表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラーディオヌの秘宝  作者: 一桃 亜季
4/39

浮上

偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」


シリーズの5作目になります。


やっと「炎上舞台」完結したので、こちらのシリーズを始動させることができます。

「炎上舞台」前「ラーディオヌの秘宝」後、といった感じで、2作連結作品です。


お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 目が覚めたとき、リンフィーナの側にはウィンジンが居た。


「私達生きているのね?」

 寝台から半身を起こし、側にいてくれたラン・シールドの総帥に問いかける。ウィンジンは深くうなづいた。

「大丈夫ですか?」

 それはこちらが聞かなければならない台詞のはずだったが、ウインジンの自分を気遣う視線は真剣である。


「私、いったい……」

 まだ意識が混沌としていた。ラン・シールド一族が海底に沈もうとした正にそのとき、自分が何を行ったのか、果たしてそれが現実だったのか、思い出しはしても受け入れることは出来なかった。


「魔女が目覚めました」

 そんなリンフィーナに対して、教え諭すように、ウィンジンは話した。


「貴方の中に、銀の森の魔女が目覚めたのですよ」

 自覚があるだけに、伝えられた言葉にリンフィーナはびくりと震えた。


「銀の森の魔女?」

 確かにあのとき、神殿が崩れ行く中で、リンフィーナは自分ではない力と、自分ではない意識を感じていた。けれど、自分の中に、自分ではないものが目覚めるという感覚は、どうにも合点が行くものではない。


「私、どうなってしまったの?」

 不安に胸が締め付けられる中、リンフィーナは目の前の青年に救いを求める。

 誰かにこの状態を説明してもらわなければ、到底受け入れられない現実だ。


「私の中に、何がいるの?」

 早く答えが欲しくて、リンフィーナはウインジンの衣服の袖をつかんだ。そんな様子のリンフィーナに、ウインジンは落ち着くように言う。


「銀の森の魔女は、強大な魔道士です。昔ソフィア・レニスという星が滅び、今の大陸になったことは貴方もご存知でしょう? その星を滅ぼしたのが、彼女だと言われています」

「その魔女がどうして私の中に?」

 ウィンジンは首を振る。


「それを確かめられる相手は、私達一族ではなく、貴方の父、ラーディアのジウス様です。ただ私が知るところでは、その魔女は、うちの一族の血と、ラーディアの一族の血を引いていました。我々の先代の総帥の娘が、ラーディアに嫁ぎ、出産した娘だと聞いています」


 リンフィーナの気持ちをなだめるように、ウィンジンはゆっくりと言を次ぐ。


 しかしリンフィーナの鼓動は、あの時間を思い出しただけで高鳴るようだった。


 あれは、人の業では在り得なかった。あれは例え天道士といえど、行えるような所業ではなかった。海面を持ち上げ、地を割って大地を移動させた。そんなこと、人に出来るわけがない。

 恐ろしい怪物を抱え込んだ恐怖は、そう簡単に覚めるものではない。


 そもそもどうして自分に、という理不尽な思いが、リンフィーナの神経をとがらせていく。

「魔女がどういったものか、私達一族にもよく判らないのです。けれど貴方のおかげで、私達一族は今も生きているのです、リンフィーナ」

 ウィンジンは窓を開けた。そこから日の光が差し込んでくる。


 目を細めたリンフィーナは、その光でここがもう海底ではないのだと判った。

 やはり、夢ではなかったのだ。


「そのように悲痛な顔をするのは、もうお止めください。ラン・シールドは長年の呪縛が破られ、こうして浮上することが出来たのですから」

 すべては貴方が行ってくれたこと、という感謝の念が向けられる。確かに、海の底で滅亡するところだったラン・シールドの氏族が生存出来るのは喜ばしい。それでも自分とは何の関わりが、としか思えなかった。


「突然、地上に浮上して、近隣の人の子達は驚いているかしら?」

「いえ、神殿は人の目には触れぬように、結界を張って細工してあります。それくらいの力は、ラン・シールドの貴族にも残っているのですよ」

 リンフィーナは少し安堵の息をついた。


「しばらくは混乱を避けるために、身を潜めているつもりですが、貴方のおかげで私はお役御免ですね」

 ウィンジンが少し笑った。

 海底で水を支えるという重労働が無くなったウィンジンは、心なしか顔色が良くなっている。


「よかった……」

 偽りではなくそう思い、リンフィーナも少し笑うことが出来た。


「ラン・シールドの貴族達が、今会議を開いているのですが、私達は今後全面的に貴方を御守りする方向で動いています」

 会議の場をユバスが仕切り、重臣達を説得しているという話だった。

 礼を言うと、ウィンジンはユバスがそうすることを決めたのだと言った。


「貴方は我が一族を救った。この貢献に我々は応えなければなりません」

「救うだなんて……」

 正確に言えば、自分は救いたいと願っただけで、実際に目を見張るような力を使ったのは、自分ではない者だった。


「どうやら魔女は、あのままでは貴方を失うと思って力を発揮した」

 それは確かだった。ウィンジンの読みは間違いではない。

 面倒な時に目覚めてしまったと文句を言った魔女の意識を、リンフィーナは思い出すことができた。


「つまり貴方が危険でなければ、そうそう魔女も出てこないかもしれない、これがユバスの考えです」

「それは……」

 そうであってくれれば良いのだけれど。

 リンフィーナが口にしなかった言葉を察したウィンジンは、それでいいのだと言う笑みを浮かべた。


「そういうことにしておいた方がいいでしょう? もう一度姉から狙われるより」

 そしてまた、にっこりと笑う。

 どうやら自分が眠っている間に、彼が采配してくれたようだ。彼の優しさに目頭が熱くなった。


「それでは姫君、命の恩人の貴方に、私達一族はどう恩返しをしたらよろしいですか? まず手始めに、貴方の養育係と騒いでいた女性を、こちらに案内させていただきましたが」

 ウィンジンは茶目っ気たっぷりに片目をつぶり立ち上がると、部屋のドアを開いた。


「姫様!」

 扉の外には、今か今かと待っていたらしいラディが顔を見せた。彼女はドアが開くなり飛び込んできて、リンフィーナに駆け寄る。

「まったく、この方はどれほど心配をかけたら気が済むんです!?」

 リンフィーナの首にすがりつく。


「ごめんなさい、ラディ」

 彼女が抱きしめてくる力が強い分、リンフィーナは謝った。無鉄砲を絵に描いたところがあるリンフィーナは、こうして何度彼女に謝ったことだろう。

 リンフィーナが海中に姿を消してから、彼女は毎日船でリンフィーナを探し回り、ラン・シールドが海底より浮上するのを見つけたという。


「よくご無事で」

 その言葉は胸に響いた。

 自分でももう一度ラディに生きて会えるとは思えないくらい、もう駄目だと思っていたから。

「ありがとう、ラディをここへ連れて来てくれて」

 リンフィーナは改めてウィンジンに礼を言った。


 ラディの顔を見て人心地ついたリンフィーナは、これからのことに頭を巡らす。

 自分の出生を聞くために、ラーディアに戻りジウスを訪ねるという選択肢と、消息不明のサナレスを探すという選択肢があった。

 リンフィーナは迷わず、後者を選択する。


 サナレスさえ居てくれれば、リンフィーナの不安は拭い去れる気がしていた。例えば魔女が自分の中に住み着いたとしても、サナレスさえ居れば何とかなるのではないか。

 もしかすると兄であるサナレスは、リンフィーナの出生についても、何か知っているかもしれない。

 死んでいるかもしれないという懸念は今のリンフィーナにはなかった。なぜか兄が生きているという確信が生まれていた。

 そう思うと暢気に寝ていることなどできない。


「私、お兄様を探すわ」

 口にしたとき、何か胸の奥がくすぐったいような、気分になった。サナレスを探すという行為を、自分以外の誰かも後押しして喜んでいるような、そんな違和感を感じる。


『そうだ』

 肯定する声すら、聞こえたような気がした。

 しかしその奇妙な感覚も、ウィンジンの力強い言葉に遮断された。

「手を貸しましょう」

 驚いて彼を見ると、ウィンジンは優しい笑みを浮かべていた。

「ラーディオヌの秘宝4」:2020年10月23日

 感想、ブクマ、反応を励みに頑張っています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ