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番外編5

「だだいま。……あれ?」


楓から早く着いたから先に入っていると連絡が来ていたけれど、仕事が終わり家に帰ると部屋は真っ暗だった。電気をつけると、テーブルに突っ伏して眠る姿があった。


「楓、こんな所で寝てたら風邪ひくよ。……?」


起こそうと近づくと、うなされているようで、涙が頬を伝っていた。


「ゆーちゃ………って……まって……」


うなされている楓の横に座り涙を拭う。

最近仕事が忙しくてしばらく会えていなかった。寂しい思いをさせているのは分かっていたけれど、実際に目にするともっと上手く時間を作れなかったのかと後悔した。


「楓、起きて?」

「ん……結ちゃん?」


肩を揺すって声をかけると、楓が目を覚ましてぼーっと私の事を見つめてきた。


「うん。ただいま」

「……?! 結ちゃん! 良かった……ちゃんと居た」


少しすると意識がはっきりしたのか泣き笑いのような顔をした。


「うなされてたけど……怖い夢でも見た?」


寝言から想像はつくけれど、知られたくないかもしれないから寝言のことは黙っておく。


「うん……。結ちゃんが遠くに行っちゃって、追いかけても距離が縮まらないの。夢でよかったぁ……」

「ちゃんと居るよ。寂しい思いさせてごめんね」

「ううん。お仕事だもん仕方ないってわかってる。だけど、今日はちゃんと構ってね?」


……うちの彼女可愛すぎませんか? 今日は素直だけどデレデレの日なの? ちょっと私の理性が心配です……


「もちろん。明日は休めるからのんびりしようね」

「やった! そういえば、結ちゃんの仕事モードって久しぶりに見たな……ちゃんと女の人に見えるね」

「……確かに普段着はメンズが多いけど、普段も女だからね?」


これは女子力の無さを嘆くべきか……? と考えていると、小さい声で楓が呟くのが聞こえた。


「仕事モードの結ちゃんもきれいでかっこいいけど、やっぱり普段の結ちゃんの方がいいなぁ……」


いや、楓がいいって言ってくれるなら問題ないな。別に楓以外から好かれたいわけじゃないし。聞こえないと思っていそうだから触れないでおこう。



「楓、ご飯食べてなかったらなにか作ろうか?」

「食べてきたから大丈夫。ありがとう。結ちゃんは?」

「私も会社で食べてきたよ」


「それなら、疲れただろうしお風呂入ってきたら?」

「そうだね。お風呂入ってきちゃおうかな。化粧落としたいし。……一緒に入る?」

「え?! いや、私は後でいいから、ゆっくり入ってきて!」

「そっか。少し待っててね」


付き合う前は楓からお風呂に誘ってきていたのに、付き合うようになったら警戒されるようになった。意識してもらえてると喜ぶべき……?



「お待たせ」

「……」

「楓?」


お風呂から出て楓の元に戻ると、無言で見つめられた。何か変だったかなと思い返すも特に思い浮かばない。


「やっぱりイケメンだなって再確認したところ」

「それはありがとう?」

「お風呂上がりの濡れ髪ってなんでこんなかっこいいんだろう? ね、こっち見ながら髪かきあげてみて?」

「こう?」

「……!!」


楓が悶絶しているのが面白くて笑っているとスマホを向けられた。


「ね、カメラに向かってもう1回やって?」

「やだよ」

「なんで~! いつも写真嫌いって撮らせてくれないじゃん?! それなら私の写真撮るのも禁止ね?」

「え?!」


私のスマホの中の写真で1番多いのは間違いなく楓の写真で、もはや趣味になっているのでこれから撮るのを禁止されるのは困る……

渋々OKすると、あれもこれも、と色々なポーズを要求され疲れ果てることになった。


「ふふふ、結ちゃんの写真がいっぱい」


楓がテーブルに置いたスマホを見ながらニヤニヤしている。本人ここにいるんだけどな……


「楓、写真の私の方がいいの?」

「え?! そんなことないけど……」

「どっちの私が好き?」


好きと言わせたくて写真と比べてみることにした。いつもなら恥ずかしがって言ってくれないけれど……


「それはもちろん、こっちの結ちゃんの方が……」

「こっちの私の方が?」


少し待ってみると楓の顔がみるみる赤くなって目が潤んでいくのが分かった。ここまでかな、と思って声をかけようとすると、キッと睨みつけられた。


「……好きっ! あー、もう、写真と比べるってなんなの?! 」


怒ってる姿も可愛い。自分で言わせたのにちょっと照れる。


「私も好きだよ」

「なっ?! あー、うぅ……お風呂入ってくるっ!!」


怒っている楓を抱き寄せて耳元で囁いてみたら、一瞬で怒りが羞恥に変わったのかあわあわしながら走って行った。なんか前も似たようなことがあった気がする。



ソファに座ってスマホを見ていると、お風呂上がりの楓がおずおずと隣に座ってきた。さっきのことを思い出したのかちょっと挙動不審なのが可愛らしい。


「おかえり。髪乾かさなかったの?私は短いからすぐ乾くけど楓はちゃんと乾かさないと」

「めんどくさいからいい」

「ダメだって。ほら、やってあげるからいくよ」


動きたがらない楓の手を引いて、脱衣所に置いてある椅子に座らせた。乾かし始めて少し経つと楓が指で目を擦った。


「眠い? もう少し起きててね」

「うん」


受け答えはちゃんとしているけれど、たまに頭がカクンッとなっては頑張って起きていようとしている楓にニヤニヤしてしまう。


「んぁっ……ゆーちゃ……くすぐったい」


乾かしている時に手が首筋に触れたのか、楓の声に艶が混じる。話し方まで幼くなってるし私は試されているのだろうか……?

変な思考回路になりつつ、この後同じ部屋で寝る事は考えないようにして無心で乾かし続けた。


うとうとしている楓に歯磨きをさせ、布団に寝かせると、すぐに丸くなって寝息を立て始めた。相変わらず羨ましいくらい寝つきがいい。頬にキスをして自分のベッドに横になった。



「……ちゃん、結ちゃん、おきてー!」

「……ん?」


背中をばしばし叩かれ、目を開けると目の前に楓の頭があった。……なんで頭?? どうやら楓を抱きしめて寝ていたらしい。時計を見ると、まだ起きるには早い時間だった。


「……え?!」


昨日はちゃんと別々に寝たはずなのに、何故楓を抱きしめて寝ていたのだろう……? 慌てて楓を離して周りを見ると、ちゃんと自分のベッドだった。寝ぼけて楓の布団に潜り込んだ訳では無いようで安心した。


「目が覚めて寝顔見てたんだけど、寝ぼけた結ちゃんに捕まっちゃって……苦しくて起こしちゃった」

「あー、それはごめん。一応聞くけど、何もしてないよね?」

「……うん」

「今の間は何?!」


え、何かしちゃった? ベッドに座っている楓を見て、服に乱れはないな、と確認していると、楓が髪をまとめてうなじをあらわにした。


「赤くなってる?」

「えっと……はい」


うなじには1箇所はっきりと赤い跡が付いていた。これはあれですよね。キスマークってやつ。犯人はもちろん私なわけで。何してるの私……


「首筋に顔を埋めてきた時にチクッとしたからついてると思った」

「うわ……ごめん!!」

「ううん、嫌じゃないし、むしろ嬉しい」


朝から可愛いな?! それにしても、最初につけたキスマークが寝ぼけてってどうなの……


「消えちゃったらまた付けてくれる?」

「いいの?! もちろん!!」

「結ちゃん必死すぎ」


楓に笑われたけれど、思わぬ申し出に即答したのは言うまでもない。


「まだ朝早いからもう1回寝ない?」


隣を示しながら聞いてみると、少し考えて隣に横になってくれた。今度は強く抱きしめないように気をつけて抱き寄せると、楓はしばらく落ち着きなくもぞもぞしていたけれど、いいポジションが見つかったのか満足気に眠りについた。

こうして一緒に寝るのが当たり前になればいいな、と思いながら私も目を閉じた。


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