第十九話 背中で語る
「後は魔獣の方だな」
「そちらも厄介そうね」
「こっそり盗賊共の話を聞いたんだがもしかしたら国が負けるレベルの魔獣だという話だ」
「ふむ、それは一刻も早く応援に駆けつけなくては」
「そうだな、ではまたで悪いがエマ、留守番を頼む」
「わかった」
「今回は私もいきます」
「うむ」
「聞いた話では街から馬車で半日かからないらしい。今日はもう出てないから明日朝の馬車に乗ろう」
「はい」
今日はここで一夜を明かした。
「ではいってくる」
「いってらっしゃい」
街で馬車に乗りこの国の中心部、王都ジャレドへ。
半日後到着。
「結構大きな街ですね」
「うん。しかし人が少ないな」
「魔獣の影響でしょうか」
街の中は静かなものだった。
「お、人だ」
荷車で移動する人たちをみかけた。
「なるほど。逃げ出しているのか」
「となるとかなり劣勢ということでしょうか」
「ギルドへ行ってみよう」
ギルドの中も閑散としていた。
「おう、ここらじゃ見ねえ面だな」
一人の冒険者に話しかけられた。
「ええ、旅の冒険者です」
「そうか。それなら悪いことは言わねえ。来た道を引き返すことだ」
「良かったら詳しく聞かせてもらえませんか」
「うむ、じゃあ椅子に座りな」
「魔獣の中でも特に強力な魔獣を破獣と言うのを知っているよな?」
「ええ、聞いたことがあります」
「その破獣が相手よ。数百匹の魔獣を引き連れてな」
「かなりの数ですね」
「ただでさえ数が多いのに破獣までいるんじゃお手上げだ。ハァ~、ゴッドハンドさえ居てくれれば」
「この付近にゴッドハンドが住む村があると聞いて探していたが全く見つかりゃしない。もうおしまいさ」
男は木製のコップにはいった酒をグイッと飲み、大きなため息をついて黙ってしまった。
(この辺にあるのか)
(はい。しかし、隠れ里になっているため簡単には見つかりません)
(緊急時ならなおさらだな)
(はい)
(どうする? 名乗って戦いに赴くか名乗らず戦うか。俺はどちらでもいい。そこはミラに任せる)
(わかりました)
深呼吸して気持ちを落ち着けるミラ。
「私がそのゴッドハンドです」
「へ?」
ローブを脱ぎ、背中の派手なマントを見せつける。
男は持っていたコップを下に落とす。そして震えながら。
「そ、それは! 金色の大きな手に見える紋章、ゴッドハンドの証である紋章、ゴッド紋!」
普段は目立つからとローブで隠していた。
「666代目、ゴッドハンド・ミラ。私がその破獣、倒してみせましょう」
「お、お願いします! こうしちゃおれん、早く国に知らせないと。少々お待ち下さい」
そう言うと、ものすごい勢いでギルドを飛び出していった。
目立ってしまうが今回に関してはこの動き方でいいと思う。ビッグネームによる安心感ってやつだな。
程なくして一人の男を連れ、ギルドの男が帰ってきた。
「おまたせしました、ゴッドハンド殿」
「はじめまして、ゴッドハンド殿。本来ならば王が直接出向くところですが現在心労で動くこともままならない状態でして。申し訳ありませんが大臣であるこの私、レディアが代わりを務めさせていただきます」
「ゴッドハンド・ミラです。よろしくおねがいします」
「連れのタイカンです」
王様が出てきそうになってたな。もしかしてゴッドハンドはものすごい名前なのか。
「早速で申し訳ありませんが、破獣討伐の最前線へ赴いてもらえませんか」
「はい」
返事を聞きうなずくとレディアさんは懐から地図と小さな道具袋を取り出した。
「場所はこの地図にバッテンが書かれている場所になります。それとこの「王家の印」をお持ちいただき現場の者にお見せください」
「わかりました」
「外に馬車を用意してあります。それに乗って向かってください」
「この国をよろしくおねがいします」
馬車に乗り前線へ。
たまに負傷兵を乗せた馬車とすれ違った。これはかなり苦戦中とみた。
現場に到着、入り口の兵士に王家の印をチラつかせながら事情を話す。
「わ、わかりました! 少々お待ち下さい!」
数分後兵士が戻ってきた。
「現在作戦会議中でして。その場所にお連れします、こちらへ」
兵士の後をついていく。大きなテントの中へ。
「ゴッドハンド・ミラ殿ですね? 私はアルゴート王国軍将軍、トイストです」
頑強そうな鎧を着た男が立ち上がり、ミラに名前を告げる。
「ゴッドハンド・ミラです」
「連れのタイカンです」
「この国をベースにして活動している冒険者、スマイだ。見た目は貧相だが、一応冒険者、義勇兵のまとめ役をやっている、よろしく頼む」
「それで申し訳ないんだがゴッドハンドの証、ゴッドハンドのマントを見せてもらえないだろうか」