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男女二人パーティーとは(後)

女将さんに言ったことではないということなのか、コウの言った言葉を反芻していると、一人の冒険者が声をかけてきた。片手には酒のジョッキを持っていて、明らかに酔っているように思える。

「よう、寂しい者同士、とうとう手を組んだってわけか」

 見たことがない男だが、腰から剣を下げているのでコウと同じく剣士のようだ。ランクは同じか、または一個下くらいだろう。いかにも馬鹿にしたように、ニタニタとこちらを見ている。

 そして何より腹が立つのは、今の言葉にこの男と共に飲んでいた男たち数名が面白そうに噴出したところだ。

「ねぇコウ、あんたって魔法何か使える?」

「あ? 使えるように見えんのかよ」

「見えないから、一応確認だけよ」

「緊急用に魔法の込められた魔石は何個か持ってはいるが、基本は剣だけだ。そもそも魔法も使える剣士……魔法剣士なんて、そんなのホントに存在するのかよ」

「どっかのS級にはいるらしいけど」

「どっちみち、そんなんは剣士としても魔導士としても中途半端だろう」

「まあ、それもそうよね」

「おい、何無視してんだよ。てめーら」

 私たちがこの酔っ払いに付き合う必要性など、どこにもない。大体この手の人間は、構えばつけ上がらせるだけだ。無視することに限る。

「なんだよ、イチャイチャしてんじゃねーよ。パーティー組んで、他の世話もしてもらってるんじゃねーのか」

 ゲラゲラと癇に障るほど大きな声で、下品に笑い出す。女将が来ればこんな奴は追い出されるに決まっている。食事が運ばれるまでの我慢だと、言い聞かせる。

「何も言わないとこを見ると、図星か。いいよなぁ、男と女の二人パーティーなんて」

「男と女が二人で組むだけで、男女関係があると思うなんてよっぱど欲求不満なのね。可哀そうに。ま、その顔じゃ、相手にしてくれる人もいないかぁ。残念」

 我慢を忘れ、すっかり言い返す。そして鼻で笑ってやると、先ほどより多くのその場にいた冒険者たちが噴き出す。

 よし、勝ったな。

「なんだと」

「そうだな、俺にも選ぶ権利がある。この凹凸のない女のどこに、欲情しろと」

 援護射撃と思いきや、コウから出てきた言葉は明らかにそれとは違う。

「ちょっと、それ、私がぺったんこって言いたいわけ」

 そりゃあ、女将さんやアルマよりかは確かに小さいかもしれない。しかし控えめに、小ぶりなだけで全くないわけではないというのに。

「まぁ、全く凹凸がないとは言わないがな。その腹とか、尻とか」

「なんですって! コウあんたね、言わせておけば、私が太ってるって言いたいわけ? ちゃんとくびれぐらいあるわよ」

「くびれ……、あんのか、そんなもん。俺はてっきり幼児体系かと」

「おい、お前ら、おれを無視すんなってさっきから言ってるだろ」

「元はと言えば、あんたが変なこと言い出すから悪いのよ。ややぽっちゃりの幼児体系ですって。胸がないからって、恋愛対象にもならない。よくもそんなこと言ってくれてるわね。二度とその口聞けないようにしてやる」

「おい、おれは何もそこまで言ってないだろう」

 そうだ、こいつが全部悪い。最近気にしているお腹の肉も、胸より大きなお尻も。人が気にすることばっかり、しかもこんな多くの人が集まる場所で。

「……全て痺れろ、パラライ」

 口の中で素早く呪文を唱えると、右手を突き出し魔法を発動させる。私の得意呪文の一つ、パラライ。対象を痺れさす魔法なのだが、普通は体がビリビリと痺れたように動けなくさせる呪文だ。しかし私のこの呪文に対する熟練度から言えば、ただ痺れさすだけではない。本気でこの呪文を唱えれば、心臓すら麻痺させる威力があるのだ。

「ふん、心臓麻痺させなかっただけ、ありがたいと思いなさいよ」

 人のことを鼻で笑った奴らも全て、痺れさせてやった。いくら威力を弱めたとはいえ、半日は痺れていることだろう。

「こらこら、食堂内では揉め事は禁止だと言ってあるはずだよ」

 私の定食と、デザートのようなものを持ってきた女将さんが呆れたように声をかけてくる。

「だって、ひどいのよ。こいつら、私のこと、胸がなくて寸胴な幼児体系だって」

「女の子にそれは酷いねえ。リアはまだ成長途中だっていうのに。誰か、そいつらを外に出しといておくれ。うちは騒動を起こす奴は出入り禁止だよ」

 女将さんの言葉に、入口らへんにいた数名の冒険者たちが、痺れた男たちを引きずり出す。ここでは女将さんの言葉は絶対だ。

「ご馳走さん」

「あ、コウ逃げるのね」

「食べ終わっただけだ。明日な」

 コウはやや小馬鹿にしたように鼻で笑った後、二階に上がっていく。腹が立つと思うと同時に、また明日という誰かとのする約束に、少しだけ心が揺れる。約束なんて、もう何年ぶりだろう。そもそも冒険者になる前だって、交わしたことは一度しかないというのに。

「……もう」

「ま、あれはコウなりに庇ったつもりなんじゃないかい?」

 女将さんがテーブルに定食とパンケーキのようなものを並べながら、私の顔を覗き込む。

「聞いてたの」

「あんだけ大きな声ならね。あんたたちは今までずっとソロで来たからね、それに対する勝手な憧れとか抱いてる子も多いからね。嫉妬されて、狙われて刺されたなんてことになったら、目も当てられないからね」

「そんなこと、あるの」

 確かに、ソロの冒険者というのは、他の冒険者や一般人からも人気があるのは知っている。孤高の存在だと勝手にその偶像を作り上げ、ファンがいるらしいことも。だからといって、ソロだった者がパーティーを組んだだけで刺されるなんて。考えただけでもゾッとする。しかしそう考えると、先ほどの男女二人パーティーだというだけで恋愛感情があるというのも、その一つなのかもしれない。

「男女二人パーティーなだけで、恋愛感情があると思うなんて」

「なんでも邪推したくなるもんさ。今までずっとソロで来た二人がパーティーを組むといえば」

「私たちはただ、A級へ上がるために仕方なく」

「分かってるよ。大体の冒険者なら、そんなことだろうなと思うさ。ただ、世の中そうじゃない人間もいるってことだよ。さっきの奴らみたいにね」

「うん」

「さ、そんなシケタ顔しないでお食べ。冷めちまうよ」

「はーい」

 日替わり定食のメインの肉を口に運ぶと、それだけで嫌な気分は吹き飛ぶようだった。何の肉だろうかと思いつつ、よく煮込まれた肉は嚙まなくても口の中でホロホロと溶けた。そしてその肉にはたっぷりとやや甘めのソースが絡まっており、パンにソースを染み込ませるとやや硬めのパンであってもすぐになくなってしまう。

「太ったのは、ここの食事が美味しいせいね、絶対」

 それが分かっていながらも、出されたデザートに手を付ける。そう、食べ物に罪はない。あとで運動でもすればいいだけだ。

 先ほどの硬いパンとは違い、卵をたっぷり使ったようなふわふわしたパンケーキには贅沢にもはちみつがたっぷりかかっている。そして甘さに飽きないようにか、その隣には果物がやや小さめに刻まれて乗っていた。

「んー」

 甘いパンケーキに果物を乗せて食べると、酸っぱさがアクセントとして加わり、何とも幸せを感じる。明日からの野宿生活を考えたくもないほど幸せだ。

 すっかり空になった皿を見つると、コウの座っていた席が目に入った。

「あれで庇ったつもりなんて」

 恋愛感情抜きでパーティーを組むことを、ここにいた奴らに言おうとしたんだとしても、もう少し言い方というものがあるだろう。もっとも、今までずっと一人でいたとするならば他人との接し方が分からないというもの、分からなくはない。私も、そんな一人だから。一緒にクエストをやってみないと分からないが、今はひとまず下手なパーティーに入らなくて良かっただけ、よしとしよう。

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