男女二人パーティーとは(前)
明日行けるクエストの内容を確認し、ちょうど二つ同時進行で行える冒険を見繕ってもらった。一個は北の森に木に擬態するモンスターが出たとの情報があるため、そいつの確認と討伐。もう一個が北の森の奥地に自生する鴨跖草おうせきそうという青い花の採取だ。この花を乾燥させると、解熱作用などがあり、薬師が個人で依頼を出しているらしい。北の森の奥地までは、だいたい徒歩で三日はかかる。討伐と採取、往復の時間を考えても最低一週間だ。まずそこ必須なのが食糧と、回復アイテムのポーションだろう。前回のクエストが拍子抜けでたった一日で終わってしまったため、ポーションはかなり余裕がある。
「ん-、食糧って一人の時と同じ計算でいいのかしら」
食材を取り扱う店屋の前で、私は自分の所持しているアイテムを確認した。金貨10枚という、安宿なら一年以上泊まれるお金を出して購入した指輪には、亜空間魔法が組み込まれている。この中には約五十くらいの種類の物が収納できるようになっている。これでも、クエストをこなす代わりに値引いてもらってこの値段なのだ。王都などでは、この倍近い額がするらしい。
今、この中には使わない装備や回復アイテム、換金前の素材の他に必須の食材が入っている。とは言っても、ほぼ携帯食のみで固いものや味気ないものばかりだ。基本的に自分一人だったので、料理をするという頭がなかった。街にいる時は宿に長期宿泊契約を結んでいるので、食事は全てこそで済ませてしまうし。
「亜空間の中に入れてしまえば腐ることはないけど」
ないけど、料理したことのない私に何が出来るだろうか。そう考えて、それ以上考えるのがめんどくさくなってきた。どうせ即席のパーティーなのだ。もしかしたら、これ一回きりで解散するかもしれない相手に何を気遣う必要があるのだろうか。そう考えなおし、いつも通りの干し肉と酒、そしてそのまま食べれる果物と野菜をほんの少しだけ多めに買い、私はいつもの宿屋に向かった
「なんで、ここにいるの、あんた」
「は? 何言ってんだ、お前」
宿屋は一階が食堂、二階が客室となっている。宿泊客は皆冒険者たちで、そのほとんどが長期契約を結んでいる。冒険者はよほどのことがない限り、自分の登録した街を拠点に活動するためだ。レベルとランクが安定すると、一定額稼げるようになるため宿住まいになる冒険者たちは多い。大きな中の良いパーティーになると、共同で家を買ったりもするらしいが。
私はC級になった頃から、この涼月亭という宿と長期契約を結んだのだ。そこに先ほど別れたばかりのコウがいる。
「何って、なんでここにいるのってことよ」
コウのいる一番奥のテーブルに近づくと、コウも今来たばかりなのか、まだ食事は運ばれて来ていない。
「俺は元々この宿だ。お前こそ、俺に興味でもあるのか」
コウがやや鼻で笑う。
「自惚れるなら、鏡見た方がいいわよ。私もこの宿だから聞いたに決まってるでしょ」
「……知ってる……」
「え、今何て言ったの?」
夕食時の食堂内の騒がしさに、コウの呟くような小さな声はかき消されてしまった。
「リアじゃないか、お帰り。今回は早かったねー。食事はいつもの日替わりでいいかい?」
コウの食事を運んできた女将が、私に声をかけてきた。歳は50くらいだろうか。この宿屋を切り盛りする、元冒険者だ。そのため、冒険者の扱いもうまく、とても人気の宿屋でもある。何よりここの食事は量が多く、とても安いのだ。
「ただいまー。今日も日替わりでお願いするわ。ここは何を食べても美味しいもの」
「大将に言っておくよ」
「うふふ。ありがとう」
「席が満席だから、相席でも構わないかい?」
「ええ、もちろん」
「コウ、悪いんだけど、この子と一緒でもいいかい?」
食堂を見回した後、女将がこんな風に下から頼むということはやっぱり気難しいということなのかな。
「いいわよ、どうせ、今日パーティーを組んだんだし」
「おい、お前が言うなよ」
「何よ。別に本当のことだから、いいでしょ」
「なんだい、あんたたち、とうとうパーティーを組んだのかい。それはおめでたいね。お祝い出さないと」
「やだ、女将さん、ただパーティーを組んだだけよ。お祝いなんて、そんな大袈裟よ」
「そんなことないさ。あたしゃねぇ、ソロでどんどん強くなっていくあんた達のことが心配で仕方なかったんだから」
「そんなにソロってダメかしら」
「ソロなんて、命がいくつあっても足りやしないよ。パーティーを組んでたって、どうしようもなく死んでいく子たちがいるんだから」
女将さんはこの宿屋で、何人もの死んでゆく冒険者たちを見送って来たのだろう。ただの客と店主でしかなくても、長期契約を結ぶ冒険者たちはこの宿を信頼しており、慕っている。だからこそなのかもしれない。
「うん、そうだね。ありがとう」
「さあ、すぐ持ってくるから座っておくれ」
促されるまま、コウの向かいの席に座る。
「勝手に言って悪かったわね」
「いや……いい。俺が言いたかったのは、そこではないから」
少し私の顔を見た後、コウは出された食事に手を付けた。