英雄たちの裏話
月食を告げる装置を見て、テレクサンドラの表情が曇る。
「異常な月食です。月が夜空に輝く時には、月食が始まって道が塞がれるでしょう。そして、おそらく長い月食になります。」
「では、レディオークも異世界へは、渡れない?」
「いいえ、向こうは六体の龍王の宝珠があります。僅かな満月の光でも、力を倍増させて渡ることができる」
「つまり、レディオークは行けて、俺たちは難しくなる?」
「その通りです。こんな馬鹿な。天体観測はずっと続けていますが、月食はまだ先のはずだったのに」
「英雄の生まれる前兆……」
「え? なんです? アーチロビン」
「英雄は、生まれるべくして生まれる。英雄を倒す可能性があるものには、色んな不都合が生じるものでしょう?」
「ええ……」
テレクサンドラも、悲しそうに目を伏せる。
魔導士ティトが、杖をブン! と振った。
「ええぃ! 忌々しい!! 悪を倒す英雄の様々な運まで、魔王側につくなんぞ!! 神々も何をしておるのじゃ!!」
「……英雄が生まれる摂理を定めたのは、神々。自分たちの作り出した摂理にのっとったやり方をされれば、異を唱えることはできません」
「くそっ……!」
悔しがる魔導士ティトの肩に、ケルヴィン殿下が、そっと手を置いた。
「考えてみれば、完全に倒すために、俺たちも魔王を復活させる道筋を進んでいる。皮肉な話だよ」
みんな、シーンとなって俯く。
確かに、全て魔王に都合よく物事が動くよな。
けれど。
「英雄は、完璧じゃない」
俺は、みんなを見回して宣言した。
「アーチロビン?」
「俺は、じっちゃんに、昔の英雄の話をたくさん聞いた。本も読んだ。文字を覚えたのは、英雄たちの冒険譚が面白かったからです」
「お、おう」
「英雄は、偉業をたくさん成し遂げる。でも、英雄も色々でした」
「色々?」
「ネプォンのように、戦いには勝てても、政務に無頓着で国をダメにする者。伝説の話の中では勝って終わっても、その後の人生が凋落していく者」
「そもそも、道半ばで倒れる者もいたな」
「そう。そして、英雄の前に立ち塞がる魔物も、逆に英雄を倒してしまう者もいました」
俺がそう言うと、隣のフィオが首を傾げる。
「え、魔王を倒せなかった英雄がいるということは、その時の魔王は誰が倒したのかしら?」
そうだよな、それは俺もじっちゃんに聞いた。
じっちゃんも、そこはよく知らないと言っていた。
「昔の細かいところは、意外とあやふやなんだよな。『それから?』と疑問に思ったその先に、答えがないことが多くて」
「そうよね。急にわからなくなるよね」
「何か、伏せられた事実があるのかも。伝説に残せない、英雄にとって不都合な何か」
そう……きっと何かあるんだろう。
もしそうなら、勇者ネプォンでなくても魔王を倒せる可能性がある。
「……お前、よくそんな英雄の裏話まで知っているな。大体輝かしい経歴に傷のつくような話は、関心が向かないものなんだぞ」
ケルヴィン殿下が、感心したように俺を見た。
そう、そんな話にも目が向いたのは……。
「じっちゃんが、ある英雄の一生を教えてくれた時に、関心を持ちました。鋼の肉体と不死身の体があったのに、たった一箇所の弱点を突かれて倒された英雄の話を」
「ああ、英雄『ギアレス』か。確か耳だけは不死身の回復力がなくて、そこに毒を受けて倒されたんだったな。魔王と相打ちした、有名な英雄だ」
「ええ。英雄ほど、思わぬところに弱点を持つ。魔王にも、必ずあると思ってます。そして、英雄の最大の敵は、最後まで立ち塞がるものです」
俺はそう言って、月食を告げる装置の前に立った。
月食が始まるのは明日の夜。でも、月は昼間にも出ているものだ。見えないだけで。
「テレクサンドラ」
「はい?」
「満月がはっきり見えるのは夜でも、月は昼間も浮かんでいるはずですよね」
「え、ええ」
「今は月は満ちる途中。でも、明日の夕方なら? ほとんど満月でしょう?」
「!! え、ええ! 今の季節なら、夕方には満月になっています!」
「レディオークは、宝珠を僅かでも満月の光にあてないと行けない。でも、俺たちにはあなたがいる。早めに行ってレディオークを迎え撃つ」
「そして、月食が明ける頃に戻ってくる?」
「そうです。月食による出遅れを、これで回避できる。おそらく、月食はどれほど異常でも、夜明けまでは続かないはずだ」
「なぜ?」
「倒されたレディオークから抜け出た魔王の魂の欠片も、こちらに戻らなければならないからです」
「英雄の帰還を、天は邪魔しない」
「そうです。そこに、俺たちも戻れる可能性があります」
「わかりました、アーチロビン」
「満月の夜、ではありませんが、道はつながりますか?」
「ええ。私が道を繋げることにおいて、重要なのは月齢なのです。月の『光』がはっきり見える夜に囚われていたら、気づかないままでした。ありがとうございます」
「それでは……」
「はい。明日の夕方、道を繋げましょう」
テレクサンドラがそう言って、俺たちは胸を撫で下ろす。
あぁ、そうだ。
「テレクサンドラ、レディオークの固有スキルはご存知ですか?」
「存じております。レディオークは代々、『ダメージ変換』と、『体力交換』を持ちます」
「ダメージ変換と体力交換?」
「ダメージ変換は、自分が受けたダメージを、攻撃力に変えてしまうのです。つまり、瀕死になればなるほど強くなる」
「!!」
「体力交換は、自分と相手の体力を入れ替えるスキル。瀕死のレディオークと体力を入れ替えられた相手は、問答無用で瀕死になります」
「奴は瀕死になるまで攻撃力を溜め込み、最後は体力を入れ替えて、瀕死の相手を高い攻撃力で撃破するわけですね」
「ええ、その通りです。アーチロビン。龍王たちが敗れた理由は、そこにあると思います」
「厄介ですね。俺の力でレディオークを瀕死に追い込んでも、その体力変換で龍王を狙われたら危なくなる」
フィオもうーんと唸って、首を傾げた。
「私が常に回復魔法でバックアップして、瀕死を回避するしかないかも」
「……そうだな」
それが一番現実的だろう。
龍王を守りながら、レディオークを倒す。
いかに、俺にレディオークの注意を向けるかも重要だ。
奴が龍王を狙い続ければ、俺の力場に捉えて倒すのも難しくなる。
下手に攻撃しても倒せなければ、それが奴の攻撃力に加算されてしまう。
俺たちは、どうすれば一番いいかを話し合うために、互いに顔を見合わせた。
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