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旅の依頼

あの日から、半年が経過した。

俺は無事、故郷の森に帰り着き、じっちゃんとオウムのフェイルノと平和に暮らしている。


勇者ネプォンは、魔王ダーデュラを倒し、この国の姫と結婚して、王になったそうだ。


英雄と姫の結婚。

まさに、奴が望んだ通りになったわけだ。


だが、その割に各地で魔族の活動が収まらない。魔王が倒れたはずなのに、勢いが衰えるどころか、ますます盛んになっている。


各地で、新たな冒険者たちが立ち上がり、討伐してまわっているようだが。


「おかえり、アーチロビン」


俺の帰りを待っていたじっちゃんが、玄関まで迎えにきてくれた。


俺は、いつもの止まり木にフェイルノをとまらせて、顔を上げる。


「ただいま、じっちゃん」


「今度もこんなに早く帰ってきたのかい。もう少しゆっくり冒険しておいで」


「いや、いいんだよ。今回も魔族の首領は倒したんだ。三下だったけど」


「怪我はないかい?」


「ないよ。いつも通り、例の力を使ったしさ。これ、今回の報酬」


俺は机の上に、金貨の袋をドサッと置いた。

じっちゃんは、中を開いて感心しながら俺を見る。


「今回もすごいのう」


「うん、じっちゃんのパイプ、これで新調して。あと、いつもの額を引いたら、残りはマフィマフィン協会に寄付するから」


「戦や災害で、家や仕事を失った人々を助けるマフィマフィン協会にじゃな」


「そう。せめて一日でも早く、いつもの日常を取り戻してほしいから」


「ふぉっ、ふぉ。偉いのう。いろんな冒険者が、お前をスカウトしたいらしいぞ? お前を何とかと呼んでたな……確か」


「隠しチートキャラ」


「それそれ、ちーときゃら。どういう意味だかよくわからんがな。お前は素晴らしい才能を持っているんだ。こんな森の中で、じーさんと暮らす必要はないんだぞ?」


「いいんだよ。俺、じっちゃんが好きだし、名誉とか出世とか興味ない」


「しかしなぁ」


「俺は今の生活が好きなんだよ。俺の能力が必要な時に、その冒険者に力を貸すけど、あとは戻ってきたい」


「アーチロビン……」


「ほら、俺の力を使えば、人家に近い場所での戦は起きないし。じっちゃんが平和に暮らせる」


「まあな。すごいことだ」


「それに俺、勇者なんて信じてない」


「ネプォンの奴が、悪かったからな……」


「勇者がなんなのか、もうわからなくなったよ。一体なんなんだよ、じっちゃん」


「勇者か。勇者は本来魔王を倒す為に、天が選ぶ英雄のことだ。新しい魔王が生まれるたびに、一人の勇者が選ばれる」


「魔王は数百年に一度、必ず生まれるんだよね?」


「そうじゃ。歴代の勇者は魔王に打ち勝つ為に、英雄となるべく魂を鍛え上げて生まれてくるといわれている」


「魂を? もう、そこから違うんだな」


「その分、何度も生まれ変わりながらまた苦労を重ねて、やっと英雄として生まれてくるらしい」


「ふーん……ネプォンがねぇ」


「勇者は勝つ為に神器を与えられ、仲間と才能に恵まれ、ことを成し遂げる運を与えられる特別な存在だ。当代ただ一人の、な」


「神器まで揃えてもらえるんだな」


「神器でしか、魔王の魂は砕けないからのう」


「人格も、ちゃんと見極めてるのかな」


「徳を併せ持つとは限らん。『事を成し遂げる為』、の存在だからな。人格者ばかりが、成功するわけではないのが世の中だ」


「だろうな」


「アーチロビン……」


「はは! もうこりごりだよ。そんな連中に付き合うの。さぁ、じっちゃん、ご飯にしよう!」


俺は手を洗って服を着替えると、エプロンをつけて台所に立った。


深く関わらないのが一番だ。

そうすれば、傷つかずにすむ。

相手に期待した方が悪いのだから。


そんなある日、来客があった。


「オキャクサマ! オキャクサマ!」


フェイルノが、薪を割っていた俺の元へと飛んできて、知らせてくれる。


ふらりと森の奥へ飛んでいったかと思えば、人を連れてきたのか?


「フェイルノ、仕事の依頼じゃないだろうな」


「ンー、タブン」


「家まで連れてくるな。森の入り口で狼煙をあげるように、決めてるのに」


「キニイッタノ。ダカラ、アンナイ、シタノ」


気に入った?

初対面の知らない奴を?


俺は汗を拭きながら、辺りを見回す。

客なんて、どこにも……ん?


森の木々の隙間から、俺を覗き見している奴がいる。


俺は薪割りの斧を置いて、じっと相手を見た。

シーンとして、動きを見せない。


なんなんだ? 用事がないなら、帰るぞ。


俺が薪を集めて、家に帰ろうとした時、後ろから声がかかった。


「あの……!」


その声で、女性だということがわかる。

俺は振り向いて、彼女を見た。


白いローブを纏い、聖なる紋章をかたどったペンダントを下げている。


神官か。


あのシャーリーと同じ格好をした彼女に、少し嫌悪感を感じて、自然と声が低くなる。


もう、何もさせないからな。

そんな気持ちを込めて、返事をした。


「───何か?」


俺が言うと、彼女はスタスタと歩いてきて、ローブのフードを取ろうとする。


その瞬間、


「きゃ!!」


と、叫んで倒れた。


足元の切り株の根に、足を取られたみたいだ。

森を歩き慣れてないな。


「大丈夫ですか?」


俺が呆れて見ていると、彼女は慌てて起き上がり、服についた汚れをパンパンと叩いて落とす。


「は、はい! お構いなく!」


彼女は早口で喋りながら、改めてフードをはずした。その頭には、純白の狐の耳が生えている。


よく見ると、後ろからふっさりした尻尾も見えていた。


人の姿に、狐の耳と尻尾を生やした種族、孤族だ。


孤族出身の神官か。

白狐とは珍しいな。


耳がピクピク動いて、可愛らしい。

大きな目も、愛らしさに華を添えていた。


ふんわりとした、可憐な美少女という言葉がぴったりだ。


「ご用はなんでしょう?」


俺が尋ねると、彼女は姿勢を正して礼儀正しくお辞儀をする。


「はい、私は神官のクリムティナ・フィオ・グライア。あなたは、“名無しの弓使い様”でいらっしやいますか?」


そう、俺は本名は名乗らないことにしている。

……やっぱり、仕事の依頼かな。


「そうです。で、ご用件は?」


「どうか、ご助力を! 私たちのパーティーに加わっていただきたいのです!! 旅の仲間として」


よりによって、なんてお願いだ。

俺が旅までしないことを、聞いていないのか?


「……俺は、長旅に同行はしません。あくまで単発の討伐の加勢はしますけど」


「そこを、そこをなんとか!」


「帰ってください」


俺は背を向けて、家に向かって歩き出した。長旅なんて、冗談じゃない。


俺はもう誰にも、利用されたくない。


「待って!!」


彼女は躓きながら、追いついてくる。

無視、無視。


構わないでくれ。


「話を聞いてください!」


ガシ!

いきなり俺は、彼女に腕を掴まれた。


「おっと!」


「お願い……ケルヴィン殿下の為にも、手ぶらでは帰れないんです」


「ケルヴィン殿下?」


「あ……!」


彼女は、慌てて手を離して口を覆う。耳が後ろに倒れて、困惑していることがすぐにわかった。


ケルヴィン殿下といえば、この国の王子。勇者ネプォンと結婚したヘレン姫の弟になる。


つまり義弟。


「何でわざわざ、王族が旅に出るんだ?」


俺が質問すると、彼女はやってしまったという表情のまま、俺を見上げた。


「魔族の勢いが衰えぬ現状に、胸を痛められていらっしゃるのです。それに……ネプォン王の所業に、思うところがあるそうで」


「所業?」


「英雄とは思えぬ振る舞いを、なさるらしいのです。その上……本当は魔王ダーデュラを倒していないのではないかと、殿下は睨んでいます」


魔王ダーデュラを、倒していない?

俺を生贄にして、レアアイテムを手に入れたあいつが?


俺は思わず彼女を振り向いて、次の言葉を待った。



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