表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第4話—血まみれの人形の本心—

 ふと目を開けると部屋は薄暗く、微かな光が窓の外から入ってくるだけだった。え、うそ!俺ずっと寝てたの!?しかももう夜じゃん!!俺は慌ててベッドから起き上がり、壁に立てかけてあった時計を確認したらすでに七時を過ぎようとしていた。

 いかん、今日一日のほとんどを寝て終わってしまった…流石にこれはマズいぞ、と思っていたら急に尿意が襲い掛かってきた、そういえばこの世界に来てから一度もトイレに行ってなかったな、幸いこの世界にもきちんとトイレ文化があって助かった、もしなかったら…と想像したらなんか恐ろしくなったので考えるのをやめて部屋を出てトイレに向かうことにした。

 この屋敷にはトイレが一階、二階左右の廊下に一つずつあるのでそんなに遠くなくてありがたい、流石にトイレは普通の広さで安心し、用を足して水を流し、備え付けられている手洗い場で手を洗いながら目の前の鏡を見ると髪が少しべたついていた。そういや昨日風呂入ってなかった、流石に家が広いとはいえ異性と一緒に住むのだからきちんと清潔にしとかないと、なら今から風呂に行くかーと思いつつトイレから出た瞬間、玄関の方から爆発音が響いてきた。俺はビックリしながら爆発音のした玄関へ向かい廊下の陰から玄関を覗いた、そこにはセルシアさんと三匹の子豚…ならぬオークが三匹?いや三人?居た、そしてセルシアさんの足元の床が何故か焦げていてまだ少し煙が出てきていた。


 「やるなら外でしましょ、ここだと後が大変だから」

 「はっ、確かに他所の家を汚すのはいけねぇからお外でじっくりやらねぇとな~?」

 「あらかじめ言っとくが、許してください~って泣いて許しを乞うても絶対止めないから覚悟しとけよ」

 「へへっ早く終わらせて報酬貰いに行こうぜ!」

 「…………」


 そう言いながらセルシアさんとオークたちが庭の端の方へと向かっていた。やる?何を?後が大変、家を汚す、許しを乞うても止めない…まさかやるって同人誌的なヤる!?マズいマズい!暮らし始めて一日目でこんなとんでもハプニングはヤバすぎるって!!流石にこんなの知ってしまったら今後どう接すればいいのか余計に分からなくなる。

 いや待てよ?さっきのセルシアさんの表情とてもうんざりしてるような表情だった、それを見るにセルシアさん本人は本意ではなさそうだった、ということは何かしらの弱みとかで脅されてる可能性がありそうだな、なら養子とはいえ俺もイクティノス家の人間だ、魔法も武術も使えないがそれでも家族として姉を助けなければ!そう決意と共に覚悟を決めて玄関を飛び出し思い切り叫んでやった。


 「お前らセルシア姉さんから離れろ!俺の家族を傷つける奴は容赦なくぶっ飛ば『ブシャァァ!!』して…や…る…」


 なんで最後の方が途切れ途切れになっているのか、言ってる最中に攻撃を食らった?違う、言っていて相手の威圧で萎縮してしまった?それも違う、では何故言葉に勢いがなくなったのか、なぜなら言い終わる前にオークたちが突然大量の血飛沫をあげて倒れたからだ。真ん中にいたオークは体中に無数の惨いほどの斬り痕ができており、もう一人は体中穴が開いていてまさにハチの巣みたいになっていた、そして最後の一人が一番酷い状態だ、体中の関節や首が捻じ曲がっていて生物としての原型が無くなっていた。まさか異世界特有の謎覚醒で俺に力が目覚めたのか?

 そんな無惨な姿のオークたちを見て唖然としながらそう考えていた。


 「見てしまったのね」


 そう声が聞こえ、はッとなり倒れているオーク達から目線を上げるとそこには全身を血で染め上げたような姿のセルシアさんが立っていた。


 「これもしかしてセルシアさんの力ですか?」

 「ええ、これは私の魔眼の力、『惨殺眼(スローター)』と私は呼んでいるわ」


 やっぱ俺の覚醒した力ではなかったか。惨殺…言葉通り惨い死に方をしている、この力が欲しいかと言われたら欲しくはない分類の力だ。

 そよ風が吹き始めセルシアさんが「私はね…」と語り始めた。その内容は、この魔眼が発現したきっかけ、何故同じ魔族から距離を置かれているのかを語ってくれた。その話を聞いてなぜ屋敷に使用人が居なかったのか、なぜ魔王さんが彼女の話になると多くを語らず悲しげな表情をしていたのかその理由が理解できた。

 きっと魔王さんは信用できるセルシアさんに出した自分の命令でセルシアさんが周囲から恐れられ孤独になってしまった事に負い目を感じているのだろ。、別に命令した魔王さんが悪いって話ではない、ただただ偶然な不幸が重なってこうなってしまったんだと俺は思った。


 「どう、私が怖いでしょ?私の左目は何でも無惨に壊してしまう恐ろしくておぞましい目、きっと貴方も何かの拍子に殺してしまうかも…そうなりたくなかったらこの屋敷から去ることをおすすめするわ」


 そう言った瞬間、少し強めのそよ風が吹きセルシアさんの左髪が大きくなびいて蒼い瞳が見えた。その蒼い色をした瞳には妖艶な雰囲気を纏い見た者を魅了し狂わせてしまいそうほど綺麗な色をしていた。


 「綺麗な蒼い目ですね」

 「え?…貴方この魔眼が綺麗だというの?何人もこの左目で殺したのよ?」

 「綺麗ですよ、できるならもっと近くで見たいほど綺麗な瞳ですよ」


 そう言い俺はセルシアさんの元へ少し歩み寄ると「来ないで…」と言いながら少し後ずさった。


 「それ以上近寄らないで、私はもう孤独に居たいの!お願いだから私の前から消えて!!さもないと…」


 そうセルシアさんが言うと左の瞳にほのかに光が宿った。なるほど魔眼を使おうとすると左目がほのかに光るんだな、ほのかに蒼く光った左目もなかなか綺麗だ…それに後ろからの月あかりでセルシアさんも血まみれなのに美しく見え凄く幻想的だった。そう心の中で思いながら俺は「来ないで…」と言っているセルシアさんを無視し歩み寄る。


 「どうして…どうして近づいてくるの…貴方を殺そうとしてるのになんで止まってくれないの…死ぬのが怖くないの?」


 そりゃあ俺だって死ぬのは怖いよ、魔眼で俺を捉えてるんだからいつ俺が次の瞬間に肉塊になっているか恐怖しかない、なのにどうして歩みを止めないかって?だって「殺す、本当に魔眼で殺すよ」って言っているのにどうして――


 「どうして俺が一歩近づくたびに嬉しそうに涙を流しているんだ?」

 「えっ…」

 そう俺が伝えるとセルシアさんがやっと今自分が泣いている事に気づいた。


 「どうして私、泣いて…」

 「セルシアさん、あんたの本心は孤独を望んでるんじゃなくて傍に居て欲しかったんだよ、だから俺がセシリアさんの真実を知っても遠ざからず、近くへ行こうとしてるのをあんたの本心は喜んでいるんだ」

 「違う、私は本当に孤独を望んでいるの!もう誰かが私の力を見て怯えながら私の元から去っていくのを見たくないの…!」


 そう泣きながら否定するセルシアさんだが、遂に後退すらしなくなりもう一歩で身体が密着する距離にまで近づいた、突然降り始めた雨の音にかき消されそうな声でセルシアさんが「やめて…お願いだから私にもう光を…せっかく諦めた希望の光を見せないで……」と言っているセルシアさんの手は俺の裾の端を弱々しく握っていた。身体にまで本心が表れているのなら家族として、いや男としてやることは一つだ。

 俺はセルシアさんを優しく抱きしめた。


 「ッ……!!」

 「大丈夫、俺は絶対セルシアさんの前から居なくならない、たとえこの先また他の奴らが怖がってセルシアさんから逃げ出しても俺はちゃんと傍に居るから」


 そう抱きしめながらやさしく言うとセルシアさんが今までため込んでいた寂しさが爆発したように大声をあげて泣き叫んだ。


 「怖かった!このまま国からも私は遠ざけられるんじゃないか怖かった!それに皆から恐ろしい物を見るような目で見られるのが辛かった!私だって好きで殺しをしてる訳じゃなかったのに!!」

 「あぁ…分かっているよ」

 「お願い…もう私を見て怯えないで…私から遠ざからないで…」

 「俺はセルシアさんの力を見て一瞬だって怯えてないから安心しなさいな」


 そう言いセルシアさんの少し血の付いた赤い髪を優しく撫でてやると俺を強く抱きしめながら再び泣き始めた。

 夜空を見上げると雨が段々小雨になっていて既に服がびちょびちょでお風呂が恋しくなってきたなぁーなんてことを思いながら姉が泣き止むまで頭を撫で続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ