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第十五話 若気の至りをした人役

「そうか! 助かる」


「とりあえずその若者のところへいこう」


「ああ」


 イドルに連れられ若者のところへ。


「よう、ベショー。リンチの件なんとかなりそうだぜ」


「本当ですか? イドルさん」


 パッと見普通の青年だ。悪いやつには見えない。


「出来心だったんです。ちょっと悪いことやってるのってかっこよく見えたんですよね。それがこんなことに……」


 若い頃はよくある勘違いだな。


「構わんさ。とりあえずあなたの服を借りよう。それと化粧だな」


 ベショーの顔をじっくり見る。口元にあるほくろに注目した。ほくろを化粧で作って後は包帯でも巻いておけばバレないかな。夜中にやるって話だったし。


「OK、問題ない。後は任せておけ」


「ありがとうございます! これは全財産です、お受け取りください」


「後で分けようか、イドル」


「いや、アンタが全部持っていってくれ。今回はかなり無茶な仕事だからな。命をかけることになる。その割には安い」


「了解した」


「それじゃ俺はべショーを逃してくる。明日頼んだぜ」


「ああ」


 一旦エマたちのところへ。


「うんいいよ、出発は明後日にしましょう」


「すまんな、勝手厄介な仕事を受けてきちゃって」


「確かに厄介だけどタイカンなら大丈夫でしょ」


「まあそうだが」


 次の日の約束の時間野少し前、準備をしていた。若者の服を着てその上にブカブカのローブを羽織る。化粧でほくろ、他は全体的に包帯で隠し、口の中に綿っぽいものを詰め込んですでに軽くリンチされました、の状態を作った。こうすることで声が違っても気が付かれなくなる。


 約束の時間に街の近くの森に到着。ほどなくして悪そうなヤツラが俺の近くへ。こいつらかな?

 さて、仕事の時間だ。


「フン、よく逃げずに来たものだ。まあ逃げてもどこまでも追いかけるがよ」


「……ふきにしろ」


「諦めちまったか? つーかもう軽く制裁されてるじゃねえか」


 男が笑う、その周りの男達も釣られて笑う。


「だがよー許しちゃやらんぜ。野郎ども始めろ!」


 俺の周りを囲んで蹴ったり殴ったり、好きに振る舞う。

 当然まともに食らっている攻撃は一つもない。やられ役の練習みたいなものかな、それにしてもぬるすぎるけど。


「おらー! どうした!」


「ヒィヒィー!」


 もちろんビビったり苦しみもがいたりとそのあたりの芸もしっかりこなす。

 一時間くらいのリンチの後、リーダーらしき男が大きめの剣を鞘から抜き放った。


「知ってるよな? うちを抜けるってのは」


 剣を俺の心臓に向けて突いてきた。


「ザシュ!」


「グワァ!」


「死ぬってことをよ」


 剣は俺の体を貫く。その剣の先端は背中から飛び出していた。

 俺は男の持っている剣の柄を思いっきり握りしめた。


「グッ、グッ!」


「クッ、コイツ、剣を離しやがらねえ。最後のあがきってやつか。まあいいや。あの世へ一緒に持ってけ」


「ふん、中途半端に悪党を目指すからこーなる。アバヨ」


 男達は街へ帰っていった。

 少ししてイドルの声が聞こえた。


「ば、馬鹿野郎。かわりに死ぬやつがあるかよ……」


 周りを見渡して男達がいないのを確認する。


「あ、大丈夫だよ」


「へ?」


 スッと立った俺に驚くイドル。


「だって、心臓貫かれたんじゃ」


「ほれ」


 剣を心臓から抜く。


「ええ? しかも折れてる?」


「ああ、突き刺される瞬間ローブで隠しながら叩き折って、更に先端だけ少し折って背中からこんにちはさせた」


「あの一瞬で、か」


 イドルが俺の背中にある剣の先端を抜く。スポッと小さく折った先端が抜け出た。


「そうか、それでガッチリ剣の柄を握っていたわけか」


「ふむ、引き抜かれたらバレるからね」


 折れた剣についた血のようなものを見るイドル。


「血は赤い染料だな」


「見事なやられっぷりだな、噂以上だ」


「噂?」


「ああ、チンピラ屋のときのな。ほんとにチンピラにしか見えないしやられているようにしか見えないってはなしよ」


「そうか」


「この後はアンタが遺体を処理するってことでいいんだな」


「そういう話になっている」


「じゃあ俺は帰る」


「おう」


 その場はイドルに任せ俺はエマたちのところへ。


「おかえり」


「ただいま。うまくいったよ」


「本当は悪党ごと全滅させたいところだったけどな。世の中難しく出来てるよな」


「ふふ、そうね」


 エマが温めた飲み物を出してくれた。


「ありがとう」


「今日は私とミラで見張りをするわ。タイカンはゆっくり休んで」


「わかった」


 帰るところがあるっていいなぁ、飲み物を飲みながら俺はそう思っていた。

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