あるAランク冒険者たち
短編予定の作品が予定よりボリューム出たので、長編で出すことにしました。
「ちょっと、とっとと倒せっつったでしょ、コウ」
「あ? リア、俺はちゃんとドラゴンの足止めしとけって言っただろ。そんな簡単な魔法ことも出来ないのかよ」
「はぁ? あんた、魔法がどんだけ大変か分かんないからそんなアホみたいなこと言えるんでしょ。剣しか使えないアホはとっとと倒しなさいよ」
「んだと、誰がアホだ。アホアホ、連呼しやがって。こっちは必死にやってるってのに」
いがみ合いながら、攻撃を加える先にはこの世界で最高クラスの一つであるドラゴンがいる。しゃべりながら、ある意味余裕を持って攻撃を加える私たちに、ドラゴンはかなり怒り心頭のようだ。
攻撃を受けながらもドラゴンは、激しく頭を振り暴れている。もちろんそんなこと、私たちは気にするつもりもないのだが。
ドラゴンは私の守護魔法でブレスがすでに無効化し、更に追い打ちをかけるようにストップの魔法で足がほぼ動かない状況だ。それを相方のコウが剣で切り付けている。
ただ、足止めをしたと言っても、首を左右に動かしドラゴンは私たち物理攻撃をしかけてきているのだ。ストップがいくら有効な魔法だとはいえ、万能ではない。こんな大きなドラゴンには全身を痺れさせるパラライなども効果がなく、ストップで足止めするのが精一杯だ。
「それにしても、コイツ、硬すぎんだろ」
「全然、そいつ体力減ってなさそうね」
「あー、イライラする」
全身を硬い鱗で覆われているドラゴンは、そもそも剣が通りにくい。コウの持つ大剣は黒曜石から作られている特注品なのだが。コウがドラゴンが首を振る度に懐に入り、急所である首の付け根に切り込んでいるものの、いつもの三分の一ほどしかダメージを与えられていないようだ。
「長期戦になると、私たちが不利よ」
「んなこと、お前に言われなくても分かってるつーの」
「分かってるって、じゃあどうするのよ」
「ああ? 頭使うのはお前の仕事だろ」
「そうね、あんた脳みそないもんね」
「何か言ったか」
「口より手を動かす」
「やってんだろ」
私たちはたった二人のA級パーティーだ。A級と言えば、冒険者としてはS級に次ぐ二番目のランクにあたる。これだけ聞くと、クエストなど簡単に終わらせそうに思えるだろう。
ただ問題は、私たちが攻撃特化型パーティーで回復役も盾役もいないというところだ。普通の冒険者ならば、こんな組み方はしない。大抵、前衛を任せる剣士、攻撃を防ぐタンク、後援をする魔法使いに、回復役の僧侶、あとは罠を解除する盗賊を入れるか、弓使いなどリーチのある者を入れるか。大体どこのパーティーも5人というところが多い。
しかし私たちはずっと二人パーティーでここまで来た。今更このスタイルを変えるのは簡単なことではないだろう。
「コウ、このままだと埒が明かないから一回ストップ解いて、剣に強化かけるわ」
このままズルズルいっても、私の魔力が先に尽きるだけ。それならばいっそ、コウの剣に強化をかけて、攻撃呪文を使う方が効率がいいだろう。
「な、ちょっと待て、リア」
コウの返事を聞く前に、私はストップの呪文を解除する。この呪文の欠点は、術者が動けないことに加え、他の魔法が使えないのだ。
「待てって、何よ」
次の呪文を唱えようとした時、ドラゴンと目が合った。知能の高いドラゴンは私の言葉を理解していたかのように、呪文の解除を待っていたとばかりに一気に私に向かって突っ込んでくる。
「嘘でしょ」
「リアー!」
叫びにも近いコウの声が聞こえる。しかし、咄嗟のことで体が動かない。
まずい、この距離では避けられない。そう思った瞬間、ドラゴンの上にジャンプするコウの姿が見えた。
「どこ行こうとしてんだ、てめーの相手は俺だろうが」
コウの剣がドラゴンの頭に突き刺さる。
「アイシクルランス」
詠唱の短い氷の槍を、痛みで大きく開いたドラゴンの口の中を目掛けて放つ。そしてそのまま後ろに飛び、ドラゴンとの距離を取ると、すぐにコウの剣へ強化呪文を唱えた。
「いい加減、諦めろ」
ドラゴンに刺さった剣を抜くと、そのまま首の付け根に剣を振るう。強化されコウの全体重をかけた剣は鱗をものともせず、ドラゴンの首と胴を真っ二つに分けた。
「うわ、真っ二つ。グロイわぁ。って、これ、こんなデカいのどうやって持って帰んの」
「おい。なんであのタイミングで、勝手に魔法を解くんだ。一歩間違えれば、今頃お前がこうなってたんだぞ」
肩で息をしながらコウは近づいて来たかと思うと、私の手首を取る。
「な、何よ。ちゃんと見計らって攻撃したじゃない。それに、あのままストップをかけ続けたところで、時間の無駄でしょ。それより、離して」
私の文句など全く意に反す様子もなく、コウは掴んだ手首をコウは見つめていた。そして何か少し考えた後、私が付けていた長いグローブを取り去る。
「ちょっと、何すんのよ」
「やっぱり、火傷してるじゃねーか。ずっとおかしいと思ったんだ、いつもより集中力が落ちてるから。なんで俺にかけるより先に、自分にブレスから身を守る守護魔法をかけなかったんだ。馬鹿か、お前は」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは。あんたより、私の方が耐性も防御力も強いのよ。私だからこれぐらいで済んだだけで、あんたが魔法をかける前にブレスを食らってたら、剣も握れなくなってたわよ」
ドラゴンと戦い始めた時、魔法が完成する前にブレス攻撃を受けたのだ。私はとっさにコウには魔法をかけれたものの、自分の分が間に合わなかったのである。グローブを取った指の先は、かすかに黒く焦げている。
途中からあまりに痛すぎて指先の感覚がないとは思っていたが、魔法で強化されたこのグローブがなかったら、指は落ちていたかもしれない。
だからと言って、助けてもらっておいて馬鹿呼ばわりはないだろう。コウが攻撃できなくなれば、ドラゴン攻略は無理だと判断した上で、コウに魔法をかけたというのに。
「ま・た・跡が残ったらどうするんだ」
「馬鹿ね。冒険者なんだから、どうもしないわよ」
「そういうことを俺は言ってるんじゃねーだろ」
「じゃ、どういうことだっていうのよ」
「チッ……とにかくこれを片付けてギルドに戻って回復してもらうぞ。とにかく、これは俺が片付けるからそこで見てろ、馬鹿」
「もう馬鹿はどっちよ……」
そう言ってコウは手を離すと、ドラゴンの解体を始めた。私に背を向け、ドラゴンを解体するコウはそれ以上何も言わなかったものの、纏う空気が苛立っているのが手に取るように分かった。
冒険者ならば、どんな時も危険と怪我と死は隣り合わせだ。それなのにコウは過保護と言ってもいいほど、私の怪我にはうるさい。きっと未だに、パーティーを組んだばかりのトラウマを引きずっているのだろう。コウのせいではないと、あれほど言い聞かせたのに。