俺は神弓を元通りに構えると、魔王に向かって射る。
ドス!!
初めて魔王の体に、矢が刺さった。
身を守るスキルまで、解除されたようだ。
魔王は刺さった矢を掴んで、へし折ろうとする。
「させるか!!」
俺は続けて、矢を魔王の体に射た。
矢は急所に次々と刺さり、魔王の体力を奪っていく。
バン!
「アーチロビン!!」
「無事か!?」
そこへ、聖騎士ギルバートと、魔導士ティトが扉を開けて現れた。生きていた……帰ってきてくれた!
満身創痍みたいだけど、二人とも元気だ。
フィオがすぐに、二人に回復魔法をかける。
「二人とも、無事だったんだな!」
と、俺は嬉しくて、二人に声をかけた。
「おう!」
「ボクたちも手伝うよ……と言っても、出番ないみたいだね」
魔導士ティトと、聖騎士ギルバートは、俺の隣に来て話しかけてきた。
「ああ。でも、おかしいんだ。急所を射抜いたはずなのに、まだ息がある。体力も、回復させる魔力も、尽きているはずなのに」
と、俺は言って、弓を構えながらゆっくり近づくと、魔王はぐったりと床に伸びた。
死んだ……のか?
でも、肉体が消滅しない。
何か、おかしい。
フィオも、恐々と顔をあげて魔王ダーデュラを見つめる。
「魔王は、ほとんど瀕死。でも、ほら見て、アーチロビン」
「ん? どうした? フィオ」
「心臓のところ、矢の刺さり方が浅い」
「……確かに」
近づいて、ねじ込むか。
いや、待て。何かある。
俺はもう一度、弓の弦を引いた。
「近づくとまずいなら、ワシが魔法を撃ち込んでやろうか?」
後ろから魔導士ティトが、話しかけてくる。
それもいいけど、何か気になる。
「いや、神弓の方がいいと思う。もう一本重ねることで、深く押し込むから」
「『継ぎ矢』か? 先に放った矢に、次の矢を刺すあれか? 狙ってできるのか? アーチロビン」
「そうだよ、ティト」
この技は、幼い頃じっちゃんに習った技。
こんなところで、役に立つなんてな。
話を聞いていたタインシュタ・フランが口を挟んでくる。
「さっきの戦いで、連射を多用していたのは、継ぎ矢をするためだったのではないか? アーチロビン」
「ああ。敵の力の流れに干渉する力場の発動条件は、世界中に流れる力の流れ『龍脈』が鍵だから」
そう……龍脈が走る場所に、俺の気を込めた矢を刺すことで力場が発動していたのだ。
俺の目は、龍脈を見ることができるから。
だが、魔王は龍脈を射抜かせないよう、異空間に俺たちを閉じ込めた。
そのため、奥の手を使うことにしたんだ。
「俺の矢は、放つと軌道上に龍脈が生じる。すぐに消えるけど。そこをうまく利用したまでさ」
隣にいたフィオが俺を見上げて、目を輝かせる。
「確か、必ず三本ずつ連射してたよね? アーチロビン」
「そうだよ、フィオ」
「も、もしかして、最初に射た矢で龍脈を作り、同じ軌道に放った二本目の矢に、三本目の矢を刺すことで力場を得ていたの?」
「あたり」
「速すぎて見えなかったから、わからなかった。すごいね!」
「ありがとう、フィオ」
さあ、今度は魔王の心臓に、深く矢を刺しこむぞ。
そう思いながら、引いた弓の弦を放そうとした時だ。
「手柄はもらったぁ!!」
いきなりネプォンの声が聞こえて、思わず声がした方を振り向く。
どこに!? ───あ!!
タインシュタ・フランの背嚢の中から、イルハートを封じたものと同じ、結界の鏡が転がり出てきた。
鏡は床に落ちて割れると、中からネプォンが出て来る。
「へっへっへ。お前に勝利はやらねーよ、馬鹿弓使い!」
「ネプォン!」
こいつ……今の今まで隠れてやがったのか!
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