第一話 大爆発
都内某所。
大道具部屋にコッソリ侵入する影が2つ。
「あったあった、これが明後日アイツが着る腹マイトセットだな。おう、持ってきた火薬だしな」
「ねぇ先輩。やっぱやめましょうよ」
「ふん、親の七光りで仕事を貰ったやつなんだ。気に入らねえんだよ」
「えー、先輩も言っていたじゃないスか、アイツはすげえやつだって」
「認めてはいるが七光のくせに何でも出来る人間なんて腹が立つだろうが!」
「ただの嫉妬じゃないスか」
「これで良しと。お前はどうすんだ?」
「あ、火薬入れます。よくよく考えたらちょっと腹が立ってきました」
「はっはっは、素直になっときゃあ良いんだよ」
「そっスよね、これぐらいの試練あってもいいっスよね」
「ちょっと火薬増やして驚かすくらいだ。かわいいもんだろ」
「うし、帰るぞ」
「はいっス」
大道具置き場の部屋から出ていく男達。その数分後。
大道具部屋にコッソリ侵入する影が2つ。
「腹マイト、これだな」
「やっぱやめようよー」
先ほどとは違う者達が大道具部屋へ。
「うるせえ、オメーもノリノリだったろ。ん? これじゃ火薬詰められねえな」
「それならマイトを増やせば良いんじゃないか」
「そうだな。一本増えたくらいじゃわからんよな。へっへっ、良い子ぶっているわりにはしっかり考えているじゃねえか」
「まあねー」
このようなやり取り、行動が翌々日までに30回ほど繰り返された。
「よーし。タイカン君、そろそろ出番だ」
「はい」
俺の名前は安久大寛、俳優志望の18歳。そしてこれから、その夢が叶う。
今日は俺が俳優としてデビューする日。しかもやりたかったやられ役。
腹マイトを巻きつけ、敵が多数いるビルに突撃、自爆するという役だ。
(なんか腹マイトの数が多い気がするけど。アレかな? 演出家の方で調整したのかな。ふむ、彼を華々しく派手にデビューさせてやろうという心意気であろう、泣かせるじゃないか)
「がんばれ、タイカン君」
「フシロウさん」
峰斗伏士郎。アクションから探偵までどんな役でもこなす。最近では主演ばかりだったかな。更に芸能界最強の色男とも言われている。その力は見つめただけで女性を妊娠させられると言われるほどだった。
「その目で見ただけで女性が、ゴクリ」
「なんか変な噂信じてない? まあいいけど。君とは主役争いで戦うことになると思ってたんだけどな」
「すみません、俺はやられ役がやりたいんです」
「わかっているさ。君のお父さんはやられ役だからね」
「はい。その血が濃いかと」
父はやられ役。街のチンピラから時代劇の悪い大名まで様々な悪役を演じ、やられてきた。
「お母さんはアクションスター。そっちの血が濃くなってくれれば戦えたのかな、ザンネン」
母はアクションスター。初の本格的女剣客と言われ、一時代を築いたらしい。おかげで昔はたいそうモテたそうだ。伏士郎さんの女版みたいな感じかな。
色々あって父母が結婚、俺が生まれる。数々の英才教育を受けながら俺はすくすくと育った。しかし二人は俺の将来のことで意見が別れる。父はやられ役、母は主役を演じろ、と。
結局俺はやられ役を選ぶことになった。母も最後は納得してくれたようだった。
「まあ、役的には戦うことになるわけだ。これからを楽しみにしてるよ」
「始めるよー」
「ではまた後で、フシロウさん」
「うん、またね」
指示された場所に立つ。
「スタート!」
「あーあ、シケた顔ばかりだなぁ」
「んだてめーは!」
襲いかかってきた数人を順に殴り倒す。
「ヒュー、いい動きだねぇ。あの二人の息子なだけある」
「いや、それどころじゃない、なんか人間の動きを超えてないか? 噂ではイカレタ英才教育を施してきたと聞いていたが本当なのかもしれないな」
「フフフ、この退屈な芸能界の良いスパイスになってくれるのではないかと私は考えている」
「長らく頂点で退屈していたかね、フシロウくん。ハッハッハ、心配しなくても彼ならすぐに君をとらえるのでは」
「そう思います」
上着を脱ぎマイトを見せつけ、セリフを言い放った。
「死にたくないやつぁーここから逃げるこった!」
「ヒッ、ヒィー!」
周りに人が居なくなったのを確認。
よし、近くには誰もいないな。これから爆発するからね、安全第一。
「土守組がなんぼのもんじゃーー!」
腹マイトに火をつける。
「ドガーーーーン!」
大爆発。
「タイカンくーーーん!?」
フシロウさんの声が聞こえた。ふふふ、演技が迫真過ぎて心配させちゃったかな?
それにしても派手な死、いい役を貰ったものだ。やられ役冥利に尽きる。
土煙が徐々に無くなっていく。
「あれ?」
視界が通るようになってから辺りを見回した。先程までスタジオの中にいたはずなんだが、一体ここは。