第十四話 魔法拳
「さて、そろそろ」
「いいとも」
「エマ、剣を持っていてくれ」
「はいはい」
「武器を使ってくれて構いませんよ」
「いや、危険だ。それに俺は素手でも戦えるし問題はない」
「わかりました」
靴も脱ぎ裸足となる。
(前にランページジェネラルとの戦いを見ているのに全く臆していませんね。一体この人はどれだけの力を)
「エマ、合図を頼むよ」
「いいよ」
お互い向き合って構える。
「始め!」
とりあえず手加減のジャブからかな。ボクシングスタイルでゆらゆらとミラに近づく。
(見たことのない動きだ)
間合いに入り、彼女の防御している手にジャブを放った。
「スパーン!」
(早い!)
反応してさばいた。一旦間合いを離した。
「余裕で見えるようだな。マッハジャブでも大丈夫か」
再び近づく。今度はマッハジャブを放ちつつ太ももヘローキックのコンビネーション。当然ただのローではなく、足の親指を突き刺す「スティンガーロー」。今回は手加減してプニっと当てるだけだけど。大体の相手はこのコンビネーションで戦闘続行不能となる。まあ、最近だとジャブで終わることが多くなってきてたけど。
ミラにコンビネーションを放つ。
「パシューン! ビシュ!」
マッハジャブはきれいに受けたが、ローはかわしきれず少しカスった感じに。
「大丈夫か?」
「これくらいならかすり傷です!」
と言いつつ動きが格段に落ちる。そもそもローがそれを狙った攻撃、相手の脚を攻撃して身動きを封じる攻撃。
「OK。今日はここまでにしよう。ダメージが回復したらまたやろう」
「……はい」
3日後、再戦。
「おねがいします!」
「今度はこちらから!」
ミラは蹴りを繰り出してきた。
「魔法拳、雷光上段蹴り」
顔に向けての蹴り。これを難なくかわす。
「魔法拳、雷降踵落とし」
足をそのまま振り下ろしての踵落とし。なかなか面白いコンビネーションだ。
少し後ろの下がりこれをかわす。
「やはり強い」
この後30分ほど受けにまわり、戦闘をする。
「参りました。私など赤子同然」
「やっぱり強かったのね。確かにあの頑丈さはおかしいと思っていたわ」
「頑丈?」
「大魔法爆雷札を9枚くらい体に巻いて爆発後、落石を受けてもピンピンしてたのよ」
「それはちょっと……」
「いやいや、ミラも結構頑丈だろ」
「それでタイカンを村へ連れて行くの?」
「いえ、それはまだ。もしかしたらタイカンさんより強い人がいるかもしれないし、まだ私のほうが強くなる可能性もある」
「ハハハ、そうだね。ミラはまだまだ強くなる」
「はい!」
昼食後、今後のことについて相談。
「お金の心配はしばらくないけど情報に関してはたまに調べる必要はあるかな」
「そうね。向かった先で戦争してたりしたら面倒だからね」
「ふむ。そういう大きな情報程度でいい」
「たまに街に行って軽く情報を仕入れるってとこだな。ついでに買い物も」
「まあ今まで通りね」
その後移動。そして3日後。
「街に行ってくる。ミラはどうする?」
「今回は留守番で!」
「わかった」
俺に負けてから暇があれば訓練、移動しながらでも訓練。これならまだまだ強くなるだろう。
街のギルドへ。特筆する情報はなさそうかなと帰ろうとしたところ、何者かに声をかけられた。
「アンタ、タイカンさんだな?」
「あなたは?」
「ああ、失礼。イドルってんだ、情報屋をやってる。あんたチンピラ屋って珍しい仕事をやってたろ」
「そういうことか。情報が早いな」
「まあ、あの街から馬車で2日くらいの距離だけどな」
「徒歩での旅だし色々あったからそんなに進んでないんだよね」
「それでちょっとアンタにやってもらいたい仕事があるんだ。ちょっと場所を変えよう」
ギルドから出て街の公園へ。
「多分アンタの想像通りの、ヤバい仕事なんだが」
「殺され役をやってもらいたいんだ」
「ほう? 詳しく説明してもらおうか」
「悪党グループ「ニクロン」を抜けたい若者がいるんだが、抜けるためには制裁というリンチが必要なんだ」
「リンチなら大丈夫なんじゃないか?」
「この制裁ってのは必ず死ぬようになっててな。今まで一度も抜けたやつがいねえんだ」
「なるほど。それならそのニクロンてのを叩き潰しては?」
「なかなか無茶を言うな。不可能だしもし出来てもまた新しい悪党のグループが出来ておしまいさ。この街は昔から様々な場所から悪者が集まってきていてな。あんなやつらでもいないともっとおかしなことになっちまうのよ」
「必要悪か」
「そんなところだ」
「時間と場所は?」
「明日、近くの森でだ」
「わかった受けよう」