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陽動

改めて知った真実に、みんな沈黙する。

最初に口を開いたのは、ケルヴィン殿下だった。


「思っていたより厄介だな。英雄と同じ強さの魔王なんて、もはや無敵じゃないか」


そうだ……英雄は常に勝つ。

戦闘力だけでなく、勝つべく環境や状況も有利に動いていくからな。


魔導士ティトは、タインシュタ・フランが開いた分厚い本を一緒に覗き込む。


「ううむ、こんな秘術があったとは。しかし、何故忘れ去られた秘術になったのだ? この秘術を使えば、英雄はいくらでも作り出せるはずなのに」


タインシュタ・フランは、片眉をあげて彼女を見ると、鼻で笑った。


「滅多に成功しないからだ。魂を切り分け、また一つに戻るには、強固な意志が必要だ。あまりに細かく魂を切り分ければ、消滅してしまう危険もある」


それを聞いて、俺も質問してみた。


「魂を分ける限界数があるのか?」


タインシュタ・フランは頷く。


「魔王なら、およそ百は可能だろう」


「百!?」


「各地で百の魂の欠片が、冒険者たちと戦い、非業の死を遂げて魂を鍛え、また別の宿主に転生を繰り返す。やがて鍛え抜かれた魂は集約され、その数は減っていく」


それを聞いたケルヴィン殿下は、片手で髪をかき上げながら、タインシュタ・フランに話しかけた。


「ネプォン義兄上が、魔王を倒したのが半年前。その間各地の魔族の勢いが落ちず、冒険者たちが相当戦っていた」


そうだ……。俺も冒険者たちに手を貸していた。だが、俺は魔王の魂の欠片を見たことはない。


あのヘカントガーゴイルと、オメガゴーレムだけだ。


世界各地に散っているから、俺が偶然出会わなかっただけか?


タインシュタ・フランは、俺に視線を戻して会話を続ける。


「私もお前らも知らぬところで倒された魔族も勘定すれば、もうあと二体程度に絞られてきているだろう」


二体!? もうそれだけなのか?

俺は、思わずハッとなって彼を見つめた。


「ニ体……そいつらが倒されれば……」


「英雄と同じ強さの魔王が生まれる。世界は終わるだろう」


タインシュタ・フランがそう言い終わると、聖騎士ギルバートが立ち上がる。


「じゃ、魔族は倒さない方がいいんですか?」


それを聞いたリリーは、首を横に振る。


「いいえ、こうなったらむしろ魔王を誕生させて、倒さないと。この秘術で細分化に成功した魂が、長く統合されないままだと、暴走して大規模な爆発が起きると言われています」


「爆発」


「過去、この秘術に挑み、統合が叶わなかった魂が、いくつもの国々を巻き込んで壊滅させた記録があります」


「ええ!?」


「場所も時間も規模も、予測不可能。ましてや、今度は魔王の魂。更に脅威です」


リリーがそう言った直後、ドンドンドン! と扉を叩く音が聞こえた。


なんだ?


みんなが顔を上げて、音がする方を向く。すると暗黒騎士ヴォルディバの声が聞こえてきた。


「おい! 開けろ! タインシュタ・フランに話がある!!」


あいつ、もう回復したのか。

悪霊に生気を吸われたのに、タフな奴だ。


「オメガゴーレムの館に行った部下が、ケルヴィン殿下たちの遺体はねぇと報告してきやがった! ここに戻ってねぇか!?」


聖騎士ギルバートが、うんざりした顔をして俺を見た。


「相変わらず、ヴォルディバ先輩は粗野な言葉遣いするよねぇ。騎士の品位を下げないでほしいよ」


まぁな。あいつは品位はない方だから。


ケルヴィン殿下は、サッと前に進み出て、


「奴らに捕まるわけにはいかない。魔王の復活はネプォン義兄上にとって、今の立場を失うきっかけになる。死に物狂いで、隠そうとするだろう」


と言った。


確かに。そうなると、この先も妨害されてやりにくくなる。

交戦するのは、避けたい。


リリーは事情を察知して、俺たちを別室へと案内してくれた。


「この部屋に隠れて。私が追い返します」


彼女は、凛とした雰囲気で宣言する。

リリーが、追い返す……か。


俺はふと心配になった。暗黒騎士ヴォルディバは、すぐ手が出るタイプで、リリーは綺麗な女性だ。


俺たちの行方を吐かせようと、強引な手段に出るかもしれない。


「リリー、俺も行く」


「え」


「ヴォルディバは、君を酷い目に遭わせてでも俺たちのことを聞き出そうとするだろうから」


「どうするつもり?」


「みんなも聞いてくれ」


俺はみんなを集めて、作戦を話した。


その後手筈(てはず)を整え、リリーは扉を開ける。


「はい」


「随分時間がかかったな。おい、ねぇちゃん。ケルヴィン殿下たちが、ここにいるんだろ?」


「あの人たち、そんな名前なんですか?」


「んー? 知らない、てか?」


「ええ、別の名前を名乗ってらっしゃったので」


「この国の王族じゃねぇが、顔を知らなかったのか?」


「ええ、私たち、研究以外に興味がありませんから」


「かー! あんたもかよ。まあでも、ようやく出会えた綺麗なねぇちゃんだ」


ヴォルディバは、ニヤニヤしながらリリーに近づく。


「で? あいつらは今どこに? 隠すとためになんねーぞ? 船の出航時間まで、あと(わず)かなんでな。泊まりはごめんだ」


「さっきまで父と話をされてましたけど」


「なんの話を?」


「魔王の話を。でも、オメガゴーレムが無傷ではなかったので、父がヘソを曲げて何も答えなくて。相当イライラされてました」


「ふーん、嘘は言ってないみたいだな」


暗黒騎士ヴォルディバは、リリーの腕を掴む。


「きゃ!」


「へへ、ねぇちゃんよ。なら、ケルヴィン殿下のところへ、案内してくれよ」


「痛い、痛い!」


「その後で、俺とここを出ようぜ」


「嫌です! 私は、恋人がいるので!」


「恋人ぉ? どこに?」


「ここだ」


俺は仮面をつけたまま、彼女の隣に立って、暗黒騎士ヴォルディバの手を払う。


「あ……! てめぇ、船に乗ってた生意気な野郎!!」


「リリーに手を出すつもりなら、俺が相手になる。英雄だろうが、容赦しない」


「言うじゃねぇか!」


「ついでにお前が悪霊に襲われて、伸びたことを世間にバラすぞ。高名な暗黒騎士の無様な姿を世間が知ったら、どうなるかな」


「く……!」


「ほら、記録魔法の水晶玉だ。これにバッチリ映ってる」


それはケルヴィン殿下が、ネプォンとイルハートの密会現場を撮影した時のものだったが、ヴォルディバにはわからない。


「こ、こ、この野郎! そいつをよこせ!!」


「リリーたちに手を出さなければ、世間には出回らない。だが、これから指一本でも触れれば、王都にいる仲間に転送して、バラす手筈だ」


「転送だ!?」


「ここは、秘術が生まれたかつての魔都だ。知られていない魔法があるのさ」


暗黒騎士ヴォルディバの目が泳ぐ。リリーが俺にしがみつくので、彼女の腰を抱き寄せて奴を睨みつけた。


うまいぞ、リリー。勘のいい人で助かった。

ヴォルディバの奴、騙されてくれている。


……おっと。


なんだか、リリーもフィオみたいに柔らかくて温かいな。


女の子、て、みんなこうなのか?


腰の細さも、あたっている体の感触も、2人は微妙に違う。


変な気分になりそうになるけど、リリーはフィオほどドキドキしない。


何が違うんだろうな。


逡巡する俺の目の前で、ヴォルディバは悔しそうに顔を歪める。


「ち……! お、お、俺の目的はケルヴィン殿下なんでな! ねぇちゃんたちは関係ねぇ!!」


暗黒騎士ヴォルディバがそう言った直後、ドドドン!!! と大きな音がした。


「父さん!?」


リリーが、慌ててタインシュタ・フランの研究室の扉を開ける。


もちろん歩きながら。


中では、タインシュタ・フランがオメガゴーレムの上で気絶していた。


「ひどい! 魔法で気絶させられてる!!」


リリーはタインシュタ・フランを抱き起こして、顔を覗き込んでいる。


作戦通りだな、ティト。本当に彼女はうまい。


暗黒騎士ヴォルディバも、その部下たちも研究室に入ってリリーたちを取り囲んだ。


「気絶だぁ? あの魔道士の婆さんがキレたのか?」


「多分、そうだと思います」


リリーはハンカチを取り出して、甲斐甲斐しく父親の顔を拭いている。


次の仕掛けもうまくいってくれ。

ギルバート、頼むぞ。


「ヒヒヒーン!!」


直後に外から馬の鳴き声がした。


「しまったぁ! 陽動だ!!」


暗黒騎士ヴォルディバが、外へ走り出そうとしたので、リリーがその背中に叫ぶ。


「走ってはいけません!!」


「おっと! くそ!」


暗黒騎士ヴォルディバたちは、歩きながら外へと出た。


外から、奴の部下の声とヴォルディバの声が聞こえてくる。


「ヴォルディバ将軍! 馬が根こそぎ奪われています!」


「なんだとぉ!? すぐに伝書鳩を飛ばせ! 港を封鎖するんだ!!」


「し、将軍、間に合いません。奴らを乗せた船は伝書鳩が着く前に出ます!!」


「馬鹿野郎! なら、着港する港に飛ばせ! 俺たちも、ここで船を借りて向かうぞ!」


「は!!」


暗黒騎士ヴォルディバたちは、歩きながら港に向かっている。途中で、また馬を買って港に行くに違いない。


うまくいったな!!


「馬鹿な奴らじゃのう」


魔道士ティトが、隣の部屋から出てきた。


「見事な作戦だ、アーチロビン」


ティトの後に続いて出てきた、ケルヴィン殿下に言われて、俺は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。船の時刻を教えてくれたリリーと、幻影の術で誤魔化してくれたティトのおかげです」


読んでくださってありがとうございます。

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