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ラーディオヌの秘宝  作者: 一桃 亜季
3/39

偽りの神々シリーズ


「炎上舞台」と「ラーディオヌの秘宝」は同時進行で進みます。


呪術を生業にして発展するラーディオヌ一族の総帥、アセス・アルス・ラーディオヌが魔道に落ちた。

変化していく心と気持ちが、彼の過去と歪みあって表面化していく。


残酷な描写が多いのでR15に指定しました。

         ※


 近頃、自分の中の魔物が水面下で動くのを感じるようになった。


 母を殺し、父を見送り、一族を背負ってからの彼は政務に忙しかった。十五歳のときから、政務こそが日常で、いかにラーディオヌ一族を繁栄させていくのか、その手腕のみが問われていた。


 心を惑わす母を殺し、しなければならないことだけを的確に実行する。忙しさに疲れはしたが、他の者がどう思っても、アセスにとっては平和だった。


 ただその状態は、長くは続かなかった。心の中にできた歪に、いつしか孤独は膿のように溜まり、彼の人格は形成もせぬままに壊れようとしていた。


 つかの間、二年前に出会ったラーディア一族の兄妹が彼を救ってくれてはいたが。


 永遠に続いて欲しいと思った関係も崩れるときは実に簡単だった。彼の壊れ掛けた心の支え、その兄妹すらも、もう自分の側に居ない。


 十五歳の頃の自分に戻ったのだと思えばよかった。母殺しを行った怪物である自分が、人の情に触れようとしたこと自体が土台無理な話だった。


 確かにひと時は自分も人を愛することを知った。リンフィーナという存在は、アセスにとってかけがえが無かった。しかし彼女とは普通の恋人同士の関係ではなく、強く依存していることを自覚していた。


 彼女が居なければ、生きていられない。

 失うくらいなら、死んだほうがいい。


 危険な想いが自らを支配していた。だからこそ彼女が刺客に狙われたとき、魔道士に身を落としても、彼女を失うことは出来なかった。


 しかし同時に、アセスは彼女の前でいる自分が他人を装っていることも知っていた。

 これは本来の自分じゃない、という後ろめたさが常に存在して、彼女に対し一歩距離を置いてきたのも確かだった。


 彼女には、母を殺したことも、その母と自分がどんなふうに過ごしてきたのかも、決して打ち明けることができなかった。

 軽蔑されること、恐れられることが怖かった。


 魔道士になってしまったとき、自分は一番に彼女と、彼女の兄を遠ざけた。

 リンフィーナとは婚約を解消するという形で、そしてサナレスのことは命を奪うという最悪の手段で。


 結局自分は、一歩踏み込んだ付き合いをしようとすると、息が苦しくなってしまうという柵から逃れられなかった。

 自分を偽るか、相手を拒絶するか、そんなことしか出来ない、クリスタルドールのままの自分がいる。


 魔道に手を染めたのは最近だったが、思えばもう昔から、自分の中には魔物が住んでいた。

 母の胸を突き刺し、苦悶に歪む彼女の顔を、最後の母の顔を、自分はなんて恍惚とした表情で見つめていたことだろう。


 何も変わらない。


 元の自分に戻っただけだ。


 それなのに時折、胸がつぶれそうになった。リンフィーナとサナレス、二人を失ってしまえば、すべてが元通りに戻るはずが、大きな誤算だった。


 食が喉を通らない。


 今、自分が生きているのかどうかすら疑わしい。


 ただ唯一の救いは、進むべき道が決まっていることだった。ラーディオヌ一族の総帥として生きることだけが、今となってはアセスが存続する意味だった。


 血が欲しい、と思う。


 この胸の苦しみと、喉の渇きは、あの日母を殺したときのように、人の血を浴びることで治すことができる気がした。

 自分自身の手で他者の命を絶つのは、快感ではなかったか?

 アセスは自分の掌を眺めた。



「ラーディオヌの秘宝3」:2020年10月20日

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