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聞いていない

 冒険者になるには、銀貨1枚の保証金が払え、前科がなければ誰でもなることが出来る。しかし等級を上げるとなると、いくつかの制限が出てくる。登録すると一番初めは誰もがFランクから開始しとなり、その等級のクエストをこなしつつレベルを上げ、ギルドの信頼を得ることでランクが上がる仕組みだ。


 そのため弱い冒険者は、いつまで経ってもFランクのままという具合だ。ただそれでも、超えれない等級の壁がある。まず、差し迫って今にある問題がここだ。


「ねぇ、どういうことなの? 私がA級にはなれないって」

「あのですねー、それはさっきから何度も説明させていただいているんですが……」

「だから、それが意味わかんないから、何度も聞いてるんでしょ」


 ギルドの受付のカウンターを乗り越えんばかりの勢いで迫る。まさかA級になるのにも、条件があるなど思ってもみなかった。12歳で家から逃げ出し冒険者になって、すでに3年ソロでこのB級まで昇りつめたというのに。


「B級ランクのクエストを、規定通りすでに20以上こなしたのよ。レベルだってちゃんと50あるわ。なのに、今更なんだっていうのよ」

「えっと、リアさん……冒険者になったばかりの時にギルド職員から説明を受けていませんでしたか?」


 対応している受付嬢はやや涙目になりながら、私に説明書を取り出し説明をしている。入社したばかりの彼女には申し訳ないとは思うが、そんな説明を聞くのは今日が初めてなのだ。


「聞いてないから、こんなにキレてるんでしょ。なんでそんな重要なこと、今更言うのよ」

「でも、規則は規則なわけで、わたしに怒られても」

「別に怒ってないでしょ。不備があったんだから、そっちでなんとかしなさいよ」

「前任者の説明不足で、リアさんにはご迷惑をおかけして申し訳ありません。一から説明させていただくと、A級へランクアップするにはB級のパーティーにて20以上のクエストをこなす必要があり、A級になった後もパーティーでの冒険が必須となっております。またその後S級申請をなさる場合には、誰かS級冒険者からの推薦、または、貴族以上の方からの身分保障が必要となります」


 カウンターに肘を付き、頭を抱える。今までソロでクエストをこなして来たため、パーティーでの戦闘など全く分からない。それに何より、人付き合いが苦手なのだ。昔、駆け出しの頃パーティーに参加したことがあるのだが、過去のことを根掘り葉掘り聞かれいい気はしなかった。それ以来、ソロを貫いてきている。


 大体どうにかしてA級にこじつけたとしても、私にはS級になるのは無理ということか。S級なんてこの世界に数人しかいない上に、常にどこかのクエストへ出かけているため出会えることが奇跡に近い。その上、見も知らぬ人間の推薦を行うようなことはしないだろう。また貴族からの推薦なんて、冒険者以上の身分を持たない私には、話にならない難条件だ。


「あのぅ……それでと言ってはおかしいのですが、お詫びとしてギルドから一人リアさんへご紹介させていただけないでしょうか」

「は?」

「で、ですので、リアさんと同じB級冒険者の方がお一人いらっしゃいまして、その方とパーティーを組んでクエストをこなすというのはいかかでしょう?」


 両手を胸の前で首、小首を傾げながら尋ねてくる。これが男相手ならば、とても効果的なのだろうなと考えながらため息をついた。しかしこの件が、彼女のせいではないというのも分かってはいる。そしてごねたところで、どうにもならないことも。


「あの、今ちょうど控室にてギルド長と面談されているんです」

「私みたいに、聞いてないとごねてるの間違いじゃなくて?」

「あ、えっと、その」

「でも、つまりはそういうことでしょ」


 どうやら図星のようだ。前までいたギルドの受付が、あまりに不愛想で感じの悪いおばちゃんだとは思っていたが、他にも被害者がいるのか。しかもギルド長自ら相手をしているとなると、私なんかよりよっぽど気性が荒いか何かだろう。


「その方もずっとソロで来ていたので、きっとリアさんと仲良くなれると思うんです」

「ソロ同士、くっつけと」

「そういう意味じゃなくて、えっと、信念が一緒というか」


 どんな信念だと口から出そうになるのを、必死に留める。どのみちこれ以上、彼女に言ったところで何の解決にもならないなら、ギルド長に会って直接文句を言う方が早い。それに先ほどから、まるで猛獣でも見るような他の冒険者たちの視線が痛い。


「いいわ。一回会ってから確かめるから、私もギルド長のとこに案内してちょうだい」

「はい、リアさん」


 先ほどの泣き顔が嘘のように、満面の笑みを受けべカウンターを開けて中へ私を引き入れた。


「……ウソ泣きだったんじゃないの」

「え、リアさん、何か言いましたー?」

「何でもないわよ」


 こんなガラの悪い冒険者ギルドの受付に、ずいぶん若くか弱そうな子が入ったもんだと思っていたのだが撤回した方がいいだろう。案外、この子はこの仕事に向いているかもしれない。私の大きなため息など気にする風もなく、彼女はぐんぐん奥へと進んでいった。

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