第七話 旅立ち
「とりあえずエマのお化粧からか」
「お化粧?」
「そのままにしてエマってバレるとまずいからな。とはいえ女は化ける。化粧するだけでもわからなくなるさ」
結構鋭い目つきなので、ここをパッチリお目々にしてあげれば、誰かわからないレベルになるだろう。ほか部位も化粧で今までとの違いを出す。
「あ、髪型も変えよう」
「セミロングにしようかな」
「それと、しばらくは野宿になる。キャンプ用品が必要だな。食料はできるだけ現地調達かなぁ」
「一応目的地だけど、人族、魔族、獣人族が仲良く暮らす街がここから遠く東にあるらしい。そこに行こうかと」
「ああ、私も聞いたことがある。いいかもね」
俺とエマ、二人が安心して暮らせるとなるとそこくらいしかないかな。
前に街に魔族が泊まりに来ていた時、街の人間が絡んでいるのを見た。普段は喧嘩なんてしそうにない人だった。もちろん、全員が全員、嫌っているわけではないがやはり人族と魔族は仲が悪い。エマに聞いたら魔族側もそんな感じらしい。そのためしばらくは野宿となる。
「これから買い物に行ってくるけど、なにか欲しい物ある?」
エマが欲しいと言ったものをメモし、街へ。
街に着いてまずは荷車を購入。その後はキャンプ用品、エマが言ったもの、その他諸々を購入。
「おや、タイカンじゃないか。そんな大荷物持ってどこかに旅にでも出るのか?」
タラトンさんに声をかけられた。
「ええ。やりたいことが出来まして。ここから遠い場所へ」
「そうか、そいつは寂しくなるな」
目をつむり少し考えるような顔をした後、何か閃いたかのようパチンと手を合わせ、パッと目を開けこちらに話しかけてきた。
「ちょっとうちに寄っていくといい。俺も昔旅をしていたことがあってね、使えるものがあるならあげるよ」
「ありがとうございます」
タラトンさんの家に到着後、庭にある倉庫へ。
「好きなものを持っていってくれていいぞ」
「しかし」
「気にするな。俺はもう使わないだろうからな。結婚して子供までいるから。子供は冒険者は嫌だと」
苦笑いするタラトンさん。
「危険な職業ですからタラトンさんとしてもある意味一安心じゃないですか」
「ハハハ、まあそうなんだがな」
欲しい物を貰って荷車に積む。
「それとこれも持っていくといい」
「お酒ですか。何から何までありがとうございます」
少し厳し目の表情になりタラトンさんは語り始めた。
「いいか、旅はとても危険だ。魔獣、魔族、時には人族から襲われたりする。命の危機を感じたらすぐ逃げるんだぞ」
「はい」
「では、行きます。今までありがとうございました」
「ではな」
とても良い人だった。別れが惜しい。しかしだからといって立ち止まっていては人生進まない。タラトンさんに深々とお辞儀をしてこの場を去った。
初狩り小屋に到着。外でエマが髪を切っている。
「こんなものかな」
切り終えてこちらへ。買ってきた化粧品でおめめパッチリエマを作り上げた。
「誰コレ」
手鏡で自分を見ながら不思議そうにしているエマ。
「女は化けるって言ったろ。まあ女物の化粧はそこまで得意じゃないが」
自分向け、男用の化粧はそこそこわかるが女性向けはホントにかじった程度。
「何度かやれば自分でできるようになるさ」
「はーい」
「荷物はこんなものかな」
次の日。
「よーし、出発しよう」
「いこう」
途中、隣町に寄って情報屋にチンピラ屋をやめることを話した。
「残念だが仕方ないな」
「ああ、すまないな」
再出発。
しばらく進んで魔獣を発見。
「あ、アイツは結構美味しい」
「へぇー、そうなのか」
「こう見えてサバイバル経験は豊富なの」
「そいつは頼りになるな」
「バキッ」
「ピギー!」
魔獣を仕留めた。その後キレイに魔獣を解体するエマ。見事な腕前だ。
「この魔獣は骨もダシが取れるから捨てるところがないのよ」
「詳しいな」
仕留めた魔獣をエマが料理してくれた。
「うまい! かなりの腕前だな」
「そ、そう? そう言ってもらえるとうれしいけど」
この世界に来てからのうまい料理ワールドレコードが塗り替えられた。外で食べると美味しいってのはあるけど、そんなレベルではない美味しさだ。これから何度塗り替えられることになるのか、楽しみだ。
俺はサバイバル経験がほぼないから食事関係は正直不安なところがあった。しかしこれで万事解決。自然調理人のエマ、ここに爆誕。
「後で教えてくれ」
「いいよ」
食事をしながら彼女の角を眺めていた。
「どうしたの?」
「ああ、その角って骨なのかなって」
「これは爪みたいなものかな。だから折れても全く問題ないわ。また生えてくる」
「そうなのか」
「ついでに言うと羽があるけど空は飛べない」
「らしいね。羽、ちっちゃいもんね」
「そゆこと」
しばらく談笑。
「そろそろ寝ようか」
「ああ、おやすみ」
こうして出発一日目は平和に過ぎていった。