クリスタルドール
「封じられた魂」後編で続いています。
お付き合いよろしくお願いします。
2作で文庫本一冊くらいになる分量で書いています。
※
「どうしてあの者を処分してくださらないのです?」
非難めいた視線を向けて来る女性に、アセスは殊更優しそうな作り笑いをした。
「まだ子供ですから、作法が出来ていないのも私の責任です」
「アセス様は優しすぎますわ」
フェリシアのくだらない話に付き合いながら、既にアセスの堪忍袋の緒はぶっちりと切れてしまっている。
ある意味、その危機を察知して、素早く退出したナンスは賢明だった。
母に似ているというだけで辟易しているのに、こう煩くては、迷惑なだけである。
「許せませんわ。婚約者より、使用人を庇うなんて」
頭の中でアセスが、この女をどう始末するかと物騒なことを考えていると知らず、フェリシアはアセスとの距離を縮めた。
接近する豊満な体は、胸の豊かさを強調するドレスで覆われ、アセスの身体に押し付けられる。
「美しいお顔」
嫌な思いをさせられたのだから、機嫌をとれとでも言いたげな態度は、彼女の体の艶かしさから伝えられてくる。
「わたくし、初めてお目通りしたときから、お慕いしておりましたの」
そう言って彼女は、アセスの手を握る。そしてアセスの髪をなでる。
そのとき走馬灯のように、母との苦い思い出が甦ってきた。
「ラーディオヌの秘宝10」:2020年10月25日