第五話 王女役
「こう言っては何だが俺がいなければ君は死んでいたと思う」
「……」
「その貸しは事情を説明してくれればナシってことにしてもいいぞ」
「うーん」
「俺もすでに巻き込まれてしまっているわけだ。今後のことも考えると知っておきたい。理由も知らずに殺されたりしたら死んでも死にきれないからな」
「わかった」
説得術、落とし術は刑事ドラマでよく犯人を落とす人情刑事役をやる人から教わった。皆からヤフさんと呼ばれている。俺は先生と呼ぶ。この人は刑事役をやるために実際刑事になった本格派。まあ、先生のようにうまく出来ないが。
その力、落とし力は凄まじく、俺が初めて先生に会ったときに初めて発した言葉が「僕がやりました」だった。
「とりあえずご飯を食べてからにしようか」
「うん」
食後、女の子は語りだした。
「私は魔族の第一王女、エマ」
魔族の特徴である角、羽を持ち、肌は色黒。年齢は見た目18歳くらいかな、俺と同じくらいだろう。
「おっと、お互い名乗ってなかったね。俺の名はタイカン、しがない冒険者だ。よろしく」
「よろしく」
「魔族の王女が何故ここで襲われていたんだ」
「はっきりとした理由はわからないがおそらく私が魔法を使えないことが原因だと思う」
「ふむ、魔族は全員魔法を使えると聞いている」
「そう、子供から老人に至るまで皆使える。その魔法をよりによって魔族の王女である私が使えないのよ」
エマは拳に力を入れ、体を震わせ悔しそうにしている。
そして顔をうつむけ涙を流し始めた。
「すまない」
「いや、いいさ」
エマにハンカチを渡す。魔法が使えないことでかなり苦労してきたんだろう。
少し落ち着いたところで再び話しを始めた。
「それで武術だけはとにかく修行した。こう見えて剣士としてはそこそこの実力を持っているわ」
「それを認められ、軍でもある程度の地位を手に入れた」
「頑張ったんだな」
「ある日、魔王である父から遠征の話を聞かされそれに従った。私は部下を従えて、ここへ来た」
「ここへ来た魔族を指揮していたのはエマだったのか」
「うん」
「昨日、部下から話があって危険な生物が森にいる、討伐を手伝ってくれと言われてね。今日魔獣退治に向かったわけなんだけど、戦闘中部下が裏切ってね、状況を察した私はその場から逃げた」
「後はさっきあった通りよ」
「ふーむ、魔法が使えないのが狙われた理由だという根拠は?」
「子供の頃から、家族から疎まれてきたわ。魔法が使えないことでね」
「そう、か」
「戦闘しながら部下のリムズに何度も聞いたが理由は話してくれなかったわ」
「エマを崖から落とした男か」
「ええ」
リムズと言われる男、一瞬だったが彼女を落とした時、悲壮感を漂わせていた。となると彼が裏切ったと言うより誰かからの指示で仕方なくといったところだろうか。魔王からの指示の可能性が高いか?
「理由は話した。ここから離れて」
俺はすでに彼女を助ける方法を思いついていた。簡単に言えば俺が彼女の身代わりをする、という方法だ。
「俺なら君を助けられる」
驚き目を大きく開くエマ。
「無理だ。魔王が関わっている可能性があるから、私を助けようとするにはそれこそ魔族全員を倒すくらいになってしまう」
「俺に考えがある。どうせ死ぬつもりなら話を聞いてからでも遅くはないと思うよ」
「……その話、聞こう」
これからやろうとしていることをエマに簡単に説明した。
「そんな事が可能なのか? いや最後は」
「可能だ。俺に任せてくれ」
「……わかった」
ここも半ば無理矢理説得した感じにはなったが、これでよかったとおもう。
「まずは準備だ」
次の日、道具屋で必要なものを購入する。
「大魔法爆雷札を10個も買うのか」
「はい。強敵がいまして」
大魔法爆雷札1つで人一人木っ端微塵となるくらいの威力がある。他に彼女の肌の色の塗料を購入。次はローブ。全く同じローブを2着買う。その後にツルハシを購入。
大立ち回り予定の場所を偵察。それじゃここに穴を掘ってと。よし、準備完了だ。
決行日当日。
「なるほど。顔は大部分を包帯で巻いてしまうわけか。これなら確かにわからないわね」
「崖から落ちて怪我をしたのなら納得だろう」
「それじゃあヤツラをおびき寄せてくる。ここで待っていてくれ」
「わかった」
木の上を飛び移りながらリムズ達を探した。
「そっちはどうだ!」
「いませんでした!」
殺気立った魔族の集団を発見。リムズもいる、彼らだな。
彼らの進行方向を見ながら、逃げやすそうな場所を探す。お、丁度走りやすそうな獣道がある。これを使おう。そしてタイミングを見計らって彼らの前に飛び出した。
「いたぞ!」