第二話 チンピラ屋はじめました
――あれから一週間。
色々と調べてわかったことがあった。それは俺が異世界に飛ばされたということだった。
それに気付いた時はショックを受けたが、いじけていても仕方がないのでなんとか生活できるよう立ち回ることにした。
「依頼の報酬です、タイカンさん」
「ありがとう」
今はギルド、簡単に言えば仕事をもらえるところで依頼ってのをこなしてお金、報酬をもらいながら生活している。俺達みたいなやつらは冒険者って言うらしい。
他にもギルドを通さない仕事もたまにしている。今日はこれからその仕事、俺は隣町の公園へ向かった。
「愛しているよ、クシカ」
「私もよ、ラタク」
愛を語り合うカップルが一組、公園にいた。そして今回の依頼者はその男性の方、ラタクさん。
内容はこうだ。俺がチンピラ役をやり二人に喧嘩をふっかける。そしてあれこれ因縁をつけて殴りかかる。そのチンピラに対し、カップルの男が拳で制裁。男さんカッコイイ! という芝居だ。
この仕事は今回で3回目。ことの始まりはギルドで依頼を断られた若者から話を聞いたところ、「彼女との仲をもっと良くしたいとギルドに話したが断られた」とのこと、そこで俺がチンピラ役をするという話を提案。
これが見事にハマり、最近では結構な頻度で話が舞い込んでくるようになった。ただ、ベースの街でやれない。顔バレするからね。そこで隣町の情報屋にこの件を管理するようにしてもらいそこから仕事として話が来るようになっている。
さてと、出撃前に最終チェック。まずは格好。できるだけ胸元をはだけさせ、金色で目立つネックレスを付けている。アロハシャツがあれば完璧だがここは異世界、そこは仕方がない。
次に姿勢。顔は少し天を仰ぎ、手はポケット、足はガニ股。ほか小道具でガムがあればよいがここは異世界、ありません。
最後は顔つき。眼光鋭く、眉間にシワを寄せ、目尻を上に上げる。そして全体的に顔をしかめる。こんなところかな。あまりやりすぎるとただの変な人になってしまう。見極めが肝心だ。
ここらの技術はすべて父に教え込まれた。異世界に来てこの技術が役に立つとは。
よし、我ながら完璧だ。いくぞ!
「おうおう、見せつけてくれるねぇ~、お二人さん」
「ヒッ」
二人共驚いている、ラタクさんも。しまった、どうやら俺、タイカンだと気付いていないようだ。説明、訓練したときに会っているんだけど見た目が結構変わっちゃうんだよね。
しかしここはすでに対策済み。
「あ~、エール最高!」
道具袋から小さな酒瓶を取り出し中身を煽るように飲む。もちろんコイツはただの水だ。
「はっ!」
どうやら気付いたようだ。もしこうなった場合のために俺である証明として合言葉を用意してあった。今回で3回目だが毎回気づかれないのでトラブル対処はもう手慣れたものだ。
「お、カワイイ子じゃないか。どうだ? そんなやつの相手をしてないで俺にお酌でもしないか? ギャーッハッハ!」
「逃げよう、クシカ」
一旦逃げようとする。これは打ち合わせ通り。良いところを見せたいからといって好戦的なのは女性から敬遠される。必要に迫られた時、仕方なくってのがポイントだ。
「はっはっは、逃さないよぉ」
俊敏に移動、彼らの前に回り込む。
「その子を置いてってもらおうか」
「仕方がない。クシカ、下がっていてくれ」
「ラタク……」
「大丈夫だ。ただ、封印していた幻の右を出さないといけなくなってしまいそうだが」
あまり盛りすぎると後が大変になるけど、まあそこは説明してあるし書類上でも同意してもらっている。
「はっはー、じゃあアンタをぶっころしてその子をいただくとするか!」
彼の拳が届く位置まで歩み出る。
「ヒャハ!」
ラタクさんに殴りかかるフリをする。大きい動作でゆっくり、しかし見ている方は迫力を覚えるように。
「フン!」
ここは何度も練習した。俺の動きに反応してラタクさんは俺に拳をふるう。その動きを目で追う。
「バキャーン!」
拳が当たる瞬間、頬の筋肉に少し力を入れる。相手の拳を痛めないためにだ。更にその筋肉を使って良い音が出るように調整する。
これは父の秘伝だ。
「グアーー!」
カウンター気味に入った拳によって数メートル後ろに吹き飛ばされる俺。
「ヒィ、ヒィッ」
殴られた箇所を押さえながら立ち上がり、足をふらつかせながらラタクさんから逃げる俺。
ここでポイント。「覚えてろよ!」とやるとまた来そうな、次がありそうな雰囲気を作ってしまうからNG。またチンピラに会いたいなんて人はいないからね。
「すごいラタク! アイシテル!」
「俺もだ、クシカ!」
うむ、うまくいったようだ。
今日はベースの街へ帰り、次の日、ギルド。
「タイカンさん、ギルドから少々お話があります。奥の部屋へ」