番外編2
玲side
「玲さん、お待たせしました」
「お疲れ様。私もついさっき来たばかりよ」
2人と別れて、案内された席に座って菜月を待っていると、すぐに菜月が到着した。
「それなら良かったです。それにしても、玲さん何か楽しそう……?」
「そうかな? さっき結菜と会ってね」
「結菜さん……? 玲さんの部署の伊藤さんですか?」
すぐにはピンと来なかったみたいで、自信なさげに確認してくる。
「そう。菜月は会ったこと無かった?」
「仕事で数回お会いした程度ですね」
「これからは会うことが増えると思うわよ」
部署も違うし、今まで接点がなかったけれど、私が会社で話しかけるようになったことで結菜とは関わりが増えていくと思う。
食堂でのことを思い出したのか、菜月がちょっと複雑な表情になった。
「まずは注文しちゃいましょうか」
「そうですね。ここに来るのも久しぶりです。玲さんはこの前来たみたいですけれど」
「なに? 嫉妬してくれてるの?」
「……そんなんじゃないですけど」
結菜から話を聞き出した日、このお店を使った。
菜月に話したら久しぶりに来たいと言うので、今日はこのお店を選んだ。
「それで、伊藤さんに会ったから楽しそうにしてたんですか?」
注文し終えると、ちょっと不機嫌そうな顔をして菜月が聞いてきた。
「ごめんね、わざと伏せたのだけれど、結菜1人と会ったわけじゃないの」
「え、そうなんですか?」
「うん。嫉妬してくれるかなって思って」
まんまと嵌められた菜月は恥ずかしそうに下を向いた。
「……いじわる」
「そんな声出されるともっといじめたくなっちゃうって分かってる?」
「知りませんっ!」
「ここが家じゃないのが残念」
心底残念そうな私に危機感を抱いたのか、まだ赤い顔のまま続きを促してきた。
「それで、結局何が楽しかったんですか?」
「結菜が想いを寄せている子と一緒に来ていてね。姉としか思われていないって聞いていたけれど、反応を見るにそんな事無さそうだったわ」
「うわ……玲さん何したんですか」
菜月が気の毒そうに言うけれど、何もしていないわよ。……少ししか。
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菜月と待ち合わせをしているお店に到着すると、ちょうど人が出てくるところだった。
見れば結菜だったので声を掛けると、私に気づいてパッと笑顔を向けてきた。犬だったら尻尾を振っていそうね……
結菜の陰に隠れて気づかなかったけれど、小柄な女の子が一緒だった。結菜が嬉しそうにしているのが伝わっているのか、あからさまでは無いものの訝しげな視線を感じる。
結菜が犬とするなら、この子は警戒心剥き出しの猫みたいで、つい構いたくなる。嫌がられるだろうけれど。
きっとこの子が結菜の大事な子だと思って、少し話そうと入口から離れたところに2人を誘導した。
普通に移動すればいいのだけれど、様子を見たくて結菜の手を引くと、横から強い視線を感じた。
「どうしたんですか?」
「ね、好きな子ってあの子?」
「?!……はい」
話の内容が聞かれないように、彼女から少し離れ、あえて必要以上に距離を詰めて結菜に話しかけると、向けられる視線が更に強くなった気がした。
「楓ちゃんだったわよね?ちゃんとデートに誘えたのね。反応が可愛くてつい構いたくなっちゃう」
「ちょっ……! 楓に手出さないでくださいよ?!」
「菜月がいるし出さないわよ」
「どうだか。玲さん、天然タラシですからね……」
「ねえ、私の事なんだと思ってるの……?」
全く信用されてなくて悲しくなる。一応上司のはずなんだけどな。
「結菜の愛しい子が寂しがるからそろそろ戻りましょうか」
「いとっ……?!」
少し話してから楓ちゃんの方を見るとこちらを見ていて、目が合った。親しげにしている事に嫉妬しているように見えるし、気づいていないだけでこの子達両思いなんじゃ……?
「ほら、こっち見てるよ? その緩んだ顔何とかしないと怪しまれるわよ」
「え?! そんな緩んだ顔してます?」
「してる。ほら、早く行ってあげなさい」
結菜を促し、楓ちゃんの元に戻り自己紹介をした。
結菜が戻ってきてくれて嬉しいけど、なんか気に入らない、というような複雑な表情をしている。
私に対しては、あえてそう見えるように誘導したところもあるけれど、最初よりも警戒されていた。
私には恋人がいると安心させてあげたい所だけれど……
これをきっかけに家に帰ってから、少しは進展している事を期待した。
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「……と、まあこんな感じね」
「玲さんが楽しそうにしてた理由が分かりました。楓ちゃんごめんね、って感じです」
「……次に楓ちゃんと会うことがあったらちゃんと謝るわ」
結菜と上手く行けば遠からず会うことになるだろうから、その時にはちゃんと謝ると約束した。
「この後どこか行きたいところありますか?」
「私としては早く家に帰りたいわね。せっかく菜月が嫉妬してくれた事だし。……ちゃんと安心させてあげないとね?」
「っ……?! 外でそういうこと言うのやめてくださいっ」
運ばれてきた食事を終え、デザートを食べている菜月にこの後のことを聞かれたので素直に答えたら可愛い反応が返ってきた。
「何を想像したの?」
「?!」
「家に帰るってことでいい?」
「……」
一体どんな想像をしたのか、真っ赤になる菜月を見て想像の自分にさえ嫉妬しそう。否定しないってことはいいってことね。
「さ、行くわよ」
デザートを食べ終わるのを待って、すぐに家に帰ったのは言うまでもないわよね。
さて、結菜の方はどうなっているかな。上手くいっているといいけれど……