第3話—姉という存在—
城の門をくぐった先にはまるでテレビとかでたまに見る外国のセレブ街のような屋敷や家がドドンといくつも建っていた。真っすぐ続く道を少し歩き一度左へ曲がりまた真っすぐ歩いていると急に違和感を覚えた、なんか建物が急に減った、というか建物どころか平地だらけでいきなり田舎みたいになってきたんだが…。
左を見れば遠くに城壁がそそり立っており、右を見れば建物はあるが今俺が歩いてる道から建物二つ三つ入る程遠い距離にあった。
流石に気になったので魔王さんに聞いてみることにした。
「なんでこんなに平地続きになっているのに建物が全く無いんですか?」
「色々あってな、イクティノス現当主は他の者たちから恐れられていてこのように近くに住んでいた者達が距離をとる為に家を移してしまっている状況だ、すまないが詳しい事は本人に直接聞いてくれ」
そう言った魔王さんの顔は少し悲しげだった。
そして「ここだ」と魔王さんが言い鉄の門前で立ち止まった、そして門の横に備え付けられているベルを魔王さんが指で鳴らすと門が開いた。そこには他の屋敷より二倍以上の広さがありそうな庭、二階建てで横に広く、まるで小さな学校と言われても違和感がない家。そして目の前にロングの赤い髪で左側だけ髪で目が隠れている女性が立っていた。
「お待ちしておりました陛下、それとハルアキさん」
そう言うと軽く会釈をしてきたので反射的に俺も会釈をしてしまった、女性は俺の顔を少し見続けまた魔王さんに向き直った、その一瞬目が合ったのだがその緋色の瞳の奥にはこの世に期待も希望も無いと絶望してる暗さを感じた。
「いや予定の時刻より少し遅れてすまない、それに今回は急な願いをしてすまないな」
「いえ私は本日予定が何もないのでお気になさらず、それにこの件についても陛下直接の頼みでしたら私が断る理由がありませんので」
「お前はもう少し自分に選択肢を与える事をだな、まぁ今回はそんなことを言いに来たわけじゃないからその話は置いといて、ハルアキこいつが今日からお前の姉でありイクティノス家当主のセルシア・イクティノスだ」
そう言いながらセルシアさんの肩を叩く魔王さん。えっこの人が当主なの!?てっきり使用人かと思ってて当主はガタイの良いおじさんぽい人かな~と勝手に予想してた、だって外見的にも俺と同い年か一つ下に見えるし…。ほんと世の中分からない事だらけだね~。
心の中でそんなことを言っていると魔王さんが「では後の事はセルシアに任せるから良い子でいろよ?」とふざけながら言うといきなり地面から魔法陣が出現し魔王さんが一瞬で消えた。…え?いきなり二人きりにすんの?!流石に何の会話も無しに二人きりはまずいって!そう心の中で叫びつつセルシアさんに視線を向けると相手も俺の方を無言で見続けてきた。
「…………」
「……………」
「…………」
どうすんのこれ!?気まずすぎてお腹痛くなってきたよぉ、頼む誰かこの状況から助けてくれ…
「じゃあ屋敷を案内するからついてきてハルアキさん」
「んへ?あっはい!」
「………」
唐突すぎて変な声出ちゃったじゃん!と心の中で突っ込みを入れながらセルシアさんに付いて行った。
こんな空気のため途中会話が発生することなんてあるはずがなく無言のまま屋敷へ着いた、道中この地獄の中ふと昔に賢吾が連れてきた友人と三人で買い物しに行ったとき賢吾が途中銀行に金を下ろしに行って賢吾の友人と十分以上無言で待っていた時を思い出させた、今回はあれ以上に地獄だった…。
そしてセルシアさんが玄関を開けるとそこに使用人が…居ない、誰も出迎えとか居なかった、玄関のエントランスはとても広くてこのスペースだけで生活が余裕で出来そうな程だ、一階二階にはそれぞれ左右の廊下がありその手前にはいかにもお屋敷にありそうなレッドカーペットを敷いた大きな階段が一階と二階を繋げていた。
「じゃあ部屋は二階の右端の部屋がハルアキさんの部屋、あと浴場は一階の左端の所で食事の間は浴場の三つ隣の所だから自由に使って」
「わかりました、この後は俺なにかする事とかあります?」
「ないわ」
「あっはいわかりました」
そう言うとセルシアさんは一階右側の廊下を歩いていき扉が並んでいる中に一つだけ両開き扉になっている部屋に入ってしまった。
「………自分の部屋に行くか」
独り言をこぼしながら言われた通りの二階の角部屋に行き中に入った。うーん、広い!流石に城の客間ほどではないがそれでも十分広かった、ベッドもキングサイズは余裕であるし、ベッドの横にある机も俺の部屋にあるパソコンデスクより大きい、そして城にあったテーブルとソファーのセットもこの部屋にありそれがあっても余裕のスペースがあった。こんな凄い部屋俺なんかが使っていいのかねー、そう思いながらもベッドに飛び込んだ。これ一回やってみたかったんだよね、ベッドにダイブ!こんなにふかふかで気持ちいいと寝てしまいそうだ――——
====================================
『あいつは主の命令に順守し命令があれば仲間、友人、子供や自分の家族にだって容赦はしない』それが周りのイメージだった。
そのイメージは半分合っていて半分は違う、私はただ陛下の命令で裏で陛下を暗殺しようと陰謀を企てている輩達を始末しそれがかつての親友、そしてもう一人が私の父だったというだけだ。
だが私もあの時の私は決して無慈悲に殺した訳ではない、私は泣き叫びながら必死に二人に投降するよう説得した。しかし親友は「ごめん…ごめんね…わたしはもう…!」と謝るように言い、しかしその顔は笑っていた。そして親友は笑いながら一切の躊躇なく私に短剣で切りかかってきた。
私はその斬撃を躱し父の方に視線を向けると父はまるで憎き敵を見るような眼をしながら私を睨みつけ「ワタシが王になれば全てが思うままになる!お前は親の、一族の野望を邪魔するというのか!!」と手を突き出しそこから闇の炎が私に襲い掛かってきた。
黒炎の炎を片手で防ぎながら私はこう思った、「あぁこのままでは私は殺され、陛下もきっと殺されてしまう…なら私はこの二人を止めなければいけない。たとえ相手が親であろうと―—」そう心に決めた瞬間、私の左目に痛みが走り一瞬左目を閉じて痛みを堪えた、そして再び左目を開けた次の瞬間、親友と父が突然無数に切り刻まれ大量の血飛沫をあげながら地面に崩れ落ちた。
私は何が起きたのか解らず混乱していたが念のため、とどめを刺す為に横たえている二人に近づき顔を見てみると既に息絶えていることがわかった。
死を確認した私は何も考えず、雨の中バルートへと帰還した。
陛下へ報告する為に城へ向かっている最中街の人たちが私を見て怯えていた、なんで私を見て怯えてるのだろうと思いながら城へ着き陛下に事の詳細を報告した。
「すまない事を頼んでしまったな、後処理は他の者に任せてあるからお前はしばらく休め」
「とんでもございません、陛下の命の危機でしたら私は…」
「もういい!早く下がって休め」
「…わかりました、今日は失礼いたします」
そう言い私が部屋を出る瞬間、陛下が「なるべく着替えとか使用人にやらせろ、お前は鏡を見るなよ」と言うのが聞こえた。
私はそのまま屋敷へ帰り使用人を呼び出したが使用人たちは私の姿を見た瞬間、街にいた人達と同じく怯えていた、私が再度声をかけると「ひっ!」と声を上げて竦んでしまっていた。そして私は無意識に左を向くとそこに姿鏡があり、そこには『赤い服』を着て『蒼い』左目から血涙のように血が流れた後が残っている女が居た。おかしい私は今日、白い服を着ていたはず…そう考えた瞬間、私の意識が途切れた。
その後噂に勝手に尾ひれが付き、周りから魔王の命令なら親友でも子供でも家族でも無慈悲に殺す女『血まみれの人形』と呼ばれ恐れられるようになった。
それからはもう誰も私に近寄ってこなくなった、使用人も日を追うごとに辞めていき最後にはこの屋敷に私一人だけになった。
その後も新しい使用人を雇ってもすぐに私の噂を知り辞めていった、そのうち私は使用人を雇う事すらしなくなり、必要最低限の時以外は屋敷内にいる事にした。それでも私の噂は止まらなくなり、ついに屋敷周囲さえ建物ごと移住して私から逃げるように離れていった。
こうして何回も私の元から色んな人が去った、だがもうそんなことにも慣れてしまった、何も期待せず一人孤独にいる事に慣れたはずなのに…
「誰か、誰か私の近くに居て。私はそんな残忍な人じゃない。だからお願い、私を遠ざけないで……」
心の奥底ではいつでもそう泣いていた。