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3/9

3

昨日生配信を一緒に見た後から、結ちゃんの様子がおかしい。


可愛いって言ってきたり、触れてきたり……今まではそんなこと無かったのに。


結ちゃんの前から逃げたあと、うとうとしていたら結ちゃんが入ってきて……本当は起きようと思ったのに、頬を撫でられて起きるタイミングを逃してしまった。

思わず声が出てしまったし、顔が赤くなっている気がしたけれど、結ちゃんは気づかなかったみたいで撫で続けてくる。

起きるか、このまま寝たふりするべきか? と混乱していると結ちゃんの手が離れて、電気が消された。


結ちゃんはそのまま何事も無かったようにベッドに入って寝始めたけれど、私は目が冴えてしまいしばらく眠れなかった。


朝起きてからも結ちゃんはやっぱりおかしくて、今日は急にデートしよう、なんて言ってランチに連れてきてくれた。いつもはご飯に行く時にデートなんて言わないのに。


結ちゃんは私の5歳上で、私が小学1年生のとき、結ちゃんは6年生だった。

初めて登校する日、不安で泣いている私の家の前に迎えに来て、目線を合わせて微笑んでくれた。手を繋ごう、と差し出してくれた手が暖かかったことをよく覚えている。

当時の私は結ちゃんの事を男の子だと思っていたんだよな、と思い出して懐かしくなった。

きっと結ちゃんが私の初恋。


結ちゃんが小学校を卒業すると、今まで毎日のように会えていたのに会えなくなった。

会いたいとよく泣いていたからか、お母さんが結ちゃんを見かけた時に家に連れてきてくれた。近所だからお母さんは時々見かけていたらしい。

それからは休みの日に予定がなければ遊びに来てくれた。


小学校の頃は男の子みたいだったのに、高校生になる頃にはかっこいいお姉さん、という感じで男女ともに人気があった。どちらかと言うと女の子にモテていたけれど。


結ちゃんの就職が決まった時には、一人暮らしを始めると聞いて、会えなくなるのかと大泣きした。


……なんか私泣いてばっかりじゃない!?

そんな私に困ったように笑いながら、いつでもおいで、と頭を撫でてくれた。

そんなわけで、ずっと追いかけて今に至る。



「……で、 ……えで、 かえでー? 聞こえてる??」

「え!?」

「なんかぼーっとしてたけど大丈夫? 考え事?」

「ちょっと結ちゃんとの出会いから思い出してたところ。初めは結ちゃんの事男の子だと思ってたなって」

「あー、そうだったね。よくゆーちゃんと結婚する! って言ってくれてたもんね?」


優しく見つめられ、今までよく直視できてたな、と急に恥ずかしくなった。結ちゃんは前からこんな目で私を見ていただろうか?

変わったのは結ちゃん? それとも、私?

結ちゃんは優しいしかっこいいし、私の理想の人なんだよね、と思ったけれど、これ以上考えると何かが変わってしまう気がして、慌てて話題を変えた。


「それは忘れて! それより、このパスタ美味しいね!」


「口に合って良かった。この前上司に連れてきてもらったんだけど、楓に食べさせてあげたいなと思って」


微笑みながらそんなことを言ってくるけれど、本当にどうしたのだろう? なんか空気が甘い気がするよ……


「連れてきてくれてありがとう!……ところで、その上司ってどんな人?」

「玲さんは一言で言うと超人? とにかく凄い人で、尊敬してる人かな」


名前だけでは男女どちらか分からないけれど、上司のことを話す結ちゃんが楽しそうで、話しぶりから信頼しているのが伝わってきてなんだかモヤモヤした。



「結菜?」

「玲さん!? 玲さんもランチですか?」

「そう。菜月が半日出勤していて、ここで待ち合わせなの」


お店から出ようとドアを開けると、ちょうど入ろうとしていた人から結ちゃんが呼びとめられた。あきら、ってことはこの人が上司? 身長は結ちゃんと同じくらいだから165cm前後くらいかな? スラッとしていてすごく美人。まあ、私は結ちゃんの方がタイプだけど。


「ここだと邪魔になるから少し避けましょうか」


結ちゃんの手を引いて、入口から離れて何か話している。内容は聞こえなかったけれど、言われた結ちゃんが顔を赤くしているのが面白くない。

……ちょっと距離近すぎない?

2人とも目を引くから、周りの人もチラチラ見ている気がするし、早く戻って来ないかな。


結ちゃんの上司って女の人だったんだ、と少し離れた所から見ていると、向こうもこっちを見て目が合った。なんとなく、目が輝いているように見えるような? 気の所為だろうか?


「楓、この人がさっき話してた上司の玲さん」


近づいてきて、何も無かったように紹介してくる結ちゃんに少しムッとしていると、その人はおかしそうに笑って手を差し出してきた。


「初めまして。藤宮 (あきら)です。よろしくね」

「朝倉 楓です。よろしくお願いします」


「警戒されているみたいだけれど、結菜はどんな悪口を言っていたのかしらね?」

「うえっ!? そんなことないですよ! ね?」

「どうだったかなー」


「いやいや、超人? くらいしか言ってないですよ!」

「それは褒められているの?」


悪口なんて言っていなかったけれど、藤宮さんが結ちゃんを楽しそうにからかっているから乗っておくことにした。狼狽える結ちゃんなんてあんまり見られないし。

仕事では常にこんな感じなのかな、とまだ学生なことをもどかしく感じた。


その後少し話をして、藤宮さんはお店に入っていった。

待ち合わせと言っていたから、デートかもしれない。あの人の恋人はどんな人なのかな、と漠然と考えた。後々恋人が女の人だと知って驚くことになるのだけれど。



---

「放ったらかしでごめんね。ちょっと思いついたことをまとめておきたくて」

「だ、大丈夫! テレビ見てたし」


結ちゃんの家に帰ってきてソファでくつろいでいると、パソコンで何か作業していた結ちゃんが戻ってきて隣に座った。

前までは1人分くらい空いていたのに、腕が触れるくらい近くて声が上擦ってしまった。

しばらくお互い無言でテレビを見ていたけれど、CMになったので気になっていることを聞くことにした。


「今日会った藤宮さんって凄く綺麗な人だね」

「でしょ。あの人会社でもすごい人気なんだよ」

「耳元で何か言われて赤くなってたけど、ああいう人が好きなの?」

「え!? いやいや、玲さんのことそんな風には見たことは無いよ」

「そこまで必死になられると逆に怪しいけど」

「否定しても疑われるとかどうしたらいいの……」


「少し離れてたし、耳元で話してたから聞こえなくて……何話してたの?」

「言わなきゃダメ?」

「ダメならいいけど」


しばらく唸っていたけれど、よし、と気合を入れて体を私の方に向けてじっと見つめられた。


「お店を教えてもらった時に楓をデートに誘ったら? って言われていて。無事に誘えてよかったねって言われた」

「デート……」

「あれ、デート行こうって言ったよね?」

「言われたけど……なんか結ちゃん昨日から変じゃない?」

「変って酷いな。昨日配信を一緒に見て、楓が同性同士に抵抗無さそうだったから、気持ちを抑えるのやめようかなと思って」

「……気持ち?」


気持ちってなんだろう? 次に結ちゃんが何を言うのか、聞くのが怖い気がした。


「楓のこと、ずっと好きなんだ。楓は姉のようにしか思ってないだろうけど、私の好きは恋愛としての好き」

「結ちゃんが私を好き……?」


昼間、結ちゃんが初恋だったな、と思い出して理想の人だとも思った。

ずっと本当のお姉ちゃんのように大好きだと思ってきたけれど、この気持ちは家族愛? それとも……?


「驚かせてごめん。返事は急がないし、今まで通り遊びに来てくれたら嬉しいな。もちろん何もしないから」


何もしない、という言葉に色々想像してしまった私は悪くないよね? 返事は急がないと言ってくれたので、考えたい、と伝えて家に帰った。

結ちゃんの家に行くと大抵泊まってくるから、帰ってきたことに驚かれた。信頼されてるってことなんだろうけど、それでいいのか……


夜になって、ベッドに入ってもなかなか眠れず、親友の葵に話を聞いてもらおうとメッセージを送ることにした。


楓:へるぷ 23:00

葵:どした? 23:02

楓:結ちゃんに告白された 23:03

葵:(えー!)飛び上がるぱんだのスタンプ 23:03

葵:(良かったね!) サムズアップしたぱんだのスタンプ 23:03

楓:ん? 23:04

葵:(?) 首を傾げるぱんだのスタンプ 23:04

楓:なんで良かった? 23:06

葵:え、だって楓って彼氏がいても結菜さんの話題ばっかりだし 23:08

楓:そんなに話してた? 23:10

葵:うん。自覚なかったの? 23:10

楓:なかった 23:12

葵:実は付き合ってるって言われたとしても驚かない自信がある 23:13

楓:そんな風に思われてたの…… 23:15

葵:それで、悩んでるの? 23:17

楓:結ちゃんが恋愛として好いてくれてるなんて思ったことなくて 23:20

葵:嫌だったとか? 23:25

楓:それがね、嫌じゃなかった 23:26

葵:返事はしたの? 23:28

楓:急がないって言われたからまだしてない 23:30

葵:あんまり待たせると取られちゃうかもよ? 23:32

楓:それは嫌!! 23:34

葵:冗談冗談。どっちを選んだとしても応援してるよ 23:35

楓:ありがとう! 明日休みって言ってたから、連絡してみる 23:45

葵:はやw 23:50

楓:まだ自分の気持ちが分からないけど、とにかく結ちゃんと話してみる 23:53

葵:それがいいね。明日に備えて早く寝なさい 23:55

楓:ありがとう! おやすみ 23:56

気合を入れているうさぎのスタンプ 23:56

葵:(おやすみ)布団から手を振るぱんだのスタンプ 23:58



葵との連絡を終えて、普段から結ちゃんの事ばかり話していたと聞いて衝撃だった。


思い返せば、予定のない週末はほとんど遊びに行ってお泊まりしていたし、ほぼ毎日何かしらの連絡はとっていた。しょっちゅう泊まるので私物もかなり置いてある。

元彼よりも、結ちゃんに対しての方が自分から連絡する頻度も高かったような気がする。付き合ったのも、告白されてかっこいいからいいかな、位の気持ちだったし……

これじゃあ葵から、付き合っていると言われても驚かない、と言われるなと納得した。


結ちゃんがいつから想ってくれていたのかは分からないけれど、私に彼氏がいた時も変わらず接してくれていたし、結ちゃんは気持ちを隠すのが上手いのかな。……私が鈍いだけ?


葵から、取られちゃうよ、と言われた時、結ちゃんが望めばすぐ相手が出来るだろうなと考えて素直に嫌だと思った。しばらく彼氏はいないと聞いているし、そんな気配もないけれど、恋人が出来たら今までみたいに頻繁には会えないよね……


隣に私じゃない違う誰かがいることを想像して、苦しくて泣きたい気持ちになった。結ちゃんが他の人のものになる……? いや、そもそも私のじゃなかった。


結ちゃんに恋人、と考えた時、なぜか相手として浮かんだのは藤宮さんだった。結ちゃんはそんなふうに見た事ない、って言っていたけれど、お似合いに見えたし、ずっと一緒に仕事をしてきて信頼関係もあるだろう。

今すぐに会いたくなったけれど、幸い明日は一限だけだし、終わったらすぐ連絡しよう。きっと結ちゃんのことだから、しばらくそっとしておこうくらいに思っていて連絡してくれなさそうだから。


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