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ラーディオヌの秘宝  作者: 一桃 亜季
8/39

二重人格

偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」


シリーズの5作目になります。

 変化は少しずつ起りつつあった。

 少しずつだが確実に、リンフィーナの中に変化が起きて、彼女に小さな違和感を与える。


 リンフィーナの中に住まい始めた魔女と言われる少女ソフィアとの共存はもうしっかりと始まっていた。

 ソフィアは表立って現れることはしなかったが、リンフィーナの中で一人愚痴めいたことをつぶやく。


 せっかく目覚めたというのに、サナレスが側に居ない。

 どういうことか気に入ってしまった金髪碧眼の青年を、確かに彼女は助けたはずだった。魂は闇を抜け、肉体の元へ帰ったはずだ。


 それなのに、サナレスが側に居ないばかりか、ラン・シールドの総帥の見立てでは、肉体が捕らわれ、魂が戻っていない可能性すらある。


 あいつは、何処へいったのだ。

 リンフィーナはサナレスの肉体の元へ行くことを決めていたが、ソフィアもまた一刻も早く肉体を開放しに向かいたいと思っていた。


 身体がリンフィーナの意識に支配されている以上、不自由なことに出る幕がないばかりか、サナレスの魂の気配を追うこともできなかった。

 地道士であるリンフィーナの力は微々たるもので、ソフィアとしては何ひとつ満足なことができない。

 これはなかなかのジレンマだった。


 私はサナレスに会いたい。

 純粋な願いは無残にも叶わず、リンフィーナの落胆と相まって、愚痴が出て来る。


 ウィンジンが出立するに至っても、その姉が反対し、説得に時間がかかりすぎた。ラン・シールドの力など借りずとも、自分が居ればサナレスを取り戻すことなど、訳なく出来るというのに、未だこの娘は自分が内包した力がどんなものなのかが判っていないのだ。


 なんとかしてリンフィーナに意思を伝えようとはするが、一番最初に、彼女の身体を自由に出来たことが、今は出来ない。

 ソフィアはその辺りの物を蹴り飛ばしたい気分だった。今日になってようやく、出立することができるまでは、ほんとうに心が穏やかではなかった。


 同行者はリンフィーナの双見のラディと、ウィンジンだった。ラン・シールドの兵を連れて行くことをユバスが提案したが、それはウインジンによって拒否された。


「双子でも、片方に能力があって、片方に能力がないなんて」

 ラーディア大陸から、イドゥス大陸へと続く街道タロスを歩きながら、リンフィーナはウインジンに不思議そうに言った。

「ユバスのことを言っているんだね? ユバスは生まれたときに能力が無くなるように、先代の総帥に術をかけられたからね」

「術を?」


 幼少のときに、わざわざ持っている能力が開花されないよう術を施されたという。

「ラン・シールド一族は、人間とはあまりにもかけ離れた能力者が多く、人の子からも、神の氏族からすら、受け入れられる存在ではなかった。特に先代の総帥の力は強く、その血縁はほとんどが強い能力者だった。魔女の母である、レイチェルリー・ラン・シールドも、総帥の血を濃くひいていて、だからこそラーディアから望まれて嫁ぐことになったが、彼女が生んだ娘が魔女となったことから、先代はユバスのことも危惧したそうだ」


「それじゃ本人の意思と関係なしに、能力を奪われたということですか?」

「それだけじゃない、姉は子供を持つこともできぬようにされた」

「ひどい……」

 リンフィーナが胸を痛める中で、ソフィアは今更そんな話を聞くことになるとは、と眉根を寄せた。


「レイチェルリーが余りにもむごい死に方をしたから、決断されたことだよ」

「どうなったの?」

「彼女は星を滅ぼす娘を産んだと予言され、娘を取り上げられた後に、狂い死にした」


 顔も見たことがない女が母で、その女がどのように死んだのかなど、ソフィアにはどうでもいいことだった。

 母というものがどういったものなのか、ソフィアは知らない。ただ気分がいい話ではなかった。

 リンフィーナは黙った。


「私はね、リンフィーナ。前の総帥が尊敬できる方だったから、彼が行ったことなら、仕方がなかったんだと思うことにした。ユバスを哀れと思ったこともあるが、能力というのはあればあるだけ、厄介だと思わないか?」

 水の中で、たった一人で神殿を護ってきたウィンジンの言葉には説得力があった。もし彼に強大な能力がなければ、その責務は彼の肩にはかからなかっただろう。


「天を支えているとき、能力を奪われたのが姉の方で、本当によかったと安堵しました。何千年、そうしていればいいのかと気が遠くなる思いだったから、姉にそんな思いをさせなくてよかったと」

 ソフィアにもウインジンの言おうとすることが理解できた。もし能力など無ければ、彼女も母と離別させられることもなく、一族の皇族として何不自由ない暮らしがあったのだろうか、と思う。


 そうした生活がまったく想像できないところにあっても、能力が無ければどうなっていたのかと、考えずには居られない。


「もうお体は大丈夫なのですか?」

 リンフィーナが聞くと、ウィンジンは微笑んだ。

「たしかに私にはもう何ほどの寿命も残っていないでしょうが、もう一度地上の空気を吸えるだけで、力が沸いてくる気がしますよ」

 リンフィーナはほっとしているようだった。


 だがソフィアには、ウィンジンが彼が言うほど回復しているようには思わなかった。

 彼から感じる生命力はごく僅かだった。


 もしソフィアがリンフィーナの意識を支配していたら、彼を同行させることを決して承諾したりはしなかっただろう。彼の身を案じてというよりは、シヴァールを相手するときに、足手まといになるという判断をしたはずだ。


 リンフィーナという娘は、何もかもが甘い少女だった。

 あのサナレスという男が、妹として彼女を育て、甘やかした結果がこれというわけか。

 今まで、情らしい情をかけられたこともない少女は、リンフィーナの甘さに毒づいてしまう。

 自分の身も自分で護れぬようなら、それはあまりにも頼りない命である。


 ――まあ心配ない。

 そのうち自分が彼女と入れ替わり、自分の肉体くらい護っていこうと思う。こんな甘い少女に任していては、せっかくの身体が幾つあっても足りないではないか。


 ソフィアは歩きつかれて痛んできた足をひきずりながら、ため息をついた。

 せめて空間を移動するぐらいやってくれそうなものを、と嘆きながら。

「ラーディオヌの秘宝8」:2020年10月25日

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