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突入

飛空挺が空へと舞い上がり、空に浮かぶ魔王の居城へ向かう。


念の為にと煙幕をはり、集中砲火を浴びないよう、魔導士ティトの幻影の術で目眩しの飛空挺も飛ばしてもらっているけど、反応がない。


「───何も仕掛けてこないな」


飛空挺の操舵を握るケルヴィン殿下が、拍子抜けたように言った。


確かに。

突入前に、何度か戦闘があると思ったのに。


ここまで何もないと、余程敵も自信があるとしか思えない。


「よし、とりあえず着陸するぞ」


ケルヴィン殿下が、降下させようとした時、タインシュタ・フランが止めた。


「待て」


「え」


「私が転送しよう。離着陸は一番無防備になる」


「……そうだな。みんな、準備はいいか?」


ケルヴィン殿下が、俺たちを振り返る。

俺たちは満場一致で、頷いた。


いよいよ、だな。


カッと足元に魔法陣が広がり、気がつくと魔王の居城がある島の一番端に降り立っていた。


魔導士ティトが、すぐに不思議な壺を取り出して栓を抜く。


「我と契約を交わしし、酒精の祖よ。大気に交わり我らが敵を深い眠りへと誘いたまえ、ルコアール!」


壺の中から、色とりどりのミストが溢れ出てきて、島全体を覆っていった。


「酒精のもたらす酔いで、低級魔族は眠らせた。これから向かってくるのは、それなりの高等魔族だけと思え」


彼女の言葉に、俺たちは身を引き締める。

これだけでも大助かりだ。


ティトはやはりすごい。


「わかった。行こう」


俺が言うと、皆前を向いた。


ニャルパンがくれた翼の靴のお陰で、俺たちは軽く宙に浮いたまま、歩くことができる。


このまま、問題なく行ければいいが。


城が近くなってくるにつれ、殺気のようなものが強くなってきた。


「みんな……油断するな!」


俺が言うと、みんなそれぞれ背中を預けあって警戒しながら進む。


ゴゴゴゴ!!


地鳴りがして、魔王軍の一団が前後左右から挟み撃ちするように突進して来た。


俺は素早く地面に矢を打ち込んで、力場を発動する。


ほとんどの魔族が、術にハマって自滅していった。


「やれやれ、敵が自滅していくのは毎度のことだが、一撃とはのう」


魔導士ティトが、俺をチラリと見た。

正直、俺も驚いてる。


「なぁ、ティト。敵の攻撃が、全てクリティカルになったのか? だから、攻撃が自分の身に跳ね返った時、一撃で消滅するのか?」


「いや、おそらく、その神弓の力がお前の力を上げておるのじゃ」


そう言われて、俺は自分の神弓を見た。


絶対反転の威力を、上げているのか。


そう思った時だった。


チ……チ……チ……。

静かに何かが、足元からせり上がってくる。


……な、なんだこれは。闇の底から湧き上がるような、いや、そんな生易しいものじゃない。憎悪と破壊欲、闇そのもののような暗い思念……。


これは、まさか、魔王の思念か……?


希望も喜びも全て吸い取られていき、もう何の光も見えないような気にさえなる。


だめだ……このままでは奴の意識に囚われてしまう。だが、だが……。


もうだめだ、と思いそうになったそのとき、突然奴の意識が哄笑し、俺の意識は現実に引き戻される。


「くっ、魔王め! 挨拶のつもりか。完全にボクたちをおちょくってるよ」


「お前も感じたのか? ギルバート」


「え、アーチロビンも?」


「ワシもじゃよ」


「私も……」


ティトにフィオまで。この場にいる全員が、感じたんだな。


「くくく、ゾクゾクしてきたな」


タインシュタ・フランはさておき、みんな感じていたんだな。


同じ感覚を味わったことに驚いていたその時、目の前に大きな空洞が開いて、そのまま飲み込むように覆い被さってきた。


「わぁ!」


「きゃ!!」


「ぐわぁ!」


長いトンネルを、みんなと一緒にものすごいスピードで吸い上げられていく。


「どこに出るんだ!?」


俺が叫ぶと、タインシュタ・フランが印を切りながらのんびりした口調で言った。


「城のエントランスに出るだろう。衝撃に備えておくといい」


なんでこの人、こんなに落ち着いてるんだ!?


やがて開けた場所に、放り出されるように飛び出した。


俺は受け身をとって転がり、すぐに立ち上がると、飛び出してくるフィオを抱き止める。


続いて、聖騎士ギルバート、魔導士ティト、最後にタインシュタ・フランが飛び出してきた。


みんなそれぞれを受け止めたけど、タインシュタ・フランだけは秘術の力でしれっと降り立つ。


「他の仲間たちも、同じ術で楽に降ろしてやってくれよ。タインシュタ・フラン」


俺が言うと、彼はすまして横を向く。


「それは英雄の役目だ。私は、記録係と言っただろう。力を貸すのは転送だけだ」


そのまま手帳を取り出すと、周りを見ながらサラサラと羽根ペンで書いていた。


「ヤッパリ、イジワルジジイ」


オウムのフェイルノが、悪態をつく。

タインシュタ・フランは口元に笑みを浮かべて、黙って記録していた。


さて、と。


俺がエントランスを見回すと、聖騎士ギルバートが、俺の前に進み出た。


「どうした? ギルバート」


「厄介な人がいたよ」


「え」


異様な気配を纏った何かが、エントランスに蠢いている。


黒い影を幾つも纏っていたのは……。


「おう、格好つけ後輩に、馬鹿弓使いじゃねーか」


現れたのは、暗黒騎士のヴォルディバだった。なぜ、ここに?


それに、顔色が異常に悪い。

どうしたんだ?


「うへへ、魔王を倒しに来た英雄てのは、まさかお前らのことかぁ!?」


暗黒騎士ヴォルディバは、ゲラゲラ笑って背中を反らせる。


その度に、奴の影から黒い影が出たり入ったりを繰り返した。


「ヴォルディバ先輩、魔族と融合してません?」


聖騎士ギルバートが槍を構えて聞くと、暗黒騎士ヴォルディバは、笑いを止めて俺たちを見た。


「してやられたぜ。魔王の側近が、俺たちを追跡してやがったのよ。かつて倒した俺たちに、恨みがあるからなぁ!? 捕まってこうなった……」


彼は自分の足元を見つめて、蠢く影をその目で追う。


まだ、人間としての意識を残しているようだな。


奴がここにいるということは……ネプォンも?


俺は暗黒騎士ヴォルディバに、声をかけた。


「ネプォンもいるのか?」


「あの馬鹿は、なぜか逃げおおせやがった」


「!?」


「シャーリーを、あんな目に遭わせておきながら、自分はのうのうと逃げた! イルハートの奴も捕まってねぇ!!」


「あんた、シャーリーのこと、知って……」


「魔王が教えてくれた。転生前の、ゾンビダラボッチの記憶を持つからな。あの野郎、シャーリーが襲われても、傍観してやがった!!」


「……」


「お前も、そこの女は助けても、シャーリーは助けなかったらしいな」


暗黒騎士ヴォルディバは、フィオの方を暗い目で見る。


俺は、自然とフィオを背に庇った。


「シャーリーは保護したが、ゾンビ化の汚染がひどすぎて浄化できなかったんだ。オベリア様が、石化するのが限界だった」


「……は! まあ、いい。俺もこうなっては大して変わらねぇ。お前らをぶち倒して、シャーリーを取り戻す」


「よせ、ヴォルディバ」


「うるせぇ!! 俺に指図するな、下っ端が!! 俺は魔王の側近の一人と融合した。とてつもなく強くなったぜ」


暗黒騎士ヴォルディバは、目を光らせながら蠢く影を、自分の触手として操りだした。


聖騎士ギルバートが、槍を振るって向かってくる影を弾き返す。


「ここはボクに任せて。先へ進んで、アーチロビン」


「ギルバート!? でも……!」


「モタモタしてられないよ。すぐに追いかけるからさ」


それを聞いて、暗黒騎士ヴォルディバが、また笑いだす。


「俺に勝てるてのか!? 勝てるわけねーよなぁ!! 後輩!!」


「乗り越えますよ、先輩。さあ、行って! みんな!!」


でも……と、声をかけようとして、魔導士ティトがそれを止める。


「アーチロビン、ギルバートを信じるのじゃ。時間をかけ過ぎれば、地上が危うい」


「……ああ……」


俺は聖騎士ギルバートの背中に、トン、軽く拳を当てた。


「必ず来てくれ。ギルバート」


「行くよ、アーチロビン」


彼は振り返らずに答える。

仲間は信じないと。


「ではのう、ギルバート」


「ギルバート、信じてるから!」


魔導士ティトもフィオも、それぞれ声をかけた。



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