第六話 エマの涙
「くっ!」
ローブを羽織りフードを深々とかぶっているためそれだけでは王女とはわからない、が。
「何者だ」
「王女だな。あの剣は魔王様がエマ王女に与えた剣」
「追え!」
引っかかってくれたか。まずは第1段階成功といったところかな。
「逃すな!」
次は走り方。昨日エマにしばらく走ってもらって走り方を研究した。案外ここでバレる可能性があるだろう。男と女では体の作りがかなり違うからだ。俺は慎重にエマを演じた。
しばらく走り目的地に到着。岩の壁に囲まれた場所。相手から死角になるところでエマと一旦交代した。
「姫様、ここまでです」
「リムズ……」
「あの男はどうしました?」
「スキを見て逃げ出してきた」
「懸命です。本来なら殺しておきたいところですが、人族一人、何を言おうが握りつぶせます。大人しくしていればその男は助かるでしょう」
「リムズ、私は何故狙われているの?」
「問答無用!」
走って斬りかかろうとするリムズに大魔法爆雷札を投げつけるエマ。
「それは! くっ!」
とっさに後ろへ飛び退くリムズ。札が先程リムズがいたあたりの地面に刺さる。
「ドガーン!」
その後大爆発。土煙が舞い上がる。ここで俺と彼女は交代した。
「その男の家から拝借してきた。魔王に伝えておけ! あなたの思い通りにはさせないと!」
口パクで喋る。土煙が晴れてきたところで、ローブを広げ中にある大魔法爆雷札見せつける。
「姫様、まさか!」
「さあ、向こうへ行きなさい」
リムズは走って後方へ。
「さらばだ!」
「ドゴカーーン!」
大爆発。岩壁は崩れ俺は崩れた岩の下敷きに。
「姫様、お見事です」
「リムズ様、これは……」
「大魔法爆雷札が同時に数個、ローブの中で爆発したのだ。1個でも木っ端微塵の代物だ。肉片すら残っていないだろう。更に崩れた岩が上からかぶさってきている。これでは生きている者など」
「そう、ですね」
「帰るぞ」
「ハッ。っとその前に、例の男はどういたします?」
「放っておけ。先程も言ったように人族一人では何もできんさ。それよりその男をこれから探して殺しに行くとなるとその方がトラブルが起きる可能性があるからな」
「確かに」
「それにお前たち、そいつの顔がわかるか?」
「いえ、わかりません」
「まあそういうことだ。帰るぞ」
どう見ても怪しいヤツラだったからな。できるだけ顔を見せないように立ち回ったのは正解だったな。
「はい」
しばらくして人の気配がなくなった。いや、エマは近くにいるな。
「どうして、どうして私の代わりにアナタが死んでしまったの……」
あ、いけない。
「こんな私なんか放っておけばよかったのに」
「ウウッ」
声を出しながら泣き出してしまった。
『おーいエマ。ちょっと離れていてくれ』
「え?」
『崩れた岩から離れてくれ』
「わ、わかった」
「うおー!」
「ドバーン!」
気合で持ち上げ吹き飛ばす。
「大丈夫、なの?」
「ああ、全く問題ないさ」
エマは俺に飛びついてきた。
「よかった……」
「大丈夫って言ってあっただろ?」
「いや、まさか大魔法爆雷札を直接食らうだなんて思わなかったから。何かうまい方法があると思ってた」
「そこはそうだな」
時間に余裕がなかったとはいえ、彼女の言う通り最後は少し強引だったな。もう少し良いやり方があったかなぁ。いろいろ考え、準備して最後の最後に「体が頑丈だから大丈夫!」では。ちょっと締まらない。先生達ならもっとうまくやっただろうか。
「ありがとう、タイカン」
「ああ」
初心者狩り小屋に戻る。
ふと父の言葉を思い出していた。「やられ役を極めるなら世界最高の男になれ」。当然この言葉には意味がある。やられ役は相手にあわせなくてはならない。つまりどんな相手が本気を出しても余裕でさばける力が必要。それが父の持論だった。
ここのところチンピラ役をやったりエマ役をやったりと、自然とやられ役をやっている自分がいた。となるとやはり、目指すは「やられ役」、「世界最強」かな。
「これからどうするの?」
「俺の目標は世界最強。この辺りは平和だからそろそろ旅に出ようと考えていたんだ」
「せ、世界最強ね」
「良かったら一緒に旅、どうだ?」
「うん、私もいく」
都内某所。
タイカンの葬式を終え、彼の父と母は話をしていた。
「アナタ、どう思います?」
「何度も言っているが、あの程度の爆発で死ぬほどのやわには育てていない」
「そうよね」
「それに肉片がまったくないってのはありえないだろうな」
「そう、ね。私はね、アナタ。変なことを言うようだけども、まだタイカンがどこかで生きている気がしているの」
「俺もそう思う。葬式はやっちまったがな」
「ふふ」
「まあ、それならそれでいいさ。どこでも生きていけるだけの力は与えてやれただろうから」
「丁度巣立ちの時期だしね。私達も子離れしないと」
「ああ、そういうことだ」