特別なわたしへ
春はベッドに横になりながら、中学の卒業アルバムを見ていた。ついこの間見たばかりだったが、気鬱になったせいもあり最後まで見ていなかった。
アルバムの中にある校舎や同級生たちの顔を見れば、その光景が動画のように鮮明に動き出す。
アルバムの中に閉じ込めてある自分と今の自分を見比べる。幼さと溌剌とした活気をまとった表情で笑っている過去の姿に自然と笑みが出る。
少し視線を移せば姿見にベッドに横になった現在の自分が映っていた。そこには中学時代の面影を残しながら、顔立ちが長くなり鼻が少し高くなっている今があった。
その顔は深沈していて、あの頃のようにはしゃぎ回る他愛もない少女はそこにはいなかった。
クラスのページを進み、部活紹介に差し掛かり、懐古の情で満たされていた。その次のページ、ひらりと一枚の黄色の封筒が落ちてきた。
「ん? 手紙?」
封もされておらず宛名もないものの、中に手紙が入っている感触がある。
「わたしのだっけ? ん?」
中から取り出した手紙に思わず声を上げた。
「これ? 何だっけ?」
思わず声に出して読んでみた。
「特別なわたしへ
世界がとても美しいとまだ感じていますか?
今の幸せはまだ続いているの?
特別なままのわたしでいる?
彼と出会ってからわたしはようやくわたしになれた
世界がわたしを見つけてくれた
分かち合い
心は今も繋がっていますか?
彼と離れている空間にわたしは存在しない
わたしはそこにいますか?
世界はわたしを見てくれていますか?」
形容しがたい散文詩のような文章に気恥ずかしさを感じながら、これを書いた時どんな気持ちだったのか思い返してみた。
しかし、何も思い出すことができない。でも、アルバムをめくればそこにいる気がした。
親しみやすく甘めな優しい顔立ち、同級生たちが並ぶ中、頭一つ半ほど抜けた身長。あの夢で見た白いシャツの男性だ。
彼を知っている。美術の臨時講師で、野球部の副顧問をしていた先生だ。
「この先生……名前何だったかな?」
アルバムの顔を見ていると酷い頭痛に襲われた。今まで感じたことの無い尋常でない苦痛に吐気を催した。
「うっ!」
急ぎトイレへ駈け込み、勢いよく吐瀉物が吐き出された。くらくらと眩暈がして、卑屈が身体を震えさせる。
とてつもない恐怖に怯えた春は、スマホで美幸へ連絡をした。電話に出るのを待つ間、ぐるぐると世界が回ってまた吐いた。
「もしもし春?」
美幸の声が聞こえたが、意識がどんどん遠のいていく。これは本当にまずいかもしれない。
「みーちゃん……た……うぇ……助けて……」
「もしもし!? 春!? 春!? ……」
美幸の声がはるか遠くから聞こえた気がした。そして春はそのまま気を失ってしまった――。