魔王になる 前編
春の心地よい光の中。芝生に寝転び気持ちよく日光浴・・・空に浮かぶ雲をぼーっと眺めていた。
『平和だなぁ・・・最高の気分だよ・・』
そんな俺を上から覗き込む人影・・・
『ん?知り合い・・・』
上体を起こしよく見ると、その人影は、さっと後ろに下がり膝間付いた。
「あなた様をお迎えに参りました。」
「はぁ?・・・」
迎えに来たと言うこの男・・・男と言うか・・多分男なんだろう。しかし、とても人間には思えない。狼の顔にピエロの格好・・着ぐるみにしては体の線が細い・・・
俺は夢でも見てるのか、周りはこの目立つ格好の男に、どんな反応をしているのか目を擦りながら辺りを見渡した・・・
「夢じゃないですよ。それに、周りの人間に私は見えません。」
ピエロ姿の狼男は、膝間付いてそう話した・・・
変な格好に変な事を言う奴だが、別に危害を加える気は無さそうだと思い、話に付き合って見る事にした。
「・・・俺を迎えに来たって、何処に連れて行く気なんだ・・・」
「魔界です!あなた様を魔界にお連れし魔王になって戴きたいのです!」
真剣な顔でそう答えた。
『やばっ!・・・絶対ヤバイ奴だ!・・・相手にするの辞めとこ・・・』
俺は欠伸をして、眠たそうに横になり、狸寝入りをかます事にした・・
ピエロ姿の狼男は、俺の背中に話し掛けてくる
「あなた様は魔王継承順位101位だったのです。」
俺は眠った振りをして頭の中で
『・・・いやいや、俺は人間だし・・・大体、継承順位101位って継承出来ないでしょう・・普通・・』
と思っていると
「魔界で大変な不幸があったのです・・・」
と話してくる・・・
「・・・先日、魔王在位100年を記念して宴が催されました。魔王様は継承順位100位までの者を全員城に招き、ご馳走を振る舞ったのですが、そこで起きてしまったのです・・・」
俺は寝た振りをしながら聞き耳を立てた・・・
「・・継承順位2位のセコセコが、1位である魔王の息子モコモコを殺してしまいました。それを合図に招かれた者達が、一斉に魔王を倒そうと立ち上がったのです・・クーデターが起きて仕舞いました」
その話を聞いて俺は
『それで魔王が殺されたのか・・・』
と思ったが、ピエロ姿の狼男は
「魔王様は、99人の魔物を相手に壮絶な死闘を繰り広げ、魔王の力を存分に発揮し、見事に99人の壁をぶち破りました・・・」
「・・・なんか聞いたことあるフレーズだな・・・でも、それなら魔王は生きてるって事じゃん。」
と言いながら俺は狼男に体を向けた。すると、狼男の顔が段々怒りに満ちて行き、憎しみを込めて話し出す・・・
「アイツらが来たんですよ・・・あの薄汚い人間共・・恥知らずの勇者が!」
狼男の顔に、怒りと憎しみが増して行く・・
「・・勇者はあろうことか、息子を失い継承者達の裏切り・・・激闘で傷付き失意のどん底で座り込む魔王様の背後から忍び寄り、小声で
『我は勇者なり、我ら聖剣の刃で闇と共に消え去れ!』
と言って背中を突き刺し、続いて仲間の3人が一斉に聖剣を突き立てた・・・・・魔王様はあっけなく殺されてしまいました・・・人間共は
『魔王なんか大したことない!魔王よわっちぃー』
と言って、薄ら笑いを浮かべ帰って行きやがった!本来なら、とても太刀打ちできる相手じゃ無いのに・・・」
悔しさを滲ませ、俺をじっと見つめる狼男は
「魔王を失い魔界は荒れ放題・・・あなた様に来ていただき魔界を治めて戴きたいのです!」
「・・いやいや。俺、ただの人間だから・・魔界を治めるなんて無理・・・大体、なぜ魔王継承順位に俺が入るわけ・・・人間だぜ・・・俺・・」
俺はこの変な話を、そろそろ切り上げたくなった。
「人間には悪魔の血が入っているのです・・・そして貴方には魔王の高貴な血が、正統な魔王継承権を持つ者なのです!」
「はぁ?人間に悪魔の血!なんか信じらんねぇ・・もう、話すの止める!俺は眠りたいから誰か他の人をあたってくれ・・・」
狼男に背中を向けて、寝る事にした・・・
狼男も話すのを辞め静かになった・・・
しばらくして、もう何処かに行ったと思い目を開けると、すぐ目の前に狼の顔!
「うわぁっ!」
思わず声を上げ、のけ反る俺に、狼男は
「今、あなた様は継承順位1位なのです!」
と言って目の前に顔を近付ける・・・
『こ・・こいつ・・しつこく付きまとう気だ!』
と思った俺は
「継承順位1位って、俺の親父はどうなってるんだ!まだ、生きてんだぞ!なぜ俺なんだ!」
このピエロ男を言い負かし、自分から帰らせてやる事にした。
「魔王継承権は独身の男子のみに与えられるのです。」
狼男はそう答えた・・・
「はっ!そうかい!じゃあ人間の俺が魔界に行って魔王になったら、魔物達は喜ぶと思うか!人間だぞ俺は・・・」
「あなた様は、7代目大魔王ペクペク様の血統を受け継いでおります。魔界の住人は大歓迎であなたを受け入れるでしょう。」
「大歓迎の前に、なんだその大魔王ペクペクって!名前弱すぎだっつうの!さっきだって、セコセコにモコモコだろ!パンダじゃねぇんだし、センス無さ過ぎだろ!俺の名前もあんのか?あるなら言ってみろ!」
「あなた様の名前は、ペコペコです。」
「はぁーっ、ペコペコってかぁ!そのペコってのは腹ペコのペコか、それともペコペコ頭を下げるペコかどっちだ!」
「ペコペコのペは大魔王ペクペクの血統を示すぺでコは正統を意味します。そして、同じ名前を重ねるのは王族のみに許される高貴な証。魔物からすれば憧れの名前なのです」
「ペコペコが憧れの名前だとぉ・・・」
このピエロ・・・よくもまぁ・・いい加減な事を次から次と・・・
「いいか!よく聞けよ!俺は人間だ!そして人間の中でもメチャメチャ弱いんだ!魔王になんてなれるわけないだろ!さっさと帰れ!」
帰れと言われても、全くその気のないピエロ
「あなた様がどれだけ弱くても、魔王になれば強くなれます。しかも、もの凄く強く・・・」
「ホ・ホントか!・・どうやって、強くなんだ!」
俺はちょっと知りたくなってきた・・・
「魔王になれば、三種の悪器を受け継ぐ事が出来るからです」
「三種の悪器・・・盾とか剣の事か?」
「ちょっと違います。三種の悪器とは魔王のマスクと魔王の靴下、そして魔王のパンツの事です。」
「なっ・・マジかよ・・・趣味わる・・・それって三種類の悪臭じゃん!」
「三種の悪器には、歴代魔王の力が染み込んでいて、身に付ければ凄まじい力を得ることが出来るのです」
「・・・めっちゃ臭そうなんだけど・・・」
「更に、あなた様は大魔王ペクペク様の血を受け継いでおります。ペクペク様は、三大魔王の一人に数えられる偉大なお方。その血筋が、あなた様を更にパワーアップさせてくれるでしょう。」
「うーむ・・・」
・・俺は狼男の話に乗せられたのか、メチャメチャ強くなった自分を想像していた・・・。




