天才だけどHPが1しかない賢者
これはとある勇者と仲間たちの物語。
彼の仲間には賢者がいた。
古今東西に存在するどんな流派の魔法も使いこなす天才であった。
大量の魔物が押し寄せてきた時も、範囲攻撃の強力な魔法で全て殲滅。
まさに最強であった。
でもそんな賢者には問題が一つ。
HPが1しかないのだ。
「おはよーぁっ! いたっ!」
寝ぼけて箪笥の角に小指をぶつける賢者。
――死亡。
「この料理おいしーね! あっ、痛い!」
食べていた魚の骨がのどに刺さる。
――死亡。
「なんだか雨がふりそ……つめたっ!」
急に冷たい雨が額に落ちて――死亡。
「やべぇ……深酒した……頭がいた……死ぬ」
二日酔いで死亡。
「お腹空いたなぁ、死ぬ」
空腹で死亡。
「寂しい、死ぬ」
寂しくて死亡。
死亡、死亡、死亡。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
死――――
「うがああああああああああああああああ!」
あまりの死にっぷりに勇者のメンタルが限界に達した。
「もうこんな奴と一緒に旅するの嫌だアアアアアアアアア!」
「旅なんてしてないだろ。
死体を運んでるだけだぞ」
仲間の戦士が言った。
「嫌なら墓場に埋めて放置しようぜ。
代わりの魔法使いをパーティーに入れればいいだろ」
「うーん……でもぉ」
勇者が悩んでいるのには理由があった。
賢者ほどの力を持った魔法の使い手は他にいない。
なんなら、世界最強と言ってもいいだろう。
正直、手放すのは惜しい。
「よし、いいことを思いついたぞ」
棺桶を見つめる勇者。
妙案が思い浮かんだのだ。
「くくく……よく来た――おい」
勇者たちが目の前に現れるなり、困惑した表情を浮かべる魔王。
「どうした?」
「その……卒業写真の集合写真に写れなかった人みたいに、
お前たちの後ろに浮かんでいる人の顔はなんだ⁉」
「これは賢者だ」
勇者は真顔で答える。
「は? 賢者?」
「コイツHPゼロだから、
魔王城なんて過酷な環境に耐えられるはずないし。
だからリモートでの参加になった」
「そうか」
魔法で空間に穴を開けて、離れた場所から戦いに参加しているのだ。
すごい。
「くくく、覚悟しろ魔王!」
「ああんっ!」
変な声を出す賢者。
「なんだ⁉ どうした⁉」
「猫が膝の上にのってきて……ああっ!
こんな状況で甘噛みしないで!
――あっ」
猫に甘噛みされて死!
「…………」
「……で、どうすんの?」
魔王に尋ねられ、勇者は気まずそうに答える。
「また今度、出直してきます」
「逃がすはずないだろ、いい加減にしろ」
だいまおうからは、にげられない!