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月曜日、今日はせっかくの有給なのに、目が覚めると既にお昼近かった。もう半日終わってるじゃん……
こんなに遅く起きたのはいつぶりだろう?
昨日、ずっと隠していた気持ちを楓に伝えた。
配信を見終わったあたりからは態度に出すようにしたけれど、楓には突然に感じただろうな、と反省する。
楓はどんな答えを出すのだろう。恋人は無理だってなっても、今まで通りの関係は継続したいな……
楓への気持ちが妹のように想う感情と違うと気づいたのはいつだっただろうか。
楓に彼氏が出来た時は、成長を感じると共に、ずっと可愛がってきた女の子が離れていく事が無性に寂しく思えた。
彼氏と喧嘩した、と落ち込む姿を見ては、私の方が大事にできるのに、ともどかしい気持ちでいっぱいだった。
この頃にはもう恋愛感情だと気づいていたけれど、関係を壊したくなくて気付かないふりをしていた。そばにいられるだけで幸せだったしね。
スマホを片手に普段通り連絡をするかしばらく悩んだけれど、気持ちを整理する時間も必要だろうし、催促してるみたいだから、楓から連絡をくれるまで待った方がいいかな。
スマホを持っていくと連絡しちゃいそうだからテーブルに置いて、お風呂に向かった。
昼間に入るお風呂って贅沢な気がするからついつい長風呂になる。のんびりとお風呂に入って、バスタオルを巻いたまま水を取りに向かうと、電話がかかってきた。
着信:朝倉 楓
「も、もしもし、楓??」
びっくりして噛むし疑問形になってしまった……
「なんで疑問形? 結ちゃん、今って家にいる?」
「いるよ」
「良かった。実はもう家の前まで来ていて」
家の前……え??
「え!? もういるの?」
「うん。既読がつかないし、電話しても出ないから来ちゃった」
「あ、ごめん。お風呂入ってて…………」
そこまで話したところで、自分の格好を思い出した。誰もいないからとタオルしか巻いていないし、さすがにこのまま出るわけにいかない。
「すぐ着替えてくるから、鍵開けて入っててくれる? 鍵持ってたよね?」
少し待っててと伝えようとしたところで、そういえば鍵を返してもらうのを忘れていたことを思い出した。
持っていると言うので、電話を切って急いで着替えに向かった。
会えるのは嬉しいけれど、何を言われるのか怖くもある。
「待たせてごめんね」
「ううん、急に来たのは私だから」
軽く身支度を整えてリビングへ戻ると、楓がソファに膝を抱えて座っていた。
相変わらず可愛いな、と思いながら少し間隔をあけて隣に座る。
「まさか昨日の今日で来てくれるとは思わなかった。大学は?」
「今日は一限まで。結ちゃんの事だから焦らせたくない、とかで連絡して来なそうだし、気づいたこともあったから早く会いたくて」
「あー、楓からの連絡があるまではしない方がいいのかなって思ってた」
「やっぱりね」
そう言って普段通りに笑う楓にホッとして、色々考えて会いに来てくれたんだろうな、と嬉しくなった。
「あのね、昨日好きって言ってくれたでしょ? いつから好きでいてくれたの?」
「妹としてじゃないなって気づいたのが楓に初めて彼氏が出来た頃だから、3、4年くらい前?」
「え、そんなに前から?」
「うん。玲さんにヘタレって言われた」
「ふーん」
「楓?」
急に不機嫌になって黙ってしまった。何か変なことを言っただろうか?
「……あ。玲さん?」
楓が不機嫌になる前に玲さんの名前を出したからそれかな、と思って言ってみれば反応したから当たりだったみたい。
そういえば玲さんとの仲を疑われていたな、と思い出した。
「もしかしてやきもち?……なんてね」
「悪い?」
「え!?」
冗談で聞いてみたら予想外の反応でびっくりした。少しは期待してもいいのかな?
「玲さんは本当にそんなんじゃないよ。大体、彼女いるし」
「そうなんだ……彼女??」
「うん。ほら」
「うわ、彼女さんも美人!」
前に玲さんから貰った、清水さんとの写真を見せると楓が安心したように笑って、目を輝かせた。
この写真は玲さんから恋人がいるって聞いた時に、冗談で写真送ってくださいよ~って言ったら本当に送ってくれたもの。
あの時は、まさか恋人が清水さんだと思っていなくて驚く私を見て笑っていた。私になら教えても大丈夫って思ってもらえて、信頼されてるって嬉しくなったんだよね。
「これで違うって分かってくれた?」
「うん」
「やきもちってことは、少しは期待していい?」
「……きゃっ?!」
小さく頷く楓が可愛くて、つい抱きしめてしまったけれど、腕の中で大人しくしている。なにこれ可愛い。
キスしてもいいかな? ……付き合ってもないのに早まっちゃダメか。
「楓が好き。付き合って?」
「……はい」
至近距離で見つめて再度告白すると、小さく頷いてくれた。
私も、って聞こえたけど、空耳じゃないよね?
「ありがとう。はー、本当嬉しい!」
「結ちゃ……ちょっと苦しい」
「わ、ごめん!」
「ううん、大丈夫」
OKを貰えた嬉しさでつい強く抱きしめてしまったので慌てて離すと、楓が少し躊躇いながら口を開いた。
「……ね、結ちゃんって女の子と付き合ったことあるの?」
「ないよ。楓が初めて。楓もだよね?」
「うん」
「今まで通り、いや、今まで以上に大事にする。付き合ったからって何かを変える必要はないし、いつも通りの楓でいて」
「うん」
急に関係が変わるのが不安だったのか、少し緊張していた楓がホッとしたように笑った。
「そういえばさ、楓はお昼食べた? 私は起きてすぐお風呂に入っちゃったからまだ食べてなくて」
「結ちゃんからの返事待ってる間に食べてきたよ」
「食べたなら良かった。ちょっと何か食べちゃうね」
楓が食べてなかったら出かけるか、ちゃんと作ろうと思ったけれど、自分だけなら適当でいいかな、と立ち上がりキッチンへ向かった。
キッチンから楓の様子を見ると、いつも通りリラックスしているみたいに見えたので安心した。
「何見てるの?」
「昨日の配信のアーカイブ。 見る?」
お昼を食べ終えて隣に座ると、昨日の生配信動画を見ていたみたいでスマホを私の方に向けてくれた。
うわ、顔が近い。自然と距離が近くなって、とても平常心で見られそうになかった。
こんなだからヘタレって言われるんだよね……
しばらく一緒に見ていたけれど、やっぱり動画より隣にいる楓の方が気になるわけで。
「結ちゃん、視線がうるさい……」
「ひど! 可愛いなって見てただけなのに!」
こっち向かないかな、と見つめていると文句を言われた。
知らんぷりをしているけれど、明らかに集中出来てなくて、こっちを気にしているからちょっと嬉しい。
緩く巻かれた髪の毛をくるくるして遊んでいると、さすがに気になったのか動画をとめてこっちを向いてくれた。
「暇なの??」
仕方ないな、って表情ほんと可愛い。キスしたい。
「うん。キスしていい?」
「え?!」
あ。心の声ダダ漏れ……
やっちゃった、と頭を抱えていると小さく声が聞こえた。
「ん? ごめん聞こえなかった」
「……っ! だから、いちいち聞かなくても……って何でもない!」
それってしてもいいってこと? いいってことだよね?? はー、可愛すぎて辛い。
「楓、こっち向いて?」
「……っ!!」
恥ずかしいのか、下を向いて首をふるので、楓の顎に手を添えて上を向かせ、そっと触れるだけのキスをする。
驚いて目を見開いていたけれど、しばらく見つめ続けると目を閉じてくれたので次は少し長めにキスをした。
唇を離すと、楓は耳まで真っ赤で心なしか目も潤んでいるように見えて、このまま押し倒したい衝動をぐっと耐えて抱き寄せれば、抵抗なく身体を預けてくれた。
「なんか自分に都合が良すぎて怖い。本当はまだ寝てて、夢でした、とかないよね?」
しばらく抱きしめたままでいると、幸せすぎて現実なのか不安になってきた。
「夢だったらどうするの?」
「え、夢なの?」
「……夢だったとしても、現実の私の返事も同じだから」
まさかそんなことを言ってくれるなんて思わなくて、顔が赤くなっている気がする。
今更恥ずかしくなったのか、私の胸に顔をうずめている楓には見えていないのが救いかな……
「楓、ずっと一緒にいてね」
「うん」
これから辛いことがあるかもしれないけれど、楓と一緒ならきっと大丈夫。私の特別な人。
タイトルを回収しましたので、本編完結とさせていただきます。最後までお読みくださりありがとうございました。少しでも楽しんで頂けていたら幸いです。よろしければ、ご意見、ご感想、評価をお聞かせ下さい。