魔王になる 後編
俺は狼男の話で、魔王になりメチャメチャ強くなった自分を想像したが、すぐ我に返った・・・目の前には膝間付く狼男・・・
「あなた様は、魔王になる事がどう言う事か、まだ理解出来てないでしょう・・・」
「当たり前だ!理解出来ねぇよ!」
「魔王になると言う事は、魔界にいる100億の住人の頂点に君臨するのです!」
「ひゃ・・100億もいるの魔物が・・・・」
「そうです!そして、その100億の魔物があなた様に仕えるのです!あなた様の為に生きるのです」
『・・・俺の為に生きるのか・・・』
狼男の言葉で、また俺がその気になってくると、更に
「魔界は今、主を失い混乱しています・・・あなた様が魔王になり、存分に力を発揮すれば良いのです・・・大魔王ペクペク様のように・・・あなた様は魔王になるために生まれて来たのです・・・」
「・・またペクペクか・・・どんな奴か知らねぇけど・・・そんなに凄かったのか・・」
「ペクペク様は偉大なお方でした・・・極悪非道な方で、人間共を手当たり次第にぶっ殺し大量虐殺、幾つもの国を滅ぼし人類を滅亡寸前まで追い詰めたのです。まさに、魔王の中の魔王でした。」
「・・ハハハ・・めっちゃ悪い奴だったんだ・・・俺には無理だな・・・俺、平和主義者なんで・・」
「平和主義・・それは力のない者が言うのです・・弱いから平和である事を願うのです・・・魔王になって有り余る力を手にすれば、平和なんて考えもしなくなります・・・自分の力を試したくなる・・・力を使いたくなるのです!」
「俺には無理だ!」
俺は魔王になる事を諦めた。と言うか、最初からそんな気は無かったが、狼男の言葉で少しその気になっただけ・・・しかし、狼男は諦めが悪かった
「あなた様は、魔王継承順位101位から1位になったのです。これは、奇跡を通り越して運命なのです!魔王になるのです!魔王になってあなた様が平和主義者だと言うのならば、そうすれば良いのです。」
「平和主義者の魔王って、変じゃねぇか?」
「そんな事はありません!魔王は何をするのも自由なのです!誰も逆らう事は出来ません!好きな事を好きなだけ、すれば良いのです!」
「・・・何をするのも自由か・・・愛人を作っても平気なわけ・・・」
「勿論!千人でも二千人でも好きなだけ作れます」
「俺・・魔王になる!」
俺は魔王になる事に決めた!
狼男は、ほっと息を付いて
「当然の事です・・・魔王になるのを断る者など、この世にいないのですから・・・」
やれやれと言う表情を浮かべた狼男は
「では、魔界に参りましょう」
と言って、俺の手を取り魔界へと飛びだった・・・
時空を飛び越え、あっという間に、魔王城の玉座の前に降り立った。
そこにはまだ、宴の料理は勿論、継承順位100位までの魔物の死体と魔王の死体が生々しく残っていた
山のような死体と静けさ・・・俺は、恐怖を感じて体が震えてくる・・・魔物達は皆、2メートルを越える大柄で、恐ろしい顔・・名前からは想像出来ない程の怪物揃いだった・・・
「と・・飛んでもねぇ所に来ちまった・・・」
俺は、狼男が何処にいるのかキョロキョロ探すと、なにやら、魔物の死体をゴソゴソしている・・・・俺の所にやって来た・・・手に三種の悪器を持って
「持って参りました!脱ぎたてホカホカです!」
「・・・・・」
俺は目を閉じ、呼吸を整えた・・・
・・・まず、靴下を1つ手に取り履いてみた・・・これと言った変化もなく、もう片方・・・
もう片方を履いた瞬間、体中に電気が走った!
『・・かっ・体が軽い・・・宙に浮く様に軽く感じる・・・』
自分の体の変化を感じた俺は、すぐに魔王のパンツを手に取り、自分のパンツを脱ぎ捨て履き替える!
「ぬおぉぉぉ~~・むあぁーっ!・・」
体の芯から湧き出る力を感じ、思わず声が出た・・俺の体から溢れ出る力が風となって吹き上がり、体を包み込む!
湧き出る力、みなぎる力を感じつつ、マスクに手を伸ばす・・・
『・・・このマスクを付けたら、俺はどうなる・・まだ強くなるのか・・・』
期待が膨らむ・・・
マスクを付け、息を思いっきり吸い込んだ!
『うおぉぉ・・・・熱い・・体が熱い・・何だこの燃え上がる感覚・・・・アドレナリンで全身の血が沸騰しそうだ!・・・うおおおぉー・・熱い・・・闘魂!?・・・これが闘魂って奴なのか・・』
「ブチッ!ブチブチッ・・!」
『けっ・血管が、ぶちギレてる・・うおおおぉ・・かっ・体がでかくなって行くぞ!ぬがぁ!むおおぉぐあぁぁ~~!!!!!」
・・・・俺は生まれ変わった!
身長は2メートルを越え筋肉で盛り上がり、爪は長く鋭く尖り、大きな牙が生え、鋭い眼光・・背中や肩にトゲの様な出っ張りができ、赤黒い体に変わっていた・・・
軽い身体に溢れる力、沸き上がって来る闘志を抑えきれない・・・
『・・この力・・負ける気がしねぇ・・俺を倒せる奴は褒めてやる・・・俺より強い奴は何処だ!』
「ご立派になられましたなっ!ペコペコ様!」
狼男が膝間付き、笑顔を見せていた・・・
「まさか、人間の俺がここまで変わるとは・・」
自分の変わり様に驚く俺に
「人間は簡単に魔物に変わるのですよ・・・」
狼男の一言・・・俺は素直に頷いた・・・
「・・・で、どうです?平和主義者になれそうですか・・・」
「無理だな!暴れ回りたくて仕方ねぇ・・取り敢えず前魔王の敵討ちだ!何処の勇者か知ってるか?」
「ハイドランドです!魔物を集めますか?」
「いらねぇ・・・俺一人でハイドランドを滅ぼす!皆殺しにしてやる!」
狼男は膝間付いたまま、頭を下げ了解した・・・
俺は力を入れ握った拳を見つめ
「戦争を始めるって・・・最高の気分だな・・」
俺は最高の気分になっていた・・・人間だった俺が空を見上げ、平和を感じていた頃とは比べ物にならない程に・・・・
(終わり)




